軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-45 資料室

「忘れ去られないように……ですか」

自動人形(オートマタ) 、バセスⅨの言葉に真っ先に反応したのは礼子だった。

「確かに、悲しいことですものね」

共感を覚えたのだろうか、礼子もしんみりした口調になっている。

「誰からも忘れられた時、その人は本当にいなくなる、って言うからな」

記憶を伝える、というのはそういうことなのだろうと、仁はぽつりと呟いた。その言葉にグースもまた反応した。

「本当に。俺にはもう両親がいないが、その教えはこの身に受け継いでいる、と信じているよ」

サキが同意する。

「うん、……ボクにもわかるよ、それ」

サキもまた、母親を早くに亡くしているのである。

「おとうさんとおかあさん、それにおじいちゃん……あたし、ぜったい、ぜったい忘れないから!」

ハンナも少し涙ぐみながら大声で言った。

「話が逸れたが、もう一つの君の使命……というのは?」

湿っぽくなった空気を払拭するように、仁は改めてバセスⅨに尋ねる。

「はい、長い時間思索しまして、この施設の維持がそれだという結論に達しました。それで、この施設を譲渡するに相応しい方の来訪を待ち望んでいたところ、あなた方がいらして下さったのです」

バセスⅨは、仁たちが乗ってきた自動車を見て、その技術力を判断し、かつてのティエラ家が持っていた技術に比肩すると判断したようだ。

「これより、私は一旦停止致します。そうしましたら、貴方の魔力で再起動して下さい。それで私は貴方の下僕になります」

そう言うが早いか、バセスⅨは自ら動力を停止させたのである。

ゆっくりと倒れていくバセスⅨを、礼子が受け止め、そっとそこに横たえた。

「お父さま、この 自動人形(オートマタ) の『遺言』を叶えてやって下さい」

珍しく礼子が口添えをする。彼の 自動人形(オートマタ) に、かつての己の姿を重ねたのかもしれない。

「ああ、わかってるさ」

一言答えた仁は、再起動の前に、横たえられたバセスⅨのチェックを行った。

「……ほう」

仁は感心したような声を上げた。そして、

「 魔力反応炉(マギリアクター) ではないものの、かなり優秀な 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を持っているな」

