軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-49 次の目標

翌日の朝食後、仁はエルザ、サキ、トア、グースを連れ、『コンロン2』で 宮城(きゅうじょう) へ向かった。

お伴は礼子のみ。今回、ハンナは屋敷でお留守番である。

「グース、本当にいいんだな?」

帰化するための申請にあたり、仁は最後の確認を行った。

「ああ。昨日トアさんと話をして、俺はこちらの国に所属することに決めたよ。向こうにはもう係累はないし……」

「そうか。それならいい」

フソーには戸籍制度のようなものは無いそうなので、そちらの問題はない。

「ほら、もう 宮城(きゅうじょう) だ」

あっという間の空の旅を終え、コンロン2は専用の着陸床に降下した。

いつもの警備兵がやって来て、仁に挨拶する。近衛騎士と宰相のユング・フォウルス・フォン・ケブスラーも飛んできた。

「『崑崙君』、ようこそ」

「陛下にご報告することが沢山あるんですが、ご都合はいかがでしょうか?」

これは宰相に、である。

「陛下におかれては、昨日午後より、『崑崙君』がいつ来てもいいようにと執務を控えておってな……」

「ええー……」

一瞬言葉に詰まった仁であったが、にやにやする宰相の顔を見て、冗談だと気が付いた。

「宰相、冗談がきついですよ」

「いや、すまん。だが、執務中に『ジン君来ないわねえ』と、20回以上聞かされたこっちの身にもなってくれ」

疲れた顔の宰相だが、

「それは……ご愁傷様です」

としか言えない仁であった。

一旦、小応接室に通される仁たち。そこへ、まずは仁だけが呼ばれた。もちろん礼子は一緒に付いていく。

「ジン君、お帰りなさい。旅行は楽しかったかしら?」

執務室に通されると、いきなり女皇帝からの質問が飛んできた。

「え、ええ。色々得るものも多い旅でした」

と答えながら、報告書を提出する仁。もちろん『木紙』に書かれたもので、昨夜大急ぎでまとめたものである。

「あら、さすがね。手際がいいわ。あとでゆっくり読ませて貰うわね」

と言って受け取ったあと、女皇帝はそれを宰相に回した。

「あと、これが旅で見つけた道具を再現したものです」

置き時計を差し出す仁。木製の筐体に懐中時計と同じムーブメントを嵌め込んだものだ。

「まあ、これは何かしら?」

「置き時計、といいます。短い針が時間、長い針が分を表します。12時間計と言いまして……」

説明を聞き、置き時計をしげしげと眺めた女皇帝は、破顔一笑。

「素晴らしいわ! ありがとう、『崑崙君』」

仁は、動力であるゼンマイの巻き方や、誤差があるので時々修正する必要があることなどを補足説明した。

「魔法を一切使っていないのね。すごいわ」

魔法工学の産物ではないとはいえ、今のところ蓬莱島でしか作れないのであるが。

「さて、今日は何か頼み事みたいなものがあるのではなくて?」

勘のいい女皇帝である。

「はい、実は……」

と、仁はグースのことをかいつまんで説明した。

「なるほど、わかりました。トアが彼……グースの後見人になる、ということで帰化を認めましょう」

「ありがとうございます」

元々、そうしてもらえるよう頼むつもりで、トアはついてきたのであるから、願ってもないことである。

「で、隣の部屋に呼んであるのよね、宰相?」

「はい。トア・エッシェンバッハ、その娘サキ、そしてグースがおります」

ユング・フォウルス宰相が答える。

「3人とも呼んでちょうだい」

こうして、グースは女皇帝への拝謁を賜り、帰化を認められることとなったのである。

「……さすがに緊張した」

グースも、女皇帝にいきなり呼ばれるとは思ってもいなかったらしい。

「トアさん、これからよろしくおねがいいたします」

それでも、きっちりと挨拶だけはする。

「うん、よろしくな、グース君」

