軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-47 ショートカット

ケーヒー村は、ゾイカータ山の反対側にあるテハダキ村と共に、ショウロ皇国北端の村である。

緯度的にはカイナ村に近いが、内陸にある分、気候はより乾燥している。

「そろそろ麦が実り始めているな」

もう4月も終わろうとしており、季節は間もなく初夏。青々とした麦の穂が天を突くように伸びている。

「ああ、もう春も行こうとしているんだな」

柄にもないセリフが仁の口から出てきた。

1ヵ月近い旅行で、少しセンチメンタルになっているのかもしれない。

その日はケーヒー村に泊めてもらうことにする。

とはいえ、宿屋などのない村なので、村長に話を付け、村長宅に、ということになったが。

仁は『崑崙君』であるし、エルザも『元』女準男爵ではあるが、そういった身分は名乗らない。ただ、調査行からの帰りだ、とだけ告げた。

「いやいや、こんな辺鄙な村にお客人がお見えになるなんて珍しいことです」

「どんな人が来るのですか?」

村長の言葉に興味を惹かれた仁は尋ねてみた。

「錬金術師を名乗る方々がごくたまに、ですね」

「……ボクの父さんも来たかもしれないね」

「ほう? そちらのお嬢さん、お父上のお名前は?」

サキの呟きを聞きつけた村長に尋ねられ、

「トア、っていいますけど」

と、サキは答える。

「トア殿ですか、覚えておりますよ。1年くらい前でしたかなあ、クリューガー山脈の調査と言ってましたっけ」

どうやら、サキの父、トアもここまで来たことがあるようだった。

「父が……。そうですか。他に何か言ってませんでしたか?」

その問いに、村長は少し考え込み、

「そうですな……行方不明のご友人を捜してらっしゃる、と聞いたことがあります」

サキの知る限り、父トアの友人で行方不明になっているのは、グースの父、マークしかいない。

トアにとって、マークという友人は掛け替えのないものだったのだろう、とサキは父の心情を思った。

グースは何かを思うように黙ったままであった。

それ以上のことは村長も知らなかったので、話題を変える。

「この村には錬金術師はよく来るのですか?」

「いえ、多いといっても年にお一方かお二方くらいですね」

だいたいは、クリューガー山脈もしくはハリハリ沙漠の調査の足掛かりとして訪れるそうだ。

「なるほど」

「クリューガー山脈は金属資源が豊富だと聞いていますからね」

サキは、父トアから聞いているので詳しいようだ。

「それに、ハリハリ沙漠では、たまに珍しい鉱物も採れるとか」

「よくご存知ですね。そうそう、我が家にもそんな鉱物が幾つかありますよ。以前お泊まりになった錬金術師の方からお譲りいただいたものですがね。ごらんになりますか?」

村長のこの言葉に、サキは食い付いた。

「是非お願いします!」

そこで村長は一旦奥の部屋に引っ込んだ後、すぐに中くらいの箱を抱えて戻って来た。

「これなんです」

「おお!」

「こ……これは!」

「40年ほど前、私の父が、当時訪れた錬金術師の方にいただいたそうです」

それは、砂で出来た薔薇のような石であった。

「砂漠のバラ……」

「その方は『砂のバラ』と呼んでらしたようですけどね」

「……不思議な石」

「こんな形が自然に出来るとは……」

「バラが石になったとか?」

「わあ、おもしろい石!」

皆が感心する一方で、仁は高校の理科室で見たことがあった。

『砂漠のバラ』という通称で、実際には硫酸カルシウム、つまり『石膏』の結晶である(『重晶石』の場合もあるが、ほとんどは石膏だという。この重晶石はバリウムを主成分とする硫酸塩鉱物である)。

地球ではサハラ砂漠が有名な産地である。

とにかく、仁は一度見たことがあったので、他の者たち程の感動は得られなかったが、初見でのインパクトは大きかったな、と、当時のことを思い出し、少し懐かしんでいたのであった。

* * *

翌朝、仁は心付けを村長に渡すと、自動車でケーヒー村を発った。

「ああ、今日から5月なのか」

いつしか季節は移り、初夏の風が吹く5月となっていた。南下しているので、尚のこと気温が上がった感がある。

「少し無理してでも、今日中にランドル伯爵領に入りたいな」

今までの道なき道に比べたら、路面が整備されてきているので、速度を上げられると判断したのである。

道のりでいったら250キロほどでバンネである。時速25キロで10時間、なんとかいける、かもしれない。

「お父さま、もう『コンロン2』をお呼びになったらいかがですか?」

「ああ、そうか……」

もうショウロ皇国、『崑崙君』である仁がコンロン2に乗ることに問題はない。あるとすれば、グースへの説明である。

今はロイザートの屋敷屋上に係留してあるので、ここまで2時間も掛からないだろう。

(途中、何らかの方法で連絡して迎えに来させたことになさったらいかがでしょう)

今更、隠す内容が一つ増えたところで変わらないだろうというのである。はっきり言って開き直りだが。

「それでもいいか。……よし、礼子、そうしよう」

「はい!」

礼子は内蔵 魔素通信機(マナカム) でまず老君に連絡をつけ、細かい手配を任せることにした。

グースについては、後ほど『ファミリー』に入れるかどうか良く検討してから、打ち明けることにする。

そう決まったので、仁は自動車の速度を落とさせた。

『ウォッチャー』や『 魔力探知機(マギレーダー) 』により、仁たちの居場所は把握されているだろうから、じっとしている必要もないので、止めるまでのことはしなかったのである。

「お父さま、来ました」

およそ2時間後、礼子がコンロン2の接近を告げた。

「よし、車を止めよう」

ちょうど、村と村の間、何も無い平野部だったので都合がいい。

「仁、さっきから言っているコンロン2ってのは?」

グースが聞きたそうにしている。

「百聞は一見にしかず、ほら、見てみろよ」

空を指差す仁。降下してくるコンロン2。

「う、うわあああああ!! なんだ、あれは!!」

その叫びは、驚きからか、それとも恐怖からか。

驚き慌てるグースを尻目に、コンロン2は着陸した。

「ご苦労さん、リリー、ローズ」

扉を開けて現れたのは改良を加えられた新 隠密機動部隊(SP) のリリーとローズ。更にスチュワードが降りてきた。

「ほら、グース、行くよ」

驚きに固まっているグースを促しているのはサキだ。

仁たちは、エドガー、アアルを含めてコンロン2へ。スチュワードは入れ替わりに自動車を預かる。

そのままロイザートの屋敷まで移動する予定である。

もっとも、途中で一旦蓬莱島を経由する可能性もあるが。

荷物類も全て積み替え、コンロン2はスタートした。

「う、わあああ、と、飛んでる!」

「くふ、そりゃそうさ。飛ぶようにできているんだからね」

驚きまくっているグースを、サキはずっと宥めていたのであった。