軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-37 ベルチェの誕生日

その日は、行けるところまで行き、幕営。

まだ屋根にテントを積んだままなのでそれを使う、雨も降りそうもないので、かなり快適に過ごせた。

2日目も行けるところまで、と考えていたのだが。

「……あー、もうタイヤがぼろぼろだな」

ミヤコの工場で作って取り付けたグッタペルヒャ製のタイヤが限界に来ていた。

細身のタイヤなのに重い荷物を積んで、悪路を走り続けたためである。

「ゴムタイヤだけ外すか」

外側を魔獣の革などで覆う必要があるな、と仁は反省した。とはいえ、グースにはまだそういった詳細を打ち明ける段階ではないのだが。

「……やっぱり微振動が違うな」

ゴムタイヤを外し、元々の木の車輪で走ると、やはり振動が感じられる。特に、細かな砂利によるわずかな上下動が消しきれないので、走行速度が3分の2くらいに落ちてしまうのは致し方ない。

2日あれば着けるかと思えたフニシス山だったが、もう1泊することになる。

「ところでお父さま、今日はベルチェさんの誕生日ですが、いかがなさいますか?」

テントの準備を終えたところで礼子が教えてくれた。4月22日はベルチェの誕生日なのである。

「あー……そうなのか」

ハンナの誕生日をすっぽかして以来、『仁ファミリー』のそうした記念日には注意を払っている仁なのである。

「プレゼントは考えてあるんだが……」

こんなこともあろうかと、かねてより用意はしていた仁である。

「問題はタイミングか……」

時差もあるが、グースにまだ知られたくないということがある。

その時差でいえば、ラインハルトの領地とこのあたりでは1時間30分までの差はない。

「交代で行くか」

「ん」

エルザと2人、自動車の中で相談した仁は、『車の中で身体を拭く』『下着を着替える』という建前で、一人になる時間を作ることにした。

まずは仁。

礼子が自動車の前で見張りに付き、仁は備え付けの小型 転移門(ワープゲート) を使って一旦蓬莱島に移動した。

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 』

「ただいま。……老君、早速だが、あれはできているか?」

『はい、人数分完成しております。調整も済んで、日差は10秒以内です』

「ごくろう。ミニ 職人(スミス) たちにも伝えておいてくれ」

そう、仁は『腕時計』をコピーしたのである。正確には『ムーブメント』と呼ばれる、機械部分を、だ。

このムーブメントが同じでも、文字盤のデザインを変えたりケースの材質やデザインを変えるとまったく印象の違う外見になるのだ。

「お、これはいいな」

その腕時計を元に、『懐中時計』風に仕上げたのが今回の贈り物である。

老君が『人数分』、と言ったように、仁ファミリー全員分を用意してある。まずはベルチェへの贈り物だ。

ほとんどのパーツを軽銀で仕上げたので、元の時計より軽くできている。

変えていないのはテンプだけ。ある程度の重さがないと、脱進機としての役目を果たせない上、周期が変わってくるからだ。

軽銀にして軽くした分、ケースをやや大きめに作り、懐中時計として見やすくした。

ベルチェへの贈り物なので、軽銀の表面色は緋色系統としてある。

鎖はミスリル銀。梱包・ラッピングも済ませてある。

「よし、行ってくるか」

大急ぎで着替えを済ませ、仁は 転移門(ワープゲート) を使い、カルツ村、『 蔦の館(ランケンハオス) 』へと移動した。

転移門(ワープゲート) のある地下から出て、大食堂へと向かう。その入口にはラインハルトが待っていた。

「やあジン、久しぶり。忙しいだろうに、今日はわざわざありがとう」

「いや、ラインハルトの奥方で『仁ファミリー』の仲間の誕生日だからな」

「はは、本当に済まないな」

仁はラインハルトと共に大食堂へ。

「まあ、ジン様、ようこそいらして下さいましたわ」

「ベルチェ、お誕生日おめでとう。まだお腹、目立たないね」

「ええ、4ヵ月くらいですから」

「 悪阻(つわり) が軽そうで良かった」

「おかげさまで」

そんな軽い話を交わした後、仁はプレゼントを差し出した。

「気に入ってもらえるといいんだけど」

「まあ、何でしょう?」

ラッピングを開けてみるベルチェ。ラインハルトも興味深そうに覗き込んでいる。

「……まあ、これは?」

「……ジン、もしかしてこれは時計かい!?」

「あたり」

秒針だけ省いたデザインである。

「これは12時間計といって……」

見方も簡単に説明する。ラインハルトもベルチェも、すぐに理解してくれた。

「いったい、いつ作ったんだい?」

そこで仁は、今旅行中のフソー、そのナデの町でのことを簡単に説明した。

「なるほど、そんなところにそんな遺物が……行ってみたいなあ」

「あなた、忙しいから無理ですわよ?」

「わ、分かってるよ……」

行きたがるラインハルトと釘を刺すベルチェ。

「はは、相変わらず仲が良さそうで何より」

仁は、時間が気になるのでお暇することにした。

「それじゃあ、向こうも気になるので今日のところは帰るよ」

「ジン様、本日はわざわざありがとうございました」

「ジン、ほんとにありがとう。旅行、気を付けてな」

そして仁は蓬莱島へ戻る。

『 御主人様(マイロード) 、お時間が掛かっていたので、一旦『 身代わり人形(ダブル) 』を送り込んでおきました』

「そうか、ご苦労」

なんだかんだで30分くらい掛かったので、いくらなんでも身体を拭いて着替え、という言い訳には無理があったから、ということで、老君の機転であった。

フソーの方では、仁の『 身代わり人形(ダブル) 』は10分足らずで自動車から出て来て、その後女性陣が代わる代わる着替えをしていたようだ。

仁が改めて着替え直し、自動車の中へと戻ると、もう誰もおらず、外は真っ暗であった。

ただテントの中が明るく照らされており、皆そこにいることがわかる。

「お父さま」

だが、礼子だけは自動車の外で仁を待っていた。

「お帰りなさいませ。今、『 身代わり人形(ダブル) 』を呼んでまいります」

仁が何も言わずとも、察してくれる礼子であった。

身代わり人形(ダブル) と入れ替わった仁がテントに入ると、エルザが寄ってきた。

(うまく、いった?)

(ああ。ちゃんとお祝いも渡したしな)

(ん、よかった)

「おーい仁、婚約者殿といちゃついていないでこっちへ来いよ!」

見ると、いつの間にかワインが出され、皆で飲んでいたようである。

(私たちは腕輪の解毒効果でほろ酔いにしかならない。もう少ししたらグースは酔いつぶれる、はず)

(ああ、なるほど)

グースが酔いつぶれたら、エルザとサキもこっそりとベルチェへのお祝いに行ってくるつもりのようだ。

「ああ、今行くよ」

となると、仁も協力せざるを得ない。酔い潰すため、グースにワインを勧める。

「美味いな、このワインは」

フソー北部ではいいブドウができないので、ワインもあまり流通していないのだそうだ。

グースはかなりの酒豪であったが、解毒の魔導具を持つ仁には及ばず、それから30分ほどで酔いつぶれて眠ってしまった。

ハンナはとっくに自動車の中で眠らせておいたので、エルザとサキは心置きなく、ベルチェの誕生日を祝ってくることができたのであった。