軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-31 古文書?

「気ば付けてねえ」

4月19日の朝、仁たちはウルンの村を後にした。

セパレィの旦那さんに会えなかったのだけがちょっと残念、と思ったハンナであった。

今日はナデの町まで行く予定である。

「ナデの町は俺の故郷なんだ。もう両親ともいないがね」

「……マークさんはそんな遠くまで行っていたのか……」

サキがしみじみとした声音で呟いた。

「ハリハリ沙漠の調査に行っていた研究者の一行に発見されて助かったと聞いている」

グースが答える。

「それで一緒にナデの町まで行って、……まあ、いろいろあって母と一緒になった、らしい」

あまり自分の両親の馴れ初めを他人に語ることが好きな者もいないだろう。

サキもそれはわかっていると見え、それ以上聞こうとはしなかった。

1時間半ほどでカイドの村、更に1時間でロムネの村。

「ここにはちょっと興味深いものがあると思うよ」

グースが仁に向かって思わせぶりに囁いた。

「知り合いが管理しているんだけどな」

そんな話を聞かされては黙っていられない。仁はロムネの村に寄り道することにした。

村入口にある広場に自動車を止めると、子供たちをはじめとする、村人がわらわらと集まってきた。礼子は相変わらず姿を消したまま仁に寄り添うようにして警護している。

「こんにちは。彼等は東ん国から来よる旅人たい」

グースが村人たちに土地の訛りで仁たちを紹介した。

彼等も、仁たちは肌の色が異なるので、一目で外国人だとわかったようだ。

「おんや、グースじゃなかか」

「やあ、ブッカー。君に会いに来たんばい」

グースの友人はブッカーといい、短く刈り込んだ焦茶色の髪、茶色の目。体格は仁より一回りがっしりしている。

「ふうん? 外国の客人ば連れちきよったっちゅうこつは『古文書』やね?」

「そうばい。見せちくれるかい?」

「読めそうな人なら、誰でん歓迎じゃ」

そこでグースは仁を見返り、

「仁、見せてくれるそうだよ」

と、訛りのない言葉で告げたのである。

そこへ、もう一人、壮年の男がやって来た。

「お客人ですかな? 私は村長のフレインです」

「ああ、父しゃん、グースが外国の客人ば連れちきよったんやと」

ブッカーは村長の息子のようだ。貴重品を管理しているというのだから、頷ける。

「そうですか。ロムネ村にようこそ」

村長は訛らない言葉で挨拶をした。

「二堂仁と言います。連れはエルザ、サキ、ハンナです」

仁も簡単に自己紹介をして挨拶をする。

礼子は姿を消しているし、アアルは車の中。エドガーだけを運転用の 自動人形(オートマタ) として紹介すると、村長は目を丸くして驚いていた。

「すごいものですね。ダッハテでもこれだけの 自動人形(オートマタ) はいませんよ」

ダッハテ、というのはフソーの首都にあたる町だとグースが耳打ちしてくれた。

「それにそちらの馬なし馬車も素晴らしい。二堂殿がお作りになったのですか?」

自動車のことを馬なし馬車、と言った村長。似たような物を見たことがあるのだろうか、と仁はちょっと考えた。

それについては後でグースに聞いてみることにし、今は『古文書』である。

「これです」

フレインは桐に似た木の箱を出してきた。ブッカーがそれをそっと開けてみせる。

「……おお……!」

仁は目を見張った。

間違いなく本である。

が、傷みが激しく、紙もぼろぼろだ。

本といったが、途中からちぎれていて、表紙はあるが裏表紙はないようである。

「……技術……史?」

表紙には漢字でタイトルが書かれていた。

「えっ?」

「二堂殿、貴殿はこれが読めるのですか?」

ブッカーとフレインが驚いた顔で仁を見つめた。

「……はい」

仁はまじまじと見つめていた。

「あの、手に取っても? ……そっと扱いますから」

「あ、よ、読めるなら、ど、どうぞ」

「ありがとうございます」

本来なら手袋を嵌めるべきなのだろうが、用意していないので、ハンカチを手に巻き、直接触れないよう注意しながら仁は本を手に取った。

「やっぱり技術史、と書いてあるな」

字体からは微妙に古くさい感じを受ける。

いわゆるハードカバーではない。表紙を開いてみると、目次があった。

泥のような茶色い汚れが染み込んでおり、一部破れてはいるが、『はじめに』『第1章 人類の誕生と技*』などと読める。*の部分は破れていて読めなかった。

文字は横書き。理系の参考書なのだろうか。

「大学の参考書か何かかな……?」

高卒の仁にはそれ以上のことはわからなかった。

もう少しページをめくってみると、旋盤やボール盤の初期モデルの図なども載っており、これを参考にすれば、仁にもそうした工作機械が作れるかもしれない、と思わせるような内容だった。

「後半がないのが残念だな……」

何ページが逸失しているのかは分からない。全部読んでみたかった、と思う仁であった。

「……仁、君はこの文字が読めるんだね? 今まで誰も解読できなかった文字を」

漢字と平仮名、しかも日本語。どんな言語学者でも、また暗号解読の名手でも、事前知識なしにこれを読み解くのは事実上無理であろう。

「ああ、読める。これは学術書……の一部だ。技術の発展、その歴史を記した本のようだよ」

仁の答えに、グースは頷き、考え込んだ。

そしてブッカーとフレインは狂喜乱舞。

「二堂様は『 賢者(マグス) 』の文字が読めるんですね!」

「読めます」

今更隠すようなことではないので仁も素直に認めた。

「……もしや、 賢者(マグス) と同郷なのですか?」

「それは、わかりません。ですが、可能性はあります」

証明のしようがないので完全に同郷だ、と言いきれないが、おそらくは……と、仁は考えている。

「 賢者(マグス) は『東の国』『極東』『島国』から来たらしい、と伝わっているのですが、その意味はおわかりですか?」

「……だいたいは」

「おおお……!」

仁の返答を聞き、フレインは興奮している。

「 賢者(マグス) の遺物を引き継いで1000年以上、その甲斐があったというものです!」

この『古文書』、いや『技術史』は 賢者(マグス) が置いていったものらしい。

「なんの書かれとるんか、誰も読めなかったとよ」

フレインの言葉をブッカーが引き取った。

「お願いします、内容を教えて下さい!」

『土下座』して仁に乞う2人。

この習慣も 賢者(マグス) 由来だろうか、と仁はちょっと頭の隅で考えたが、

「どうか、手を上げて下さいよ!」

という方が優先事項であった。

結局、その日はナデの町まで行かず、ロムネ村村長宅に1泊し、『技術史』を解説し続けた仁であった。

とはいえ、全部のページを閲覧できたし、ハンナも思った以上に喜んで一緒に眺めていたので結果オーライだろう。

その上、礼子は、内容を全て記憶し、老君にも送信していたので十分に有意義な時間であった。

既にこれには保存用の魔法が掛かっていたが、念のため、仁は『 強靱化(タフン) 』を掛け直し、本は再び保管されたのである。