軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-22 更にその先へ

「はじめまして皆様」

図書館用ゴーレムがお辞儀をした。

「お前の名前は……『ビブリオ』だ」

「はい、私の名前はビブリオです。どうぞよろしくお願いいたします」

仁は図書館管理長のエーデと、首長ヒロを紹介し、命令権を割り振った。

「ビブリオ、これからお前はこの図書館に関する業務をサポートするんだ」

「はい、かしこまりました」

仁は命令権の設定をしたあと、ヒロたちにビブリオのことを改めて説明する。

「図書館の業務全般に使ってやって下さい。本の複写や修繕もできます」

「ジン様、ありがとうございます! これで貴重な資料の保存が進められます!」

仁は、貴重な本は写本を展示し、原本はきちんと保管するほうがいいとアドバイス。

ヒロもミイもエーデも神妙な顔でそれを聞いていた。

「一度本を読ませれば、その内容を記憶してくれます。100ページの本でおおよそ1万冊分くらい」

「い、1万……」

絶句するエーデ。ヒロとミイも驚きを隠せないようだ。この図書館にある本は多く見積もっても2000冊くらいだから。

「最後になりましたけど、このビブリオの整備は工場の整備用ゴーレムにできますから」

「おお、そうでしたか! それはとても助かります!」

とはいえ、動力部分が 魔導樹脂(マギレジン) であるゴーレムは整備不要なので、よほど不調にならない限りはその必要はないのである。

「ビブリオにはこの服を着てもらいましょうか」

図書館職員の制服を着せることにした。知らない人間がいきなりゴーレムを見たら驚くだろうからだ。

職員の制服を着ていれば、多少は驚きを抑えられるだろう。

「おお、なかなか似合ってるな」

「ありがとうございます」

そんなわけで、服を着たビブリオと一緒に図書館内を巡ってみる仁たち。

「へえ、空調がちゃんとなされているな」

温度・湿度が一定に保たれているのを感じる。

予備倉庫を見てみたが、こちらも空調されていた。ちょっと整備すれば、古書の保管に十分役立つだろう。

ということで、仁は10分ほどかけて空調魔導具の再調整を行ったのである。

「ジン様、ありがとうございました!」

「いえ、約束しましたしね」

これで仁は、約束したことを果たしたので気が楽になった。

とはいえ、記憶させた本の内容が老君に送られることまでは打ち明けられなかった仁である。

(こちらでも大切な本や貴重な本はバックアップしておきますから)

心の中で呟き、頭を下げる仁であった。

この日の午後は、残りの時間をのんびりと過ごすことにした。

ミイを交え、お茶を飲みながら雑談である。

ミイはミツホや周りの町の話。

サキがショウロ皇国の話。

ハンナはカイナ村の話。

エルザは時々合いの手を入れたり、サキの補足をしたり。

仁はどちらかというと聞き役に徹して。

「サキさんって、物知りなんですね!」

「そ、そうかな?」

「ええ、すごく! それをひけらかさないのも魅力的です!」

「み、魅力的?」

一部、仁が理解したくない会話が挟まっていたような気がするが。

楽しい、時間が経つのも忘れるひとときであった。

* * *

別れの日、4月14日の朝。

迎賓館前は仁たちを見送る人の群れで溢れていた。

仁たちが出発することをどこから聞きつけたのか、大勢の人たちが押しかけてきててんやわんやの騒ぎになっている。

そんな中、首長ヒロは約束通りに、水銀とミョウバンの試料、それにタップとダイス、それに石鹸を持って来てくれていた。

「……結構多いな」

水銀は10リットルほど、ミョウバンも10リットル容器。

タップとダイスは2ミリから10ミリまで、1ミリ刻みに全サイズを2セットずつ。石鹸は10キロ入りが10箱。

そこまでは良かったのだが。

「……食糧、ですか」

米の入った袋が5つ、およそ100キロ。

ビンペイ(味噌)が10キロ。

干し肉2キロ、干し魚2キロ。そして10リットル入りの水の容器が5つ。

「まあ、積めますけど」

屋根の上にも荷物を積めるので、積んだあと雨に濡れないよう防水皮革(魔獣の革)を被せておけば大丈夫。

床下にも収納スペースがあるので、試料やタップ・ダイスはそこへ。

シートの間にも詰め込み、なんとか全部を搭載することができた。

ゴーレムアームサスペンションなので、沈み込むこともない。

「ちょっと狭いだろうが、我慢してくれ」

「くふ、仕方ないね」

そんなこんなで、ようやく出立の準備が整った。

いよいよ自動車に乗り込む仁たち、その背中に沢山の言葉が投げ掛けられた。

「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、ばんざい!」

「ジン様、本当にありがとうございました」

「ジン様、きっとまたいらして下さい」

「ジン様、尊敬してます」

「エルザさん、サキさん、お名残惜しいです……」

大勢の声に送られて、仁たちの乗った自動車はゆっくりと走り出した。

サヤマ湖を回り込むように付けられている街道を行く自動車。

見送りに集まった人たちは、仁たちを乗せた自動車が見えなくなっても、しばらくはそこに立ち尽くしていた。

* * *

「……楽しかったな」

「……ん」

「うん!」

「……うん」

仁たちも、ミヤコの町で過ごした数日間は、忘れがたいものになっていた。

それとは裏腹に、高度な技術も、継承者がいないと時の流れに埋もれてしまうことを感じた仁であった。

街道をひた走る自動車。

道中、多すぎる荷物は蓬莱島に送ってしまったため、車内はすっきりしている。

その日は、クレを回ってインノ泊まり。ゆっくり走っても午後の早い時間に到着した。

クレにもインノにも、ミヤコから連絡が行っていたとみえ、大勢の住民に歓迎された。

「おにーちゃん、大人気だね!」

「お父さまは『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』ですから!」

インノの宿。礼子はハンナと遊んでいる。何やら話しているな、と仁は聞き流しながら、明日以降の旅に思いを馳せていた。

「いよいよ道なき道、だ。でも、過去には街道が通っていたというのだから、道の名残はあるはず。おそらく『ウォッチャー』から見たルートが正しいはず」

「ん、そう思う」

「ジン、もらった地図はどうなんだい?」

エルザとサキも、翌日以降の展開に興味津々である。危険がない、ということはないだろうが、今の仁たちに危害を加えられるものがいるとは到底思えなかった。

「うん、とにかく北西に見える山の麓を回り込む感じだな」

おそらく高低差はほとんどないルートだと思われる、と仁は付け足した。

「とにかく、明日だ」

仁はわくわくしていた。この世界に来てから、ほとんどが 第5列(クインタ) や 隠密機動部隊(SP) に下調べしてもらった場所へ、 転移門(ワープゲート) や転送機や飛行機で訪れてばかり。

今回も、それなりに下調べはなされているが、今までとはレベルが違う。

この旅行は仁としても非常に楽しみであったし、楽しんでもいた。

(この旅行から帰ったら、また忙しくなるしな……)

宇宙船の開発や、世界会議開催にも心を砕かなければならない日々が来るだろう。

それ自体は嫌ではないのだが、やはりこうした自由な日々が、一番楽しいのは事実。

そんな想いをおくびにも出さず、仁は明日からの旅に思いを馳せるのであった。