軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-40 解けた謎と新たな謎

「……と、いうのが、ここに書かれていた、シュウキ・ツェツィの半生記だ」

仁はノートを閉じ、そっと机の上に置いた。

ノートには、『 賢者(マグス) 』、シュウキ・ツェツィの半生が『日本語』で綴られていたのである。

「最愛の夫人、アドリアナを研究所の地下に葬った彼は、弟子たちを連れて旅に出たらしい」

それ以降のことは書かれていなかったのである。

「 賢者(マグス) にはそんな過去があったんだね……」

「その『ティエラ』一族というのは、きっと『 始祖(オリジン) 』の血を濃く受け継いでいたんだろうな」

サキが感極まったような声音で呟き、仁も推測を口にする。

賢者(マグス) 、シュウキ・ツェツィの半生を読み、幾つかの謎が氷解したものの、深まった謎もあった。

「……でもお父さま。アドリアナお母さまは、蓬莱島の研究所でお亡くなりになりました。それは間違いありません」

礼子は静かな声でそう言った。仁も頷く。

どう考えても、今の話に出て来た『アドリアナ』と、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』初代のアドリアナ・バルボラ・ツェツィとは別人としか思えないのである。

「それは間違いないだろうな。ここに、2231年10月22日、とある。これが、アドリアナの命日なら、今から1200年以上前ということになる」

「……アドリアナ・バルボラ・ツェツィは1000年前」

「そう、エルザが今言ったように、200年の差があるんだ」

「……おそらく、というか、間違いなく同名の別人」

「だろうな」

しばしの沈黙が流れたあと、エルザが口を開いた。

「……ジン兄も、シュウキさんと同じ身体だったと、いうこと?」

「ああ、そうかもな……」

『 始祖(オリジン) 』によって造られた従者、700672号が看破したように、この世界に召喚された当時の仁の身体は、シュウキ・ツェツィと同じく、大半が魔素で補完されていたのである。

「あのままだったら、俺にも子供はできないということになるな」

「……ん」

だが今は、700672号の助言とエルザの治療により、仁の身体はノーマルに戻っている。

「……よかった」

少し頬を染めながらエルザが呟いた。

「くふ、やっぱり子供は欲しいよね、若奥様?」

「……うん。…………え、わ、若奥様!?」

ついサキの戯れ事に頷いたエルザだったが、その内容を理解した途端、真っ赤になってしまった。

「おいおいサキ、あまりからかってくれるな」

「ふふ、反応が面白くてつい」

ひとしきりさざめく一同。

「よくわかんないけど、すごいことがわかったの?」

ハンナだけは半分くらいしか分かっていないようだが。

いや、もう1人。

「……仁、聞いていると君は……」

「あ」

仁たちは、グースがいるのを忘れ、いろいろと話をしていたことに今更ながら気が付いた。

「その……礼子ちゃんは『アドリアナお母さま』と言っていたな? それに仁の身体がシュウキ・ツェツィと同じだった?……え?」

「……」

今更だが、グースの雰囲気が自然だったので、ずっと昔からの仲間のような気がしていたのである。

* * *

「……と、まあ、そんなわけさ」

こうなってしまっては、ある程度の話を打ち明けないわけにはいかなくなってしまった。

仁がアドリアナ・バルボラ・ツェツィの後を継ぐ 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であること。

これはまあ、打ち明けるにしてもあまり問題は無い。

シュウキ・ツェツィと同じところから来たということも、話の流れ上、受け入れてもらうことができた。

その先……蓬莱島のことや、『ファミリー』のこと、に関しては、今はまだぼかして説明することになったのである。

「うん、まあ、まだ出会って日も浅い。全部話してもらえるとは思っていないから、今はこれで良しとしよう」

少し残念そうな顔で言うグースであった。

「とはいえ、仁がどういう人物で、礼子ちゃんがどうしてこんなに凄いのか、少し納得がいったよ」

うんうんと、1人納得する様に頷いてみせるグース。

(グースとは昔からの友人みたいだよな……いずれ、全部話す日も来そうだ)

その日は外のテントに泊まることにした。

周囲には固体・液体・魔法に対する 障壁結界(バリア) を張る。

気体は通すので酸欠にはならないし、湿度も急上昇したりはしない。

「さて、これからどうするか」

日程的にいって、そろそろ蓬莱島に帰ってもいい頃だが、ここまで『 賢者(マグス) 』について分かってきているのにもったいないとは思う。

「あと少しだけ、北へ行ってみないか?」

仁が提案する。

シュウキの記録には手書きの地図が書かれていた。

それによれば、北に行けばアドリアナ……旧姓ティエラの実家がある、『ナミンテ』という町があるはずなのだ。

そちらには、より『 賢者(マグス) 』の手掛かりが残っているのではないかと思えた。

「うーん、そうだね。ボクとしてはそれに賛成かな」

「ん、私も」

「あたしはおにーちゃんのいくところに行くよ!」

「俺としても興味があるな。『ニューエル』といったか、その国に行ってみたい」

一行の意見は行くことで一致した。

「距離としては1日行程だろうしな」

ここからは100キロあるかないかの程度であるから、楽に1日でバッタルフまでは行けるだろう。

「くふ、町が残っているといいね」

「ああ、そうだな」

仁は黙っていたが、『ウォッチャー』からの観測で、バッタルフ以北の町や集落は今でも残っていることが分かっているので、その点は安心である。

さらに、シュウキ・ツェツィの記録にあった地図も筆写してきてある。

期待に胸を膨らませつつ、夜は過ぎていった。

翌朝早く、一行は出発。

アドリアナの研究所入り口には、元通りに土を被せて埋め戻してきた。

念のため、内部には転移用のマーカーだけは設置してある。

「……また、いつか」

仁は誰にも聞こえないような小さな声で、アドリアナの研究所に別れを告げた。

自動車は時速15キロで進んでいく。

2時間ごとの小休止と昼食を挟み、およそ7時間でバッタルフと思われる『町』が見えてきた。

「村じゃなくて町だな」

「ああ、規模が大きいな。あれから発展したんだろうな」

近付くにつれ、いよいよ町の様子が明らかになってきた。

「……小群国以上だな」

整然と建物が並んでいる様は、近代化された都市にも見まごうほどだ。

というものの、ほとんどは2階建て。高層建築やビルではない。

「……石造りの家なんだな」

そして町の外辺まであと50メートル程、となった時。

「危ない! エドガー、止めなさい!」

礼子が叫び、エドガーが急ブレーキを掛ける。

が、慣性で自動車は数メートル進み……何かに軽くぶつかって停止した。

「い……一体何ごと!?」

グースは椅子から転げ落ち、頭を振っている。

他の面々はなんとか椅子にしがみついていた。

「…… 障壁(バリア) ?」

仁がぼそりと呟くように言い、礼子がそれに答える。

「はい、お父さま。町全体を覆うようにバリアが展開されています」