軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-25 出会い

仁たち一行を乗せた自動車は進んでいく。

日が傾き始めた頃、行く手に何やら岩の塊のようなものが見えた。

「おや? あれは……」

緩やかな起伏の大地にそぐわない出っ張り。

近付いてみるとどうも建物のようである。

「石造りの上に、更に石を積んだのか」

外観はまるで小さな岩山だ。自動車を止め、眺める一行。

薄暮の空を背景に聳えるそれは、2階建ての一軒家くらいの大きさ。入口は広く開いている。

石でできた大きな『かまくら』か『イグルー』といった感じである。

「昔の休憩舎だったのかな、ジン?」

「ああ、サキの推測通りだろうと思う」

「ジン兄、ここで、泊まる?」

「……いや……中はちょっと、な」

造りはしっかりしていそうだが、寝ている間に崩れたらと思うとゆっくり寝られそうもない。

「おや?」

中を覗いていたサキが、何かを見つけたようだ。

「サキ、どうした?」

「人が……いるみたいだ」

「え?」

仁も覗いてみると、暗い中、確かに人の姿らしきものが見えた。

「まさか死んでるんじゃ……」

「いえ、体温がありますから生きていると思います」

もうあたりは薄暗く、中は更に暗いので、視界を赤外線モードに切り替えて観察した礼子が言うのだから間違いないだろう。

「……おーい、生きてますか?」

入口からサキが声を掛けた。

それに対する返事は『ぉーぅ……』というか細い声であった。

「ジン、間違いなく生きてるね」

サキはアアルを連れて中へと踏み込んだ。

仁も礼子を引き連れ、中へ。その際、礼子に命じ、天井の様子を観察し、いざとなったら固体防御の『 物理障壁(ソリッドバリア) 』を張り、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』で崩落を防ぐよう指示する。

「ジン兄、心配しすぎじゃ?」

エルザに言われるが、万が一のことを考えるとこのくらいしないと落ち着かない仁である。何せ、サキ、エルザ、ハンナ。3人とも中に入って来たのだから。

大事な『家族』を守るためなら、自分のことはさておいて、仁は慎重になるのである。

「もしもし、どうしました?」

サキがその人物に声を掛けている。『 光の玉(ライトボール) 』を灯して見ると、若い男のようだ。

「……ら……った……」

「え?」

「はらが……へっ……た……」

「はあ?」

人工石室の中はどうにも落ち着かないので、仁はその男を外へ運び出させた。

服は仁たちと似た服を着ているが、顔立ちはややミツホの住民に近い。焦茶色の髪、茶色の目をしている。

外はもう日が落ち、星が瞬き始めている。気温も下がってきた。

「車の中も狭いし……どうするかな」

「お父さま、老君に言ってテントを送らせましょう」

蓬莱島では、資材を屋外に一時保管することが多く、大小さまざまなテントが用意されている。

「ああ、そうしよう。適当な大きさの奴を送らせてくれ」

ということで、2分後、テントが送られて来た。

テントと言っても、キャンプに使うようなものではなく、イベントで来賓が座っているような、家型のもの。

軽銀のフレーム、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) 製のテント生地。

屋根だけでなく壁もあり、中で立って歩けるほど居住性はよい。

床として、 暴食海綿(グーラシュヴァム) の緩衝材が入った厚手のマットが敷かれており、そのまま寝ても痛くない。

「……これはまた……」

「わあ、すごーい!」

サキが若干呆れ、ハンナは目を輝かせる。

「……老君も、やっぱりジン兄と似た性格してる」

エルザは諦めたような声。

「ほ、ほら、中へ入ろう」

「こういう時はペルシカジュース、だろうな」

「ん」

エルザと相談した上で、男を中へ運び込んだ仁は、ペルシカジュースを入れたコップを取り出し、差し出した。

「……飲めるか?」

男は一気に中身を飲み干す。その様子は、仮に毒が入っていたとしても構わずに飲んでしまうだろうと思わせられた。

「……お代わり」

少し元気が出たのか、お代わりを要求する男。仁は笑って2杯目を注いでやった。

更にもう1杯ペルシカジュースを飲み干し、男は深い溜め息をついた。

「ありがとう。……ところで君たちは、誰だ?」

「そこからかい」

眺めていたサキが呆れたように笑い出した。

「俺は二堂仁。この子がハンナ、そちらがエルザ。で、笑っているのが君を見つけたサキ」

「……そうか。俺はグース・ミナカタという。博物学を専攻している」

グースは自己紹介をした。

「二堂仁、と言ったか。二堂がファミリーネーム、でいいのかな?」

「あ、ああ、その通りだ」

驚いたことに、グースと名乗るこの男は、『二堂仁』という発音をネイティブに発したのみならず、姓と名を過たず区別したではないか。

「では二堂君、助かったよ。いやな、大サハラ沙漠の調査旅行に出たはいいが、食糧が尽きてしまって、ようやくここまで戻って来たはいいが、もう4日も何も口にできなくて動けなくなっていたんだ」

「たまたま俺たちが通り掛かったからいいようなものの、そうでなかったらどうするつもりだったんだ?」

「さあなあ。ここで干涸らびていくしかなかったろうな……だから助かったよ、ありがとう」

さらっとものすごいことを口にするグースである。

「今回は完全にしくじった。その責任を取るしかないと、もう半ば諦めていたよ」

「……はあ」

かなり変わった男である、と仁は思った。今まで会ったことのないタイプだ。

「で、君たちはどこから来て、どこへ行くんだ?」

「ミヤコという町から来て、北へ向かっている」

仁の説明にグースは顔を輝かせた。

「そうか! ならちょうどいい。俺を一緒に連れて行ってくれないか? 道くらいなら分かるし、見たところ『フソー』の者じゃないだろう?」

「『フソー』?」

「やっぱりな。国の名前も知らないとはな。『フソー』というのは君たちが向かっている国だよ。君らは『ミツホ』から来たんだろう?」

グースの頭の回転は悪くないらしい。短い会話でかなりのことを知り得たようだ。

「何の用があるかは知らないが、『未知を目指すその 志(こころざし) や良し』」

そこまでグースがまくし立てた時、今まで笑って聞いていたサキが口を出した。

「装備の不備で死にかけてた奴が何を偉そうに」

「お、おい」

サキにしてはかなり辛辣な言葉である。

「うん? 知識の追究を馬鹿にするのか?」

これに対しグースも反論。

「違う! 何様か知らないが、ジンを見下したようなその言い方が気に入らないね。そもそも助けてもらっておいてその態度はなんだい」

「礼なら言ったろう」

「あんなのを礼というのかい、君は!」

「お、おい、サキ」

いつになく熱くなったサキに驚く仁。エルザも目を丸くしている。

「おねーちゃん、ケンカしちゃ、だめっ」

ハンナも心配している。

「ああ、すまない、みんな。なんか腹が立ってさ。……ミナカタ殿、すまなかったな」

サキはそれだけを言うと、テントを出て行ってしまった。アアルがその後を追いかけていく。

「エルザ、ここを頼む」

心配になった仁はテントを出たサキの後を追いかけたのである。