と、周囲の者たちにも聞こえるように呟いた。

「だけど、蓬莱島様式とは異なる箇所も多々あるな」

これを見ても、先代とは別の系統で発展した 自動人形(オートマタ) であることがわかるというもの。

「定期的に整備もされていたようだな。これなら、とりあえずは再起動だけでいいか。……『 起動せよ(ウエイクアップ) 』」

敢えて、古い形式の魔鍵語で再起動を行う仁。

「……はい、『 御主人様(マイロード) 』」

このバセスⅨも、仁を『 御主人様(マイロード) 』と呼んだ。老君、 太白(たいはく) に続き、3体目である。

「これまで、この施設の維持管理、ご苦労だった」

「いえ、それが私の役目でしたから」

「お前にも改めて名前を付けよう。……そうだな、『パルマ』だ」

なんとなく浮かんだ名前。『パーマネント(永久に)』あたりから連想したと思われる。

こうして新たに名前を与えるということは、主人になった証でもあるのだ。

「ありがとうございます、 御主人様(マイロード) 。今から私は『パルマ』です」

「うん、よろしく頼むぞ」

バセスⅨ改め『パルマ』と名付けた 自動人形(オートマタ) は深々とお辞儀をした。

「早速ですが、 御主人様(マイロード) にお見せする物がございます」

「ふうん?」

自動人形(オートマタ) 、『パルマ』は仁にそう言うと、身を翻した。

「どうぞ、おいでください」

仁は他のメンバーに、行こう、と声を掛け、歩き出した。

来た廊下を少し戻り、環状の廊下へと曲がる。少し行くと下へ降りる階段があった。

「こちらです」

その階段を下りていくパルマ。仁は礼子と共に一行の先頭で後に続いた。

フロア2階分降りたと思われる先にあった扉。

「どうぞお入り下さい」

パルマが開けてくれた扉の先には、プレートが嵌め込まれた壁があった。

「代々のティエラ家の方々です」

墓所、かと思ったが、そういう場所ではないらしい。

「お手数ですが、順にお読みいただけますでしょうか」

パルマの要望に応え、仁は上から順に名前を読み始めた。

「ハザース……フロレィル……スケアレス……」

何十番目かに、知った名前が出てくる。

「……ウーヴァイト……ラーリアナ……」

アドリアナの両親である。名前は更に続いていく。

「……ガルドレッド……ブルギウズム……ランバールド……クロウズムス……」

仁も聞いたことのない名前である。おそらく、アドリアナの兄たちではないだろうか、と推測した。

「……ハンドレーム……ドナヴァーグ……アドリアナ」

ドナヴァーグはアドリアナのすぐ上の兄。そしてアドリアナの名前。

「……ネルレスト……ファレヴァルス……」

その後には、また知らない名前が延々と続いた。

「……マートレー」

そこで終わる。

「ありがとうございます。以上が、ティエラ家の方々でございます」

忘れられたくない、という意味で読み上げさせたのだろうか、と仁は思ったが、そうではなかった。

奥の壁がゆっくりと開いたのである。

「 御主人様(マイロード) 、この奥に、ティエラ家が守ってきた技術記録が収められております」

名前を全員分読み上げることが解除のための鍵になっていたようだ。

正直言って面倒臭いシステムだ、と仁は思ったが、さすがに口には出さず、奥の部屋へと足を踏み入れた。

エルザたちは無言のまま仁と共にその部屋へ入っていった。

「ふうん」

本が百数十冊並んでいる本棚、それに幾つもの記録用 魔結晶(マギクリスタル) 。

「ここは、これからはいつでも入れるのか? それとも入ろうと思うたびに名前を全部読み上げなければならないのか?」

仁はパルマに尋ねてみた。後者だったら面倒臭いことこの上ない。

「いいえ、一度開けていただきましたので、以後は 御主人様(マイロード) が近付くと自動で開きます」

「それならいいか」

仁は改めて部屋を見回してみる。要するに資料室ということだろう。

ティエラ家の祖先は、『 始祖(オリジン) 』により近かったであろうことが推測される。

遺されたものは本と記録用 魔結晶(マギクリスタル) 、そして『名前』なのだろう。

名前はともかく、本と記録用 魔結晶(マギクリスタル) にどんな情報があるか、気になるところではある。

「本と記録用 魔結晶(マギクリスタル) だが、それぞれどんな情報が記録されているのか、知っているか?」

まずはパルマに尋ねてみた。彼が知っているならかなりの手間が省けるというもの。

「はい、存じております。また、本と記録用 魔結晶(マギクリスタル) の内容は同じものです」

「ほう……」

文字での記録と、そのバックアップ、と言えばいいのだろうか。パルマも含め、2重のバックアップということになる。

ということであれば、記録用 魔結晶(マギクリスタル) を老君に読み出させて、有効な情報のみ抜き出してもらえば良さそうだ。

そう判断した仁は、とりあえずその部屋を出て、上の階を見て回ることにした。

「一旦昼食にしよう」

もうお昼である。仁としては、ハンナを空腹でいさせるわけにはいかないのだ。

来たルートを逆に辿り、一旦自動車へと戻ることにする。

「 御主人様(マイロード) 、この施設を囲む結界はどう致しますか?」

パルマが尋ねてきた。

「そうだな、機構的に問題ないなら、このまま継続して展開していてくれ」

「かしこまりました」

この結界は紫外線などの有害な電磁波を遮断する働きもあるようだ。

ある意味、保存用結界の一部とも言える。

「なかなか考えているな」

仁としても、その結界の構成から得るものがあった。

「ところで、隣……というか、本来のナミンテの町は、今はどうなっているんだろう?」

思い出したグースが呟くように言った。

「はい、この周辺の町は無人ですが、ナミンテの町は辛うじて住民が暮らしています」

「ほう。大したものだ」

「と申しますのも……」

仁たちは、パルマの説明に聞き入った。

「300年ほど前に、空間の 自由魔力素(エーテル) が激減するという事態が起こりました。これにより、住民の大半が体調を崩したのです」

魔素暴走(エーテル・スタンピード) はこんなところにまで影響を及ぼしていたのであった。

「それにより、人口が激減し、更に追い打ちを掛けるように、200年前に疫病が流行りました。『魔力性消耗熱』と名付けられたそれにより、更に人口が減ったのです」

魔素暴走(エーテル・スタンピード) 前に比べたら、20分の1以下になったという。

「そんなこんなで、残った住民の大半がこのナミンテの町に集まったのです」

こうして、人口激減の理由が明かされたのである。

「おそらく、バッタルフの人口減もこれが主要因なんじゃないかな?」

仁の呟き。正解なのかどうか、それは今となってはわからなかった。