軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-26 過去

外はもう真っ暗だった。

が、礼子がサキを見つけてくれる。

「お父さま、サキさんは自動車の中にいます」

「お、そうか」

仁もサキの後を追って自動車へ。

「サキ、一体どうしたって言うんだ?」

サキは自動車のシートをリクライニングさせ、そこに 凭(もた) れていた。

「……ジンかい。みっともないところ見せちゃったね」

「いや、それはいいんだが……」

「くふ、あいつがさ、昔のボクに似ていて……いや、違うな。あいつが旅を甘く見ている気がして、腹が立ったんだ」

それを聞いた仁は、察するところがあった。

「そうか……そういえばサキも、以前は錬金術師として旅もしたことがあったんだっけ?」

「くふ、お恥ずかしい話さ。ボクはほとんど旅の経験はない。危険だからと、父はつれていってくれなかったんだ。……その父は、ああ見えて、綿密な計画を立てていたよ。日程オーバーしても予算や食料が足りないなんてことは一度もなかった。だからボクは、今でも父は家を空ける事が多いが、あまり心配しなくて済むのさ」

仁は無言で頷いた。

「……そういう意味では、ボクに似ているのかもしれない。ボクも、父の教えがなければ、彼と同じように遭難しかねない性格しているような……気がするし」

冒険と探検は違う、と聞いたことがある。

冒険はその名の通り、危『険』を『 冒(おか) 』すこと。

探検は『探』し、『 検(しら) 』べること。

サキの父、トアがやっていたのは探検で、あのグースがやっているのが冒険だとすると、サキが苛立つのも分かる気がした。

サキは、その昔に、父の友人だった錬金術師が、珍しい鉱石を探しに旅に出て、そのまま帰って来なかったと聞いたことがある、と仁に語った。

「ボクがまだ生まれる前、というか、まだ父が母と一緒になっていなかった頃の話だそうだけどね」

親友、といえる間柄だったそうだ。

「その人の話をする時の父は、本当に懐かしそうで、そして語り終えた時の父はこの上なく寂しそうだったよ」

だから、自分に出来る最大限の努力もせずに遭難しておいて、それを冗談めかして言ったことが我慢できなかった、とサキは結んだ。

「……サキ」

「くふふ、こんなのボクらしくないって思ってるんだろう? いいさ、別に」

その時、外で物音がした。見ると人影が1つ。仁はドアを開け、確認する。

「……ミナカタ?」

人影はグース・ミナカタであった。

「すまん、サキ殿。貴殿の気持ちも知らず、つまらない物言いをしてしまった。俺はお調子者だからな、時々失敗するんだ」

「ま、まさか、話を聞いていたのかい?」

グースは頷く。

「ああ、聞く気はなかったんだが、窓が開いていたので聞こえてしまった。……それで俺からも一つ聞きたいことがあるんだが」

「何かな?」

「……その……帰って来なかった、という、貴殿の父上の友人の名はわかるかい?」

「ん? ……えーと……確か、『マーク』と言ったな。姓は……分からない。覚えていない」

「いや、それで十分だ。……そうか、そうなのか……」

マーク、その名を聞いたグースは天を仰いだ。

「……」

しばしの沈黙の後、グースが口を開いた。

「俺の父の名は『マーク』という。母は『ユン』。2人とももういないが、な」

「ミナカタ殿、そうすると君は……!」

その告白に驚くサキ。

「父はハリハリ沙漠で迷った末に、我がフソーへと辿り着いたそうだ。その父から聞かされたことがある。サキ殿、貴殿の父上は『トア』というのだろうか?」

サキは無言で何度も首を縦に振った。

「そうか……偶然とはいえ、 奇(く) しき巡り会いだなあ……」

グースは、感慨に耽るかのように目を閉じた。

「父からは何度も、調査行には装備が重要だ、とか、生きて帰るために準備を惜しんではいけない、とか聞かされたもんだよ」

サキは黙って聞いていた。

「『未知を目指すその 志(こころざし) や良し』、っていうのも、父が好んで口にしていた言葉なのさ。決して二堂殿を見下したわけじゃない」

そこでグースは頭を下げた。

「サキ殿、誤解されるようなことを言ってすまなかった」

「い、いや、わかってくれればいいんだ」

「俺はお調子者だから、気が付かないうちに不愉快な思いをさせていたんだろう」

その時、グースの体勢が崩れた。サキは咄嗟にそれを支えてやる。

「お、おい! 大丈夫かい?」

「あ、ああ、済まない」

「くふ、体力はそう簡単に戻らないか。こっちこそ、無理させてしまったようだね」

「なら、おあいこってことで」

「ああ、そうしておこう」

和解は成ったようだ。仁もほっと小さく溜め息をついて、テントへと戻ったのである。

その夜は、全員テントで寝ることにした。

一番奥にエルザ。順にサキ、ハンナ、仁、そしてグース。

アアルは入口で見張り、エドガーは自動車の番。礼子はいつも通り仁のそばに陣取った。

「思ったより寝心地がいいね」

とはサキの言葉。ハンナはすぐに寝息を立て始めた。

そしてエルザは、サキの珍しい一面を見た、と考えながら眠りに落ちていったのである。

また、グースも、まだまだ体力は回復しておらず、仁が差し出したペルシカを食べると横になり、すぐに眠ってしまった。

仁だけが一人、目が冴えて眠れないでいる。

(ミナカタ…… 建御名方(タケミナカタ) ? それとも南方……? おそらく母方……『ユン』さんの名字なんだろうけど……それに『フソー』……扶桑、か……)

グースが口にした言葉は、仁にいろいろな物事を推測させるに十分だった。

足りないピースでパズルを組み上げようとするのが無駄だと言うことはわかっているのだが、なかなか思うようにはいかない。

(シュウキ・ツェツィ……ツェツィ……『筒井』? ……かもしれないな……)

そして考え倦ねた頃、仁もようやく眠りに就いたのである。

* * *

「うおおーっ、こ、これはなんだ!」

テント場に大声が響き渡った。

「な、何ごとだ!?」

「な、なんだい!?」

「……うるさい」

仁、サキ、エルザはそれぞれの反応を見せた。

テントの外では、自動車を見たグースが文字通り踊り回っていた。

ハンナはと見ればもう起きていて、グースと一緒に外にいるようだ。

「おじちゃん、朝はしずかにしよう?」

などと 宥(なだ) める声が聞こえる。

「し、しかしだな、馬がなくても動く馬車だぞ? それにこの窓! ……石英を溶かして固めた物なのかな? それにしても平らすぎる!!」

「……おはよう」

「あっ、おにーちゃん、おはよう!」

テントを出た仁に気付いたハンナが駆け寄ってきた。

「グース殿、もう身体はいいのか?」

仁に声を掛けられ、グースはようやく少し落ち着きを取り戻す。

「二堂殿、貴殿がこれを作ったそうだな!」

とはいえ、テンションはまだまだ高い。

「フソーにも技術者はいるが、貴殿ほどの者はいないな。いや、大したものだ。昨夜サキ殿が『見下したような』、と憤っていたが気持ちは分かる」

と、そこでグースの足元がふらついた。

「大丈夫か?」

心配する仁に、

「い、いや、できたら食事にしてもらえるとありがたい」

と苦笑いを向けるグースであった。