作品タイトル不明
26-44 まれびとの館
「あれがそうだろうな」
間違えようもないほどに異質な建築物である。
外壁は金属らしい。1000年以上の歳月に、ややくすんで光沢を無くしてはいるが、腐食には至っていないようだ。
「材質は何だろうな?」
風雨と陽光に1000年以上曝されて腐食しない金属であるから、仁としても興味を惹かれたのである。
だが、調べてみようにも、結界で覆われており、『 分析(アナライズ) 』が使えない。
「お父さま、どういたしますか?」
「うーん、そうだなあ……」
結界を突破する方法は幾つかある。
力業で突破する、発生装置を止める、逆効果のある結界で打ち消す、結界のない部分を通過する、などだ。
比較的穏やかなのが2番目と4番目である。
「 魔法無効器(マジックキャンセラー) でいこうか」
発生装置がどこにあるか不明なので、まずは結界を作っている魔力の流れを調べてみることにする。
「礼子と……エルザも頼む。俺はこっち側を調べるから」
「はい、お父さま」
「ん、任せて」
仁、礼子、エルザの3人掛かりで発生装置の在処を調べていく。
だが、巧妙に隠蔽されているらしく、なかなか見つからなかった。
「……やっぱり外からじゃ無理か」
15分ほど探して見つからないので、仁は礼子とエルザにも止めるように声を掛けた。
「発生装置は結界内部深くなんだろう。無駄なことは止めよう」
バッタルフの町の時は 障壁(バリア) 内部にいたため、簡単に止められたのである。
「仁、それじゃあどうするんだい?」
「穴を掘ろう」
普通の結界や 障壁(バリア) は地中までは及んでいない。
故に、フランツ王国での『 魔導砦(マギフォートレス) 』攻略時には地面を掘っての侵入が行われたのである。
だが、礼子が率先して穴を掘ろうとしたその時、結界内部に動きがあった。
「……また 自動人形(オートマタ) か」
バッタルフの時と同じように、管理者の部下に当たる 自動人形(オートマタ) がやって来た。
「ようこそ、お客人。結界は部分解除しますので、壊さないでいただけると有り難いのですが」
滑らかな言葉でそう言ったのは、20代の若者に見える 自動人形(オートマタ) 。
「……家宰かな?」
グースの呟きに、 自動人形(オートマタ) は頷いた。
「はい、私はティエラ家の家宰 自動人形(オートマタ) 、バセスⅨと申します」
バセスⅨと名乗った 自動人形(オートマタ) は、右の掌を正面に向けてかざした。
何も無いように見えるが、そこには結界があるはずだ。
すると、結界があると思われる箇所にうっすらと光るリングが生じた。人一人が楽に通れる大きさだ。
「どうぞ、この中をお通り下さい」
そこで仁は、ここでもエドガーとアアルを自動車の番人として残し、残りの面々で結界をくぐることにした。
「ハンナ、礼子のそばにいるんだぞ」
と、ハンナの安全を考えつつ、仁は真っ先に結界をくぐった。続いて礼子とハンナ、そしてエルザが。サキがくぐり、グースは警戒しながら 殿(しんがり) を務めた。
「どうぞこちらへ」
自動車とエドガー、アアルについては何も言わず、バセスⅨは仁たちを先導していった。向かうはもちろんドーム状の建物である。
「……ステンレスに似た金属だな」
色と質感から仁はそう予測し、
「……『 分析(アナライズ) 』」
実際に成分を調べてみると。
「……ニッケルか……それに鉄」
仁が驚いたことに、『インバー』と呼ばれる、熱膨張が極めて少ない合金の組成にごく近かったのである。
「確かに、これだけ大きいと歪みを気にする必要もあるだろうしな」
日の当たる側と当たらない側での温度差による歪みなどを考えると馬鹿にならない。
真夏の炎天下で鉄道のレールが曲がることだってあるのだから。
そんなことを考えていたら、家宰 自動人形(オートマタ) 、バセスⅨは扉を開けていた。
「どうぞ、お入り下さい」
罠である可能性もあるが、ここまで来たら行くしかない。仁は己の作ったもの……『礼子』と『 守護指輪(ガードリング) 』、それに『仲間の腕輪』を信じて、扉をくぐったのである。
結論から言えば、警戒する必要は何も無かった。中は静かそのもので、聞こえるのは自分たちの足音だけ。
「 人気(ひとけ) がないな」
仁の呟き。それは全員の気持ちを代弁するものであった。
仁の3メートル前を歩くバセスⅨは振り返ることなく進んでいく。
ドームの外周に沿っているのか、緩く湾曲した廊下を進み、一度左に折れた。
(中心から放射状に廊下が延びて、それを同心円状の廊下が繋いでいるようだな)
仁は内心でそんな事を考えている。
先日の手記で読んだ、ティエラ家を今歩いているのだと思うと感慨深いものがある。
左右にある扉の中が気になるが、開けてみるわけにも行かない。
そして先導するバセスⅨは、仁が想像した通り、ドームの中央部にある部屋の前で足を止めた。
「こちらです」
ノックすることもなく、バセスⅨは部屋に続く扉を開いた。
「え?」
誰かがいるはずだ、という期待は見事に外れ、そこは無人であった。
「ここは、『ティエラ』の家名を名乗る一族の方々にとって一番重要な部屋です」
「……」
仁たちは皆無言で部屋を見回していた。
第一印象としては、『魔族の部屋に似ている』ということだった。
飾り付けが無く、シンプルである。
机や椅子、キャビネットなどの家具は、直線的なデザインが少なく、柔らかな曲線を取り入れたデザイン。
配色には派手さはなく、グレー系統が多く、地味に見える。
だが、違う点も多々ある。
床は毛皮や絨毯ではなく木製であるし、家具も総木製である。
手に入る材料によるのか、それとも長い時間の間に違いが生まれたのかは分からない。
シュウキ・ツェツィの手記の中に、『まれびと』という呼称で呼ばれていた、北からの異邦人。
はっきりと自らを『まれびと』の子孫と呼んでいたからには、現代で言う『魔族』との繋がりが間違いなく、過去にはあったのだろう、と仁は考えていた。
現在、ローレン大陸のこのあたりに最も近いのは『雷霆』『紅蓮』『颶風』の氏族であろうか。
過激派に属していた彼等であるから、昔から外の世界へ旅に出ていたのかもしれない、などと推測する仁。
「……それで、ここにわたくしたちを案内したのはどんな目的からなのですか?」
礼子の声に、仁は現実に意識を戻した。
「記憶を伝えたかったのです」
淡々とした口調でバセスⅨが答えた。
「記憶?」
「そうです。93年と4ヵ月ほど前、ティエラ家最後の後継者がいなくなりました。その時点で、私の存在意義はほぼ無くなったのです」
「……」
少し悲しそうな顔でそれを聞く礼子。先代が亡くなった時のことを思い出しているのだろうか、と仁は思い、礼子の頭に手を置いた。
「……お父さま?」
一瞬『?』という顔をしたが、その手が意味するところを悟ると、礼子は嬉しそうに微笑んだ。
一方、バセスⅨの語りはまだ続く。
「2つだけ残った私の使命の1つは、ティエラ家が忘れ去られないようにすること。私は待ちました。そして今日、あなた方が来て下さったのです」