作品タイトル不明
26-41 揺らぎ
「固体の侵入を防ぐ 障壁(バリア) だな」
少し調べた後、仁が結論を出した。
このあたりの緯度はパズデクスト大地峡の手前くらい。小群国の平均に比べ、倍近い 自由魔力素(エーテル) 濃度があるので、このようなこともできるのだろう。
「さて、どうするか……」
仁は考え込んだ。 障壁(バリア) の性質を解析して無効化する方法もあるが、そのようなことをしたら敵対行動と取られる可能性もある。
「ジン兄、誰も出入りしていないということはないはず」
エルザが意見を述べた。
今、ハンナとアアル以外は自動車を降り、 障壁(バリア) の前に立っているのだ。
「くふ、エルザの言うとおりだ。この町だけでやりくりできるはずはない。必ず外部と繋がっているはずさ」
サキの意見に、仁も頷いた。更にグースも意見を述べる。
「鎖国、しているということかな? だとしても、住民が出入りすることもあるだろうし、この 障壁(バリア) ……というのか? …… 障壁(バリア) を通る手立てもあるんじゃないかな?」
「それはそうだろうが……」
「訪問者があった場合の対処法というものが必ずあるはずさ」
「まあ、な」
仁は一応グースの意見に同意はしたものの、もう1つ出入りする方法があることを知っているだけに、納得はしきっていない。
だが、そんな彼等の目に、町から何かがやって来るのが見えた。
「お、誰か来るぞ」
数名の人影が近付いてくるのが見えた。
「人……と、ゴーレムか?」
それは、若い男女1名ずつと、ゴーレムが2体であった。
2人とも、肌の色は白い。そう、『魔族』とよく似ている。だが。
「……お父さま」
「……ああ。あいつら……」
仁と礼子は顔を 顰(しか) め、短い言葉を交わした。
その会話を訝しんだエルザが、何か尋ねようとしたが、その時には2人と2体は近くまでやって来ていた。
「何者だ? どこから来た?」
彼等は 障壁(バリア) があると思われる場所の2メートルほど後方に立ち、男の方が口を開いた。
いくらか傲慢な口調であるが、仁は平静を装い、返答する。
「俺は二堂仁、ジン・ニドーです。ショウロ皇国から、ミツホ、フソーを経由してやって来ました」
その返答に男は頷いた。
「ふむ。その自動車を見てもわかる。それなりの魔法技術を持っているようだな」
馬なし馬車でなく自動車と言ったことに、仁はちょっと驚いたが、シュウキ・ツェツィがリヤカー風自動車を既に作っていたことを思い出した。
「それで、何の御用でしょうか?」
次いで、女性の方から訪問の目的を尋ねられた仁は、正直に話すことにした。
「我々は、『 賢者(マグス) 』について調べているのです。こちらが『 賢者(マグス) 』と関わりがあるらしいことを偶然知りまして、訪ねてきました」
この答えを聞いた2人は顔を見合わせ、小声で何やら話し合っていた。
その内容は、仁には聞こえなかったが、礼子にははっきりと聞こえていた。
(どう思います、バリガル243?)
( 賢者(マグス) のことを知っているという点だけを取っても、あながち嘘とも思えんな)
(では、迎え入れますか?)
