作品タイトル不明
27-11 搭載艇
手を洗って戻って来た仁が席に着くと、夕食となった。
献立は白米のご飯、目玉焼き、麩の味噌汁、昆布(としか思えない海藻)の佃煮。
「私なりに考えてみた、宇宙船でも出せそうな献立」
と、エルザが説明する。
「なるほど、お米は保存が利くし、卵も長持ちするからな」
「そう。お味噌は元々そういうものだし、麩も保存食。佃煮だって長持ちする」
仁はそれらを食べて感想を口にする。
「しかも美味しいしな! エルザ、ありがとう」
「ジン兄が食べていたという『カレー』、再現できればいいのだけれど……」
スパイスの配合がわからないため、未だ実現できていないメニューの一つであった。
「ああ、カレーか……食べたいけど、難しいよな。ウコンと胡椒、唐辛子くらいしか知らないんだよな……」
さすがの仁も、スパイスの配合までは知らなかったし、『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィもカレーの再現はしていなかったのである。
それでも、この献立が1日1回なら、数日続いても大丈夫だ。
「お味噌汁の具は、他にも乾燥ワカメ(そっくりの海藻)や切り干し大根(そっくりな根菜)も使える」
「意外と日本食は保存が利くものが多いんだな」
「ん。あとは、小麦粉を使って、その都度パンも焼けると思う」
でも酵母が使えない可能性はあるけど、と補足するエルザであった。
「うーん、それでも、これだけの献立なら十分だよ。ありがとう、エルザ」
「役に立てて、よかった」
仁に喜んでもらえ、エルザも嬉しかったとみえ、顔が綻んでいた。
食後のお茶はほうじ茶。
「これも、持って行けると思う」
「ああ、そうだな。いろいろと助かったよ」
また明日も頑張ろう、という気力が湧いてくる仁であった。
* * *
レーダーの開発は思ったより難しかったので、翌日以降、仁は他の装備の開発を優先することにした。
まずは偵察機。
形状はペガサス1をベースにし、 力場発生器(フォースジェネレーター) 駆動にしたものだ。
これは元になるものがあったのであっさり半日で完成してしまう。
「いざという時のために武装もさせないとな」
と考えた仁は、レーザー、 魔力砲(マギカノン) 、 麻痺銃(パラライザー) 、 電磁誘導放射器(インダクションラジエータ) などを取り付けていった。
その作業中に、不意に閃いたことがある。
「コンロン2と外観がそっくり同じ宇宙船を造ったら面白いかも」
コンロン2は飛行船であるが、形状としては宇宙船ぽく見えなくもない。
「それはそれで面白そうだな」
そんな呟きを老君は聞いていた。後ほど何かするであろう。
「お父さま、そろそろお昼です」
助手を務めていた礼子が、時間を見計らって声を掛けてくれた。
「ああ、そうか。一旦休憩だ」
偵察機も出来上がったので、あとは老君と 職人(スミス) たちに任せればいい。
仁は研究所裏手の大型ドックから出て、家へと歩いて行った。
天気は上々。5月の空は青く澄んでいる。
「ジン兄、おかえりなさい」
「ただいま」
自然にそんな言葉が交わされる。
「今日のお昼も、宇宙船用に考えた献立。乾麺を作って、それで作ってみた」
「へえ」
仁が見ると、それはうどんであった。確かに、乾麺にしたうどんは長持ちするし、めんつゆだって濃く作っておけば保存が利く。
陽気がよくなったのでつけ麺、つまりざるうどんだ。
茹で戻したうどんを冷水で締めてざるに盛る。
カツオブシで出汁を取ったつゆに付けて食べる。薬味は乾燥した長ネギもどき。
「うん、美味い」
つるつる、とうどんを啜りながらジンは喉越しの食感を楽しんだ。
「やや細めの麺なのがいいな。それにつゆの味もいい」
仁は細めのうどんが好みである。つゆが良く絡むからだ。
「もっと麺を細くして冷麦にもできると思う」
「ああ、そうだな。たまにこういう麺類もいいな」
こうした献立が出てくるというのはありがたい。
エルザの尽力に仁は感謝した。
* * *
「さて」
昼食を済ませ、心機一転とばかりに仁は一つ背伸びをし、工房の椅子に腰を下ろした。
「万能車両を作ってしまおう」
訪れた先を調べるにしても、空からだけでは十分ではないのだ。どうしても陸を進める車両が必要になるときもある。
「問題は、タイヤか、無限軌道か、それとも脚か」
悩む仁。
「ええい、こんな時は」
4輪駆動車と4脚歩行車の両方を用意することにした。
「どんな場面でも対応できないとな」
どちらも作った実績があるので、礼子と 職人(スミス) に手伝ってもらえば、駆動部分はすぐに完成した。
「あとは、気密されたキャビンやエアロック、それに……」
真空や有毒な大気があっても大丈夫なようにすること、出入りするためのエアロック、もちろん宇宙船に準ずる生命維持関係の装置を盛り込む。
更に、 力場発生器(フォースジェネレーター) も搭載し、短時間なら飛べるようにもした。
脱出用の 転移門(ワープゲート) や武器なども備え付け、夕方にはそれぞれの試作が完成した。
「……ジン兄、すごい」
途中で見にやって来たエルザも半ば呆れている。
「で、名前は?」
「うーん、そうだなあ……」
偵察機、4輪駆動車、4脚歩行車。
「偵察機は『モスキート』、4輪駆動車は『リザード』、4脚歩行車は……『バイソン』にしよう」
「ん、なんとなくわかる」
それなりに地球にいる生物に関する知識もあるエルザにはどんな生物か、なんとなくわかったようである。
こうして、宇宙船用装備は順調に調えられていくのであった。
だが。
「ジン兄、一つ思いついたことがあるんだけど」
夕暮れ迫る空の下、エルザが真剣な顔で切り出した。
「何だい? 聞かせてくれ」
「……もし、もしも、だけれど、『 自由魔力素(エーテル) 』が無くなったらどうなるの?」
「え……?」
あらゆる魔導具のエネルギー源である 自由魔力素(エーテル) 。それが無くなったらどうなるか。
答えは『停止』である。
「そうならない保証はない。何とか、できない?」
「うーん……」
いつになく真剣なエルザ。
『魔法』工学師である仁も真剣に受け止めざるを得なかったのである。