軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-43 退廃

「……」

北へ向かって走る自動車の中は静かであった。誰も口を開こうとしない。

「……結局、『 賢者(マグス) 』のしたことは無駄だったということか……」

最初に口を開いたのは仁だったが、その口調は重く沈んでいた。

仁が『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィと同じ世界から来たことを知っているエルザとサキは、仁の気持ちを察することができた。

良かれと思い、この世界のために尽くしたことが、 仇(あだ) になってしまった、その実例を目の当たりにしてしまったのだから。

「でも仁、ここ……『ニューエル』は退廃してしまったが、フソーやミツホでは『 賢者(マグス) 』は感謝されているんだろう?」

落ち込んだ仁に声を掛けたのはグースであった。

「たまたま、バッタルフが退廃したのかもしれないじゃないか」

その言葉に、仁も少し気持ちが上向いたようだ。

「うん、そう……かもしれないな」

「お父さま、実はこんな物を持って来ています」

「うん?」

礼子が差し出したのは 魔結晶(マギクリスタル) 。と言うか……。

「 制御核(コントロールコア) か?」

「はい。殴ったらバラバラになったゴーレムの物です。何かわかるかもしれないと思いまして」

「おお、よくやった。早速見てみよう。……『 読み取り(デコンパイル) 』」

情報を言語的に読み取る工学魔法である。仁たちの目の前に、情報が 魔法語(マギランゲージ) で展開された。

「……これは……そういう理由もあったのか……」

その内容に、仁とエルザは絶句する。

「ハンナちゃん、見ちゃ駄目」

エルザは顔を赤くしながら、ハンナの目を塞いだが、さすがのハンナも、まだ 魔法語(マギランゲージ) は読めないのである。

「仁、何がわかったんだ?」

同じく 魔法語(マギランゲージ) がわからないグースが尋ねた。サキも聞きたそうな顔をしている。

「ああ、それがな……」

仁は小声で話し始めた。エルザはハンナの気を逸らそうと、いろいろ話しかけている。

「一言で言うと、人間相手でなく、 自動人形(オートマタ) を相手に『行為』をするようになったために出生率が低下したらしい」

ただし、シュウキの名誉のために言っておくと、そういう機能を付け加えたのは後世の技術者だったようだが、と仁は付け加えた。

「……なんともまあ、呆れた話だね」

「……まったくだな」

サキもグースも、開いた口が塞がらないようだ。

それを『 賢者(マグス) 』の所為にしてしまうとは……、と、ハンナを除く全員が思ったのは言うまでもない。

暇を持て余すと、人間は時としてとんでもない方向に向かってしまう、その悪例であろうか。

「……あとは、異常なほどの『 魔力による繋がり(マギリンク) 』が見られるな……」

礼子やルーナ、ソレイユの十数倍。

「おそらく、クローデンの望むことをさせるための処置だろうが、これは異常過ぎる値だな……」

「お父さま、これでは自律したゴーレムであっても、正常な判断ができるはずがありませんね」

「このためにクローデンの狂気を反映した行動をとったわけだな」

一同、その事実をそれなりに受け止めたので、エルザはこの先のことを尋ねた。

「ジン兄、これからどうするの?」

今はとりあえず北へ向かって時速10キロくらいでゆっくり走っているのだが。

「そうだなあ……時間も無いしな……」

「ジン、あと1箇所だけ訪問してみる、というのはどうだろうね?」

サキからの提案に仁は頷いた。

「そうだな、そうするか」

となると、訪れる町はどこにするか、となる。近いから隣町にする、という考え方もあるが、仁が行ってみたいと思った町は、

「やっぱり『ナミンテ』だろうな」

シュウキ・ツェツィの妻となったアドリアナ・ティエラの生まれた町であり、『まれびと』と自らを呼んだティエラ一族が住んでいた町である。

「うん、そうだろうね。ボクも興味あるよ」

「ん。それでいいと思う」

「あたしはおにーちゃんが行きたいところでいいよ!」

「それが妥当なんだろうな。俺も異議はない」

全員、ナミンテの町でいいと言うことだった。

「よし、決まりだ」

ということになったので、自動車は時速15キロに速度を上げた。

「仁、君は、そして礼子ちゃんはすごいな! 確かに世界一だ。世界で最高の技術を持つ 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) というのも頷ける!」