「父さんとステアリーナさんは新婚だから、ボクに任せておいてよ」

サキが気を使ってそんなことを言い出す。

「ほう、いいのか?」

「くふ、いいよ、父さん。アアルもいることだし」

最後で台無しだなあ、と横で聞いている仁が思っていると、グースは珍しく照れた顔を見せてセリフを口にした。

「サキ、これからよろしく頼む」

「こっちこそ、いろいろ教えてもらうこともあると思うよ」

* * *

グースの件があっさりと終わったので、仁はハンナとエルザ、そして礼子を連れてカイナ村へ移動した。

もちろん 転移門(ワープゲート) で、である。

今回、ハンナに初めて 転移門(ワープゲート) のことを詳しく説明したのだ。

「ふーん、おにーちゃんはこういうまどうぐを使えるんだ! すごいすごい!」

はしゃぐハンナ。だが、その実、この技術はおいそれと他人に話していいものではないことも理解している。

「おにーちゃんが話してもいい、という人にしか話しちゃだめなんだよね? あたし、やくそく守るから!」

仁が何も言わないうちにこれである。ハンナを『仁ファミリー』に正式に迎え入れる日は遠くないのかもしれない、と思う仁であった。

それはそれとして。

「おばあちゃん、ただいま!」

やはり、1ヵ月ぶりの故郷が懐かしく、そして我が家が嬉しかったのであろう、仁の工房地下にある 転移門(ワープゲート) から出るや否や、階段を脱兎のごとく駆け上がって、マーサの胸に飛び込んだハンナであった。

「ハンナ、おかえり。元気そうだね。少し背も伸びたんじゃないのかねえ?」

仁やエルザ、礼子がずっと傍にいたものの、まだ10歳、やはり実の祖母に会えなくて寂しかったのだろう、と思う仁。

「お帰りなさいませ、ジン様。お帰りなさい、エルザ」

エルザの母、ミーネも彼等を出迎えた。

彼女はカイナ村で子供たちに読み書きを教えているのだ。

「ただいま、母さま」

久々に再会した祖母と孫、そして母と娘の邪魔をしないよう、仁は自宅である工房2階へと上がった。

「お父さま、お茶でも淹れましょうか?」

礼子が気を利かせてくれる。

「ああ、頼むよ」

カイナ村は仁の第二の故郷といっていい場所である。

礼子が淹れてくれたお茶を飲みながら、仁は窓から外を眺めた。

麦の穂が出揃い、あと1月もしないうちに収穫である。

そうなったら、保護したラリオ村の女の子たちもどうするか、はっきりとさせることになるだろう。

ルウのように養女になった子もいるし、リックの嫁になると言ってくれているカナのような子もいる。

そういった子はほとんどが孤児で、帰りたいと意思表示をしている子たちは親がいる子のようだ。

どちらにせよ、仁は本人の意志を尊重したいと思っていた。

「それに、宇宙船か……」

明日になったら蓬莱島へ移動し、暫くはそっちに掛かりきりの日々が続きそうである。

近付いてくる長周期惑星と、謎の多い『月』、そして『 始祖(オリジン) 』の故郷であるヘール。

宇宙へ行けるようになったら確認したいことも目白押しだ。

「結局、先代のことはまだよくわかっていないしな」

仁としては、この旅行で、蓬莱島のどこかに先代のお墓があるのではないかと思うようになった。

礼子の前身である 自動人形(オートマタ) が葬ったであろうからだ。

ただ、その場所を今の礼子は覚えていないだけなのである。

時空を越えて召喚する魔法と共に、礼子はその記憶を失ってしまっているのだ。

「あの、欠けた 制御核(コントロールコア) を調べれば何かわかるかもしれないな……」

念のため、慎重に取り扱い、厳重に保管してあった。

「まだまだ、やることは山積みだな……」

それでも仁には、仲間と、家族と、作り上げた子供たちがいる。

自重しない『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』のモノ作りはこれからも続いていくのだ。