作品タイトル不明
27-01 試作宇宙船
5月5日朝、仁は蓬莱島の家で目覚めた。
鳥の声が聞こえるだけの静かな朝である。
エルザは実母ミーネと共にカイナ村。今、蓬莱島にいる人間は仁だけであった。
「ああ、よく寝た」
「お父さま、お目覚めですか」
仁が目覚めたことを察した礼子が襖を開け、姿を見せた。
「ああ、疲れもすっかり取れたよ」
「それは良かったです」
「今日から宇宙船に取りかかるからな」
「はい」
仁が異民族の国を訪問していた1ヵ月ほどの間、老君主導で宇宙船の試作と運用試験を行っていたのである。
今日はその報告を聞く日なのだ。
仁は礼子が作ってくれた朝食を食べ終わると、研究所に向かった。
前庭には、直径10メートルの宇宙船が置かれていた。
「昨日も見たが、これでも大きく感じるな」
ほぼ球形をした宇宙船である。乗員は『リトル 職人(スミス) 』と同サイズ。身長40センチのミニサイズゴーレム、『アストロ』シリーズである。
仁の4分の1という大きさなので、試作する際の時間と資材を節約できたわけである。
『 御主人様(マイロード) 、それでは簡単にこれまでの経緯を説明させていただきます』
「ああ、頼んだ」
蓬莱島研究所の司令室で、仁は老君からじっくりと説明を受ける。
『最初は、16分の1サイズということで、ミニ 職人(スミス) 用のサイズで試作を行いました』
ミニ 職人(スミス) は身長10センチである。
『直径2.5メートルの宇宙船は、最初の試みとはいえ、2日で建造できました。それを用いていろいろと試験をしていったのです』
仁が提唱した球形宇宙船のためのノウハウを蓄積するのに4日間掛かった、という。
『一番は安定を保つための方法です』
「ん? どういう意味だ?」
『はい。重力がある空間であれば、鉛直方向は一意的に決まりますので、水平な平面も自ずと決まります。ですが宇宙空間になりますと……』
「ああ、そうか。基準にできるほどの重力が働かないんだな」
『仰るとおりです。とはいえ、試作宇宙船はアルスの重力圏内でしか運用しておりませんが』
そこから得たデータを演繹し、問題点を洗い出した、ということだった。
基準点がないと、回転運動を始めた場合に止めることが難しくなる。
かつて、静止衛星『サテライト』を打ち上げようとして失敗したことを思い出す仁であった。
『これは、宇宙船を複数運用する際には特に重要になると思われます』
「ああ、確かにな」
艦隊として行動する際に問題になるのが基準点の共用である。
進行方向は決められるが、基準平面が各宇宙船ごとにまちまちだと、向きが揃わないのだ。
仮に、旗艦から『上方30度に進路変更』のような指示が出た場合に困る。
もちろん、航法の問題でもあるので、基準となる天体を決めておけばいいのだが、それでも各宇宙船にとって『方向』が異なるというのは好ましくない。
『第一の基準面は、惑星アルスの公転軌道面を基準にします』
特に指示がない場合は、アルスが公転する円(正確には楕円)に平行な平面を基準とするわけだ。
『第二として、艦隊行動をする場合は旗艦の向きを基準にします』
「それはそうなるだろうな」
旗艦が取り舵といったら全艦左に転進するわけだ。
『このように、三次元での行動にはいろいろと新たな基準を設ける必要がありました』
「なるほどな。わかるよ」
『基準となるものに乏しい宇宙空間ですが、このように基準を決めたため、航法は楽になりました。とはいえ、まだこのセラン太陽系内だけで、ですが』
「いや、それはいい。いきなり太陽系外へ行くつもりもないし」
『恐れ入ります。そこで、次の段階として、発進と着陸の問題です』
重力を振り切って宇宙空間へでること、そして大気圏への再突入、ということである。
これに関しては『サテライト001』、そして『ファルコン1』が大気圏に再突入した際のデータが役に立った。
『もちろん、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使った力業も可能です。ですが、それに加えて、できるだけ効率的な運用もできるようにしたいと考えました』
「ああ、それは正しいと思う」
宇宙進出に対しては、『サテライト001』の失敗以来、慎重になっている仁であった。
『姿勢制御のために、アルスの地磁気を利用した水平儀も用意しました。アルス近傍であれば十分有効です』
仁の慎重さを受け継ぎ、老君も二重三重の安全措置を取っていた。
『乗員の会話は全て内蔵 魔素通信機(マナカム) を使います』
真空中でもそれなら問題はないわけだ。
『大気圏再突入時の対策として、専用の『風避け結界発生装置』と『超強力物理 障壁発生器(バリアプロジェクター) 』を搭載しました』
風避け結界は、今のところマッハ3より速い速度では空気分子をどかすことができないのである。
物理 障壁発生器(バリアプロジェクター) により、断熱圧縮された空気による過熱から船体を守る。同時に、風避け結界により空気の衝突を緩和する、というわけである。
『これらを搭載した2.5メートルの試作宇宙船は大成功でした』
「おお、そうか!」
『1度目は成層圏を抜け、再び着陸するだけでしたが、まったく問題はなく。2度目は静止衛星高度でアルスを1周。これも大成功でした』
「それは朗報だな」
『これを受け、4分の1サイズの試作を建造開始しました。同時並行で、1号船でのデータ取りも進め、最高速度試験や加速度試験などの限界値を確認しました』
最高速度はおおよそ、秒速300キロ、最大加速度は20Gであった。
「試作にしてはすごいな……よくやってくれた」
『ありがとうございます、 御主人様(マイロード) 』
「で、その4分の1サイズが前庭にあったやつだな?」
『はい、そうです』
そして老君は試験結果を報告する。
『動力性能、運動性能は問題無し、です。ですが、試験飛行中に1つ問題が発生しました』
「それは?」
『静止軌道の外ででしたが、宇宙塵、というのでしょうか? ごく小さな浮遊物と衝突し、外殻が傷付いたのです』
「なるほど……」
宇宙空間といえども、完全な真空ではない。
微小な隕石や極小の宇宙塵であっても、超高速で飛ぶ宇宙船には致命的なものになり得るのだ。
「宇宙でもバリアは必要不可欠だろうな」
『はい、それはもう』
同意する老君。
『ですが、今のままでは強度が不足しております』
「そうか……」
秒速300キロといえば、地上ではマッハ880を超える。
礼子の専用武器、 魔力砲(マギカノン) の最高出力でもマッハ80である。その10倍以上の速度で激突されたら、微小な宇宙塵といえども強烈な破壊力を持つことになるのだ。
「うーん……」
仁は、バリアの強度を上げる方法をいろいろ考えてみる。
もっとも単純なのが、重ね掛けだ。 障壁発生器(バリアプロジェクター) を2基にすれば、倍の強度。3基にすれば3倍の強度になる。
だが、あまりスマートではない。
「もっと効率を上げるには……」
考え込む仁。だが、その顔は嬉しそうだ。新しいものを考えるのが楽しくて仕方がないという顔である。
そして仁は、一つのアイデアを思いつく。
「そうだ! ……風避けと同じ構成で、物質避けの結界を張ったらどうだろう」
『なるほど、原理的には可能ですね』
風避けの結界は、空気分子を移動させるわけだから、対象をもっと大きい物体にすればいい、と仁は考えたのである。
だが、さらにとんでもないアイデアを考えつく仁。
「……待てよ? 物体をどかすなら……『 転移門(ワープゲート) 』があるじゃないか」