作品タイトル不明
27-02 宇宙服開発
「転移結界を進行方向に展開し、後方へ転移させてしまえば、どんな障害物があっても船体にぶつからないだろう。だが……」
しかし、常時展開していたら一つ問題がある。
「前が見えないよなあ……」
そう、転移結界の向こう側は見えないのである。
正確には、灰色とも闇色ともつかない、混沌とした『何か』が『見えている気が』するだけだ。
「でも、この 障壁(バリア) を開発したら無敵かもなあ」
どんな物理攻撃でも転移させてしまうのだから、本体には傷一つ付けられないという理屈である。
「でもまあ、そういった妄想に近いアイデアは置いておくとして」
が、その呟きを老君が聞いていたことには気がついていない。仁は改めて宇宙空間での速度アップについて考えていく。
「あとは……そうか、風避け結界と物質避け結界、の重ね掛けでかつ、形状を円錐形にしたらどうだ?」
形状を変えることで、効率も変わるかもしれないと考えたのである。
『 御主人様(マイロード) 、円錐形 障壁(バリア) は効果が期待できそうです』
「よし、さっそく実験しよう」
こうして、10メートル級宇宙船の 障壁発生器(バリアプロジェクター) が改造された。
これは簡単な内容なので、20分で終了。その後、試験となる。
『 御主人様(マイロード) 、まずは成層圏付近で試してみたいと思います』
「そうだな。希薄でも大気が少しあるあたりで確認するのが手っ取り早いかもな」
いよいよ発進である。仁は、己の目で見る初めての発進だ。
ではあるが、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』での発進はあっけない。
無理のない加速度でスタート。それでもあっという間に見えなくなった。
『 魔力探知機(マギレーダー) で追尾しています。また、『ウォッチャー』からの映像も見ることができます』
老君は仁にそう告げると、 魔導投影窓(マジックスクリーン) 上に宇宙船を映し出した。
「なるほど、こうしてみると感慨深いな」
サテライト001で失敗した苦い教訓を踏まえ、ここまで来ることができたのである。
『成層圏上部に達しました。最高速度のテストを行います』
円錐状結界がどのくらい効果が上がるか、いよいよわかる。
『加速します』
老君からの指示が、 魔素通信機(マナカム) を通じて宇宙船内の『アストロ』ゴーレムたちに伝達された。
「おお!?」
ウォッチャーから送られて来ている映像内の宇宙船が一気に小さくなっていく。
『画像を切り替えます』
進行方向にあるウォッチャーからの映像に切り替わった。
画面内で宇宙船は猛スピードで近付いてくる。
『 御主人様(マイロード) 、成功です。およそ6倍の速度が出ています』
「おお、そうか!」
円錐の形状を最適化すれば、もう少し向上する可能性もある。仁の胸は高鳴った。
『およそ秒速2000キロメートル。最大加速度は25G』
障壁(バリア) と加速度は無関係なので、20Gから25Gへのアップは、単純に形状を大きくしたことによるものだろう。
『大成功です』
「うん」
この4分の1サイズの試作宇宙船を用いて、居住性などのテストが行われる予定だ。
10メートル級であれば、小動物を乗せて試すこともできる。
『その際は、転送機で一気に宇宙空間へ送り出します』
「ああ、その手もあるんだな」
非常手段というか裏技というか。
『はい、 御主人様(マイロード) 。目標としては、今月中に1分の1の宇宙船を完成させることですので』
「おお、いいな」
そうしたら、仁もそれに乗って宇宙に出ることができるのだから。
「お父さま、危険です」
今まで無言だった礼子からまったが掛かる。
「宇宙には危険がいっぱいです。できましたらお父さまには行ってほしくありません。わたくしでさえ、お父さまに作っていただいたこの身体がなかったら無事では済みませんでした」
失敗した『サテライト001』を回収する際、ギリギリの綱渡りだったことを持ち出す礼子。
「心配してくれるのは有り難いが、だからこそできる限り安全なものを作ろうというんだ」
仁も反論する。
「……やっぱり、お行きになりたいのですね……」
こういうことで、仁が引かないことを知っている礼子は、溜め息をつく仕草をした。
『礼子さん、それまでにできる限りのことをしますから』
老君も礼子をフォローした。
「うん、俺は俺で、必要になりそうなものを開発するとしよう」
「お手伝い致します。でもまずは昼食をお摂り下さい」
「ああ、もうそんな時間か」
ソレイユとルーナが用意してくれた昼食を済ませると、仁は礼子と共に工房へと移動した。
こちらにも 魔素通信機(マナカム) はあるので、宇宙船のテストで何かあっても、すぐに連絡がつく。
「まずは宇宙服だな」
万が一、空気が漏れても大丈夫なようにする服、ということである。
「素材をどうするか、だ」
今、仁が考えている素材は2つ。
『 地底蜘蛛樹脂(GSP) 』
『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革(抜け殻)』
である。
「これは比較試験をしてみたいな……」
強度や耐熱性に関しては、どちらを使っても問題は無さそうな気がしているが、真空と極寒という環境、そして劣化を考えると、答えが出ないのである。
そこで仁は老君に素材の比較試験を指示した。
『 御主人様(マイロード) 、承りました。つきましては、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革』のサンプルを使用する許可を下さい』
「ああ、それはもちろんだ」
非常に貴重な素材、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革』は仁の許可がない限り使用できないことになっているのだ。
「さて、宇宙服の素材に関しては老君からの報告待ちとして」
宇宙服の機能に関してはまだまだ必要なものがある。
1.人工重力
2.排泄物の処理
3.姿勢制御
4.会話
5.食事
6.保温・断熱
7.有害な放射線の遮断
8.自衛
9.呼吸
仁は思いつくままメモしていく。
専門家でも何でもないので、優先順位はわからないし、現代地球で運用されているものとの比較もできない。
だが、いずれも、今の仁が持つ技術で解決出来ると思われた。
1は重力魔法、2は『 分解(デコンポジション) 』や『 浄化(クリーンアップ) 』、3は 力場発生器(フォースジェネレーター) 。
4は 魔素通信機(マナカム) 、5が要開発で6は素材次第。
7も素材に負うところが大きいが、結界を張ることも可能。8は 障壁(バリア) と武器、そして9も要開発、ということになる。
「まずは宇宙服を着た状態での食事か……」
食糧としてはペルシカジュースをベースにすればいいと仁は考えている。高カロリーであり、ビタミン、ミネラル、水分も摂れる。
「となると……」
ハイドレーションシステムというものがある。登山やトレイルランニングなどで、いちいち水筒やコップを取り出すことなく、口元へ伸びるホースを咥えて水を飲めるシステムである。
「ああいったタンクを宇宙服に設けて、好きな時に飲むようにするか」
少なくとも、3食分くらいの容量は必要だろう、と仁は考える。
「あとは外部から補給できるようにするか、あるいはカートリッジ式もしくはタンク式にするかだな」
色々考えを巡らす仁。
『宇宙服とは、一人用の宇宙船である』
と、何で読んだか、誰から聞いたのかは定かではないが、仁はそんなことを考えながら仕様を詰めていったのである。