軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-32 賢者の遺物

「うーん…… 賢者(マグス) のことがもう少しはわかるかと思ったんだが……」

わかりそうでわからない、といった感じだろうか。もどかしい思いをしている仁である。

「でも、あのご本、おもしろかったよ?」

ハンナがにこにこしながらいう。

今、仁たちは予定どおり、ナデの町へ向かっているところである。

「 賢者(マグス) がどこから来たかは諸説あるんだがな、有力なのがフレインさんが言った内容だ」

「うーん……」

考えても分かることではなく、仁は情報を欲していた。

「ジン兄、『技術史』ということは、技術が発展していく、その様子をまとめた本?」

エルザから仁への質問。エルザも昨日、仁の解説を聞いていたのだが、半分くらいはちんぷんかんぷんだったのである。

それも無理はない。

仁はそれなりに下地があるので多少なりとも説明できたのであるが、ニューコメンの蒸気機関の話など、いきなり理解しろといっても無理だろうし、時計を知らなければアンクル脱進機といわれてもさっぱり分からないだろうからだ。

ハンナは、わからないことはわからないまま、まずは覚えておこう、というスタンスのようだ。これは、記憶力が良くなければできない芸当なので、彼女の記憶力が群を抜いていることが窺える。

「だけど、これで、 賢者(マグス) の専門が何であっても、あのミヤコにあった工場を作れた可能性はあるな」

他にもこうした本があるのかもしれない、と仁は考えたのである。

思えば、仁自身は文字通り裸一貫でこのアルス世界に召喚されたわけだが、それは電気炉に落ちてしまったからであって、もし服を着ていたら服も一緒に召喚されたであろうと思われる。

ならば、本を持っていたなら?

そうした『荷物』が今に伝えられているなら見てみたい、と思う仁であった。

そして昼前、一行はナデの町に到着した。

ここでも『馬なし馬車』は人々の好奇の視線に曝される。

「珍しか物やね」

「よそん国の人か」

「色白やね」

そんな声に混じって。

「あい? 一緒にいるんはグースやなかか?」

「ほんとや、グースや」

「生きとったんやね」

その言葉は、決して馬鹿にするような響きはなく、むしろ微笑ましさを感じさせるような、そんな言葉だった。

「ただいま。お客人を連れて来たよ」

そう言って手を振るグースを、集まった人々は苦笑しながら眺めていた。

そこに、フソーには珍しい馬に乗った人物がやってきた。

「お帰り、グース。で、こちらがお客人かな?」

馬から下りた中年の男性は、訛りを感じさせない言葉で話し掛けてきたのである。

「町長、そうです。彼は、ミツホでは『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』と言われた人ですよ」

「ほう、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』?」

町長と呼ばれた人物は、歳は50代中頃、がっしりした体つきである。

「ナデの町にようこそ。私は町長のファドンです」

「二堂仁です。こっちは……」

エルザたちを紹介していく仁。それが済むと、グースが目的を説明してくれた。

「彼は 賢者(マグス) について調べてるんですよ。それで……町長が保管している、例の遺物を見せてあげてもらえませんか?」

「なるほど。かまわないよ」

グースとなにやら言葉を交わしていたファドンは仁たちに向き直り、

「その……『馬なし馬車』は私の家の庭へ駐めて下さい」

と言って、50メートルほど先の家を指差した。

「正面から庭に入れて、空いた場所に駐めて結構です」

「仁、ファドンさんのところにも、ちょっと珍しい物が伝わっているんだ」

グースがそう補足する。

「わかりました。ありがとうございます」

今は 賢者(マグス) の手掛かりが欲しい時、仁は礼を言って自動車に乗り込んだ。が。

「あれ、グースは来ないのか?」

乗ろうとしないグースを訝しんだ仁が声を掛けた。

「ああ。俺は……」

「グース、君も来たまえ。二堂殿たちも知り合いが一緒の方がいいだろう」

グースが何か言う前に、ファドンがグースも誘ったのである。

そこでグースも再び自動車へ。ファドンは再び馬に跨った。

早足の馬に先導されるようにして、仁たちを乗せた自動車は町長邸の門をくぐった。

町長が一緒のため、なにも不審がられることなく門を通過。

仁たちが入ると、門は閉じられた。

町長邸の庭は広く、砂利が敷きつめられた一角がある。そこの隅に自動車を駐める仁。

ファドンは使用人に馬の手綱を渡すと、仁たちのところへ歩み寄ってきた。

「ようこそ、二堂殿。こちらへどうぞ」

ファドンに従い、仁たちはエドガーとアアルを残し、全員が下りた。礼子は姿を消して。

「おーい、帰ったぞ。お客様も一緒だ」

大きな声で家の玄関に向かって大声で呼ぶファドン。

と、慌ててた様子で数名の使用人が表へ駆け出してきた。

「お帰りなさいませ」

「お帰りないましぇ」

訛った者、訛らない者がいるようだ。

「こちらは二堂仁殿とそのご一行様だ。失礼のないようにな」

「はい、わかりました」

ところでこの家は日本式というか、靴を脱いで上がる形式だ。

グースも含め、全員が慣れているので問題ない。

仁たちに付いたのは訛りのない使用人。男1人女1人の計2名。

「まずはこちらでお休み下さい」

「まずはこいでお休みくれんね」

と、思ったら、女性の方は訛っていた。

客室に案内してもらい、手荷物だけ置かせてもらう。グースは手ぶらだが。

それぞれに個室があてがわれ、廊下を挟んだ応接室も使っていいということだ。

個室は畳敷きの和室だったのでエルザは喜んだ。対して応接室は板敷きの半洋風。

仁たちは応接室に集合し、ソファに座って寛いだ。

「お茶をどうぞ」

運ばれてきたのはほうじ茶、この地方にもお茶の木があるようだ。

通常お茶の木(ツバキ科、チャノキ)は暖かい地方で栽培される。日本では宮城県付近が北限とされており、寒さには弱いので、仁はちょっと不思議に思ったのである。

まあ、温室栽培という手もあるし、輸入している可能性もある。また、ここは地球ではないので、品種が違う可能性も捨てきれない。

そのことをグースに言うと、彼はそれについて説明してくれた。

「こちらにあるお茶の木は、南に生える物と品種が違うようだよ。木がやや高くなる性質を持っているし、葉も少し細長い」

やはり品種が違うようである。

「なるほどな。それで少し納得がいったよ」

「くふ、博物学者、というのは伊達ではないんだね」

手荷物を部屋に置いたサキがやって来て混ぜっ返した。

「味は変わらないな」

「緑茶の状態で飲み比べると違いが分かるかもな」

「ああ、なるほど」

そこへエルザとハンナもやって来た。

「お茶がおいしい」

「ほんとだね!」

全員でお茶を飲み、喉を潤していると、そこにファドンが来室。

「寛いでいただけてますかな。遺物を持って来ましたよ」

手には小さな木の箱を持っている。

「遺物はそんなに小さいのですか?」

「ええ。もったいぶる物でもありませんし、どうぞごらん下さい」

ファドンは卓上に箱を置き、蓋を取って見せてくれた。

「これは……」

そこにあったのは古い腕時計だった。

ベルトは革製だったらしく無くなってしまっていたが、本体ケースはステンレスのようで、輝きはなくなっていたものの腐食してはいなかったのである。

「何に使われた物かはわからないんですけどね。先祖が 賢者(マグス) にお願いして、いただいた物らしいです」