グースは車内で仁と礼子への賛辞を口にした。そして、

「きっとショウロ皇国というのは魔法技術が進んでいるのだろうな……」

父親の出身国であるショウロ皇国に思いを馳せているのだろう、グースは少し遠い目をした。

「それが、一概にそうとも言えないんだ」

「ん? どういうことだ?」

そこで仁は、『魔導大戦』と『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』についてかいつまんで説明した。

「……魔導大戦は父から聞いたことがある。フソーではあまり 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の影響は出ていないようだけどね」

元々 自由魔力素(エーテル) 濃度の濃い地域であったことが幸いしてか、 魔導機(マギマシン) や魔導具がまったく使えなくなったということはなかったようだ。

だが、幾つかの機器は動作しなくなったり、動きが鈍くなったりしたようである。

「やはり影響はあったんだな」

仁が呟けば、グースもまた回想を口にする。

「父が言っていたな。あまり一つのものに依存しすぎると反動が怖い、と」

その言葉は一行皆の気持ちを代弁していた。

(そういえば……)

仁も、かつて現代日本で勤めていた時、大手取引先が不渡りを出してしまい、一時的に経営が傾いたことがある。

その時、一部の管理職が、『柱が1本ではいざという時に倒れる。同じ太さでなくてもいいが、3本は用意しておかなければ危うい』などと持論をぶち上げていたことを思い出す。

(言うは易く、だけどな……)

中堅企業の場合、そうそう取引先を幾つも持てるわけではない。

だが……。

(魔法だけに頼るのも危険だということだな)

その時、ハンナの声がした。

「あ、おにーちゃん、雪だよ!」

北上してきたので、雪が残っているところもあるようだ。

ハンナの声に仁は、カイナ村を思い出した。

(あそこは、魔法が無くても暮らしていける村だよな……)

仁が幾つか 魔導機(マギマシン) や魔導具を設置してはいるが、それが使えなくなっても、大きな混乱は起こらないだろうと思われた。

(やはり、科学技術をもう1つの根幹に据える必要がありそうだ)

窓の外を眺め、無邪気にはしゃぐハンナの横顔を見つめながら、仁はそんなことを考えていたのである。

* * *

北上する一行はナイゴ、トセモ、マヤンという名の町を通り掛かったが、いずれも廃墟となっていた。

その夜辿り着いたグラシーホも同じであった。

「次がダラゴマ、そしてナミンテか」

グースが手元の地図を見ながら呟く。シュウキ・ツェツィの記録にあった地図を写し取ったものだ。

「フソーやミツホとは全然違うネーミングだな」

その2国は日本の地名から取ったとしか思えない地名が多々見られたが、ここニューエルでは皆無である。

そもそも『ニューエル』という国名もそうだ。

( 始祖(オリジン) の一派が住み着いて作った国、なのかもなあ)

それも、ナミンテにあるというドーム状の建物とやらを見れば分かるだろう、と仁は思っている。

「明日の昼くらいには着けるだろうな」

薄い雲がかかり、明るい星が疎らに見える空を見上げながら仁は独り呟いた。

* * *

そして4月26日。

無人のダラゴマの町を横目で見、一行は北上を続ける。

昼前、ナミンテの町らしきものが見えてきた。

「あれがそうかな?」

目の上に手をかざし、仁が言えば、グースもまた同じような仕草で彼方を見やり、呟いた。

「周囲は壁が巡らされているようだね。シュウキ・ツェツィの頃と同じかな?」

「ティエラ一族が住んでいた場所は町の外側を回り込むんだっけね」

そんな会話を交わしているうちにも、町は近付いてくる。

「うーん、あまり古めかしくなってはいないみたいだね」

「人がいるのかな?」

そんな時、自動車が停止する。

「お父さま、ここにも 障壁(バリア) が張り巡らされています」

礼子が説明する。

「バッタルフのものより強力で、範囲も大きいようです。どうしますか?」

「まずは町よりもティエラの家だ。回り込もう」

「わかりました」

障壁(バリア) の外側を左回りに回り込んでいく自動車。

「塀の高さは増しているんじゃないか?」

シュウキの手記によると、3メートルほどということだったが、そばで見てみると5メートルくらいあるように見える。

「1000年以上経っているんだ、増築されたりしていてもおかしくないさ」

「それもそうだな」

そして数分、行く手に、灰色のドームが見えてきた。

「あれらしいな」

「さて、いったい何が待つのか、楽しみだ」

仁はいつになくわくわくしてくるのを感じていた。