軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-36 新たな目的地へ

「200キロ以上……か。かなり離れているな」

とはいえ、距離だけなら、自動車があれば移動可能である。

「ジン兄、行くの?」

部屋に戻った後、仁の顔を見つめながら、エルザが尋ねる。

「ああ、どうしようかな、と思ってさ」

旅行を始めて3週間近くなる。そろそろ蓬莱島では宇宙船に関するデータも揃ってきている頃。

一方で、かなり『 賢者(マグス) 』の謎に近付いて来たような気もしているのだが。

ダッハテへ行くか、フニシス山へ行ってみるか。なんとなくの勘ではあるが、仁としてはフニシス山には何かがあるような気がしている。

「くふ、その顔は『行ってみたくて堪らない』って顔だね」

それを察したか、サキまでそんなことを言う。

「おにーちゃんが行きたいなら、どこでもついていくよ?」

ハンナもそう言ってくれた。

「よし、行ってみるか……」

『ウォッチャー』からのデータでおおよその見当は付いている。

草原と灌木、小規模な林が広がる、比較的なだらかな地形が続いているはずだ。

そうと決まれば話は早い。仁は、フニシス山目指して旅立つ旨をファドンに告げることにした。

「そうですか、フニシス山へ……」

「ええ。食糧も水もありますし、自動車なら2日あれば着きますからね」

実際、インノからウルンまでとあまり変わらない距離であり、道……というより地面の状況次第ではあるのだが。

「お名残惜しいですが、そういうことでしたら無理にお引き留めもできませんな」

ファドンは残念そうであったが、仁としては、何らかの手掛かりがあれば探してみたくて仕方がないのである。

「……わかりました。それで、本日発たれるのですか?」

「ええ、できれば」

「……これからすぐ?」

「ええ、荷物もまとめてありますし」

「……準備もあることでしょうから明日にされては?」

「いえ、必要なものは揃っていますし」

「……道なんてありませんよ?」

「わかっています。これまでも何とかしてきましたし、これからも何とかしますよ」

「……」

何を言っても仁の決意を翻せそうもないと悟ったファドンは、大きく溜め息をついた。

「そうですか。お名残惜しいですが……」

2度も『お名残惜しい』と言ったファドン、それは心底、本音なのだろう。

* * *

一方、エルザたちが手荷物をまとめていると、そこへグースがやって来た。

「なあ、俺も連れて行ってくれないだろうか?」

「え? 君も行ってみたいのかい?」

顔を上げて答えたのはサキである。

「ああ。未知の場所にも興味あるし、君たちはその後国に帰るんだろう?」

「うーん、ジンに確認しないとわからないが、おそらくはそうなるんじゃないかな?」

「なら、尚更だ! 俺は、父親が生まれ育った土地……国を見てみたい!」

そこに仁が戻って来た。そして一言。

「いいぞ」

あっさりとOKを出した仁に、当のグースが面食らった。

「……いいのか?」

「ああ。グースの知識は頼りになるからな」

「……いいのか?」

2度目の『いいのか?』は、サキやエルザたちに向けての言葉である。

「うん、ジンがいいというなら、ボクは構わないよ。それにグースは物知りだしね」

サキが真っ先に肯定し、

「ん。ジン兄がそう言うなら」

エルザもすぐに頷いた。

「おじちゃんも来るの? 賑やかになるね」

ハンナも、何も問題は無い、という顔で頷いた。

「みんな、ありがとう」

グースは仁たち全員に向かって頭を下げた。

* * *

午前9時、仁たちは仕度を調え、ファドンに挨拶をしているところ。

「お世話になりました。それに貴重な情報もありがとうございます」

と仁が礼を述べれば、

「いえいえ。こちらこそ、『腕時計』を直していただいてありがたく思っていますよ」

とファドンが返す。

「皆様、お気ばつけて」

ファドンの妻、フレーデも名残惜しそうである。

だが、一番名残惜しそうにしていたのは孫娘のナリーだったろう。涙目でグースに抱きついていた。

「ナリー、またきっと来るから。そんな顔しないでおくれ」

グースは困った様な顔をしながらも、そんなナリーの頭を撫でていたのである。

「グース、元気でやれよ。二堂様に迷惑かけないようにな」

「はい、行ってきます」

そして彼等は出発した。

「……ねえグース、君はどんな立ち位置なんだい?」

サキが自動車の中で質問する。故郷と言っているナデの町で、なんとなくグースが浮いているような気がしたのだ。

「え? 何で?」

「いや、何で、というか……ごめん」

「何を謝っているんだ?」

いきなり謝ったサキを怪訝そうに見るグース。

「何というか、聞いちゃいけないことを聞いたような気がして?」

「はは、そんなことはないさ。ただな、俺って中途半端なんだよな……」

「中途半端?」

「ああ。何となくナデの町に……いや、フソーという国に溶け込みきれないところがあると言えばいいのかな」

グースは自嘲気味の笑いをこぼした。

「前に話した通り、母はフソーの出身だが、父は君たちと同じ国の出身だ。そのせいか、俺はフソーに馴染めないところがあってな」

「わ、わかったよ。変なこと聞いて済まなかったよ」

サキは慌てた。まさか、グースからこんな身の上話めいたことを聞かされるとは思っていなかったのだ。

「いや、いいさ。ちょうどいい機会だ。……なあ、仁」

「……どうした?」

狭い車内のこと、仁も今までの話は全部聞いていた。

「君たちの国は、俺みたいな者を、受け入れてくれるだろうか?」

「ええ? それは、亡命……とは言わないな、帰化……か? 帰化しようっていうことかい?」

「そうなるな」

「問題ない、と思う」

そのグースの質問に答えたのはエルザであった。

「ショウロ皇国では、優秀な人材は大歓迎される。グースさんなら、間違い、なく」

「はは、そうなのか。……でも、ということは、帰化したらそれなりに実績を出さないといけないということなのか」

「それは……」

そこまではエルザにもわからないので言い淀んでしまう。

「大丈夫とは思うよ。多かれ少なかれ、国民というのは義務を果たさなければならないもので、グースなら楽々義務を果たせると思うがな」

好きなことを研究して、その結果を報告すれば十分だろう、と仁が言った。

「好きなこと、か。俺は博物学者だからなあ」

「だったら、この大陸の植物、動物、鉱物、そういったものを分類して体系的に分ける、そんなことをすればいいさ」

これはサキである。

「ボクの父もそういう作業に取り組んではいるんだけど、なかなか進まないようでね」

「ああ、そうか。トアさん、だったっけ。俺の父からも聞いた覚えがあるよ。そちらでは錬金術師、というんだったよな?」

グースの父、マークも、サキの父、トアと同じように、いろいろな素材に興味を持ち、収集していたのである。

その揚げ句にハリハリ沙漠を彷徨い、フソーの端に辿り着いたというわけだ。

「くふ、そうさ。恥ずかしながら、『科学』方面はそちらの国より遅れているようだね」

科学に相当する学問はひっくるめて『錬金術』と呼ばれている点では遅れているといえよう。

それはひとえに魔法が発展していることの反動なのであるが。

「なるほどな。それなら、俺みたいな半端者でも何か役に立てるかもしれないな」

「半端者どころか、第一線でやっていけるよ。ボクが保証する」

「はは、ありがとう、サキ殿」

グースは明るく笑ったのである。