(そうだな、フェデリ479。そして最終判断は父上に委ねよう)
そして2人は改めて仁たちに向き直った。
「よかろう。害意がないことを信じ、貴様たちが我がバッタルフの町に足を踏み入れることを許すとしよう」
そして男はゴーレム2体に何やら命令をした。
すると2体のゴーレムは4メートルほど離れ、向き合って立ち、腕を真上に伸ばした。
「さあ、このゴーレムの間なら通れるようになった。来るんだ」
「お父さま、あの2体のゴーレムの間だけ、 障壁(バリア) が消えています」
仁たちには見えなかったが、礼子には感じられるのだろう。
「そうか。なかなか興味深い方法だな。……逆位相の 障壁(バリア) をぶつけて相殺しているのかな?」
そんな分析をしつつ、仁は急いで全員を自動車に乗せると、その箇所を通過した。
その背後ではゴーレムが 障壁(バリア) の相殺を止めたようだ。
「お父さま、 障壁(バリア) が閉じました」
「そうか」
ここの 障壁(バリア) は固体を通さないというだけなので、いざとなれば 転移門(ワープゲート) で脱出することもできる。
そういった意味で仁はあまり心配はしていなかったが、グースはそうでもないようで、いつになく少し緊張しているようだ。
「よし、付いて来い」
ゴーレムの肩に乗った男が仁にそう言った。仁は早足で歩くゴーレムに付いていくようエドガーに指示を出した。
時速10キロほどで歩いて行くゴーレムの後を付いて行く自動車。
町中に入ると、住民たちからの好奇の視線が突き刺さる……かと思いきや、町中はがらんとして、人通りがなかった。
だが、道には塵一つ落ちておらず、建物は整然と並んでおり、通りには街路樹も植えられ、美しく整っていた。
「ほう……」
「……ジン兄、ここ、かなり発展している」
「くふ、興味深いね。これも『 賢者(マグス) 』の影響かな?」
「仁が読み上げてくれた 賢者(マグス) の記録によれば、あの時点でもかなり文明度は高かったようだし、今はもっと進んでいても不思議じゃないよ」
仁とエルザは感心し、サキとグースは自己分析した意見を述べた。
そしてハンナは目を輝かせてそれらを眺めていたのである。
一行はそのまま、町の中央通りを進み、一つの建物前までやって来た。
「ここで待て」
男はゴーレムの肩から飛び降り、
「ゴーレム5680、5681、こいつらを見張っていろ」
と言い残して、2人とも建物奥へと消えていった。
「……? ジン兄、あの人、何か違和感がある」
エルザが、隣にいた仁の袖を引き、小さな声で言った。
「分かるか?」
「……ん、よくは、分からない」
「動作を見てみるんだ」
仁に言われ、遠ざかるその背中を見つめていたエルザだったが、やがて納得したように小さく息を吐いた。
「……分かった」
そんな2人にサキが質問を投げ掛ける。
「お2人さん、何を言っているんだい? ボクにも分かるように教えておくれよ」
仁は苦笑し、口を開いた。
「ああ、ごめん。……あの男の動きを見ると分かるんだが、体幹にブレがない。動作に遊びがない。重心の移動が不自然なほど滑らかだ」
「……うーん、見ても分からなかったけど、それが何か?」
「人間じゃない」
「えっ!?」
「そ、そうなのか?」
仁の言葉に、グースも驚きの声を上げた。
「あれは、高度な 自動人形(オートマタ) だ」
「……だとすると……レーコちゃん並ということかい?」
人間としか思えないほどの 自動人形(オートマタ) なので少し焦ってサキが尋ねる。だが、それに答えたのは仁ではなく当の礼子だった。
「いいえ、サキさん、それは違います。お父さまは、わたくしたちをお作りになった時、わずかな『揺らぎ』も組み込んで下さいました」
「それってどういうことなんだい?」
これには仁が説明を補足する。
「人間の動作はかっちりしていない。止めたつもりでも少し揺れたり震えたりするし、毎回同じ位置まで手足を動かしたりしない。そういう曖昧さがないと人間ぽく見えないんだよ」
「なるほどね。ジンが言うんだから間違いないんだろうね」
「その通りです。お父さまは、わたくしたち全員にそういった曖昧さを持たせて下さいました。ですがこれは、いざという時には切り離し、正確な動作もできるのです。……このように」
そう言った礼子は、曖昧さを無くした動作をして見せる。
「お……おお、確かに不自然だね」
「でしょう?」
普段の動きに戻した礼子が誇らしげに言う。
「これはアドリアナお母さまが築き上げ、設定して下さった動作制御方式なんです」
「と、すると、あの 自動人形(オートマタ) は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の系譜じゃないということなんだね?」
だが、それに対して仁は、
「そうとも言い切れないんだよなあ。若干似たところもあるし……」
と、言葉を濁したのである。
そこに、先程の男性型 自動人形(オートマタ) が戻って来た。
「父上がお会いになるそうだ。こちらへ来たまえ」
仁は自動車から降りる準備をする。
「エドガーとアアルは自動車の番をしていてくれ。ハンナは……」
「あたしもいく!」
「わかった」
ハンナにも『仲間の腕輪』は渡してある。いざとなれば、老君からの遠隔操作でも 障壁(バリア) を張れるのだ。
仁、エルザ、サキ、ハンナ、グース、そして礼子は自動車を降りた。