作品タイトル不明
26-23 閑話52 ミツホ南部にて
仁たちがミツホを訪れるよりも前のこと。
仁の命を受けた『ジョン・ディニー』……その正体は仁の身代わり人形の1つ、『デウス・エクス・マキナ』をベースにした 自動人形(オートマタ) である……は、ミツホの南部を目指して旅をしていた。
セキの町までは来た道を戻るだけ。そこまではセキの町副町長のダローと一緒だった。
そしてセキの町にはマヤが待っていた。
「ジョン、聞いたで。名誉 魔法職人(マギスミス) になったんやてな。知り合いが出世して、あたいも鼻が高いわ」
「マヤさん、わざわざ来てくれたんですか」
「おめでたいことやからな」
セキの町では、ダロー、マヤらによって壮行会が開かれ、楽しいひとときを過ごしたジョンであった。
セキの町で一泊した翌朝、ジョンはダロー、マヤとここで別れることになる。
「ジョンさん、あんさんと知り合えてよかったわ。これから先、気い付けてな」
「ジョン殿、またいつかお会いしたいですね」
「ええ、マヤさん、ありがとうございます。ダローさん、いろいろお世話になりました」
そしてジョン・ディニーは一人、ゴーレム馬に乗って南を目指したのであった。
* * *
カンオン、イヨときて、タマ街道と呼ばれる道を一旦西へ。タマ湖畔のドーゴという町に到着した。
「ドーゴ、か、温泉でも出るんでしょうかね」
などと考えながら町に入ると、そこかしこから白い湯気が。確かに湯煙である。
「やっぱり温泉の町なのですね」
真っ直ぐ町長の所へ行き、身分証を見せるとすぐに受け入れられた。
ということでジョン・ディニーはこのドーゴに1週間ほど留まり、道具の整備をすることになった。
その風貌により目立つかとも思われたが、意外と白い肌をしている住民も多い。
(ショウロ皇国側からぽつぽつと人が来ているんでしょうかね)
老君はそう分析する。
おかげで、あまり騒がれなかったのは僥倖であった。
加えて、服装もミツホ風に合わせているので尚更である。
更に驚いたことには。
「あまりやることがないですね……」
ここは、魔導具を使用していないのである。また、普通の道具は自分たちで修理できるレベル。
そう思って見ると、この町の生活水準は、ミヤコの町に比べ、やや低いとも思える。
かといって、不自由しているようにも見えない。ほどほど、というのだろうか。
(こういう生活はある意味望ましいのでしょうね)
あくせくせずに日々の暮らしが送れているというのはいいことなのだろう。
気候が穏やかというのもその一因かと考えられた。
建物は木造、板屋根が多い。
タマ湖周辺には森林が広がっているので、木材資源が豊富なのだろう。
「おや? あれは……」
温泉浴場の前に置かれた縁台に座り、2人の老人が向かい合って何かやっている。それをまた数人の見物人が眺めていた。
「……将……棋……?」
どう見ても将棋である。将棋盤に駒。
駒は五角形で、『歩兵』『香車』『桂馬』『銀将』『金将』『角行』『飛車』『王将』『玉将』、全て揃っている。
文字自体はあまりきれいな字ではなかったが……。
* * *
こうした文化を、蓬莱島の頭脳、老君は、記憶し、解析していく。
『 御主人様(マイロード) のいらっしゃる北部と、ジョン・ディニーのいる南部ではかなり様相が異なっていますね』
南部は 自由魔力素(エーテル) 濃度が低いから魔導具が少ないということも考えられる。
そのため、魔導大戦の影響を受けずに、今までどおりの暮らしをしているという推論である。
服装や髪型は異なるが、江戸時代的な安定感、といえば多少は近いであろうか。
『だとすると、更に南の町はどうなっているのでしょうか』
仁がこれからなすべきことへの参考にするため、更なる情報を欲する老君であった。
* * *
ドーゴをあとにしたジョンは、タマ湖周辺にある町や村を一周し、イヨの町で本街道に戻って南下を再開した。
マルカム、クヒラ、サヌキ。
( 御主人様(マイロード) の記憶にある地名に酷似していますね)
クシマ、オボケ、コボケ。
(確か大歩危、小歩危という地名があったのは四国、という地方でしたね)
日本地図を眺めていて、面白地名を発見することに興じたことのある仁であった。
カカワ、ナブキ、タノ、シング。
ここでジョンはどちらへ行こうか少し考えた。
左へ行けば『テンリュ川』沿いに海へ続く街道。
真っ直ぐ行けばコーチを経てトサに至る本街道。
「真っ直ぐにしますか」
発展しているというコーチの町でまた考えよう、ということにしたのである。
* * *
『ヘンロ、アワー、ですか。これもまた似ていますね』
遍路と阿波、の漢字を当て、老君は推測を重ねる。
『四国に関連する地名が多いのは、命名者が四国出身なのでしょうか』
これに関しては推測の域を出ない。まだまだ情報不足である。
* * *
ジョン・ディニーが南下するにつれ、緑が増え、さながら穀倉地帯といった風景になってきた。
季節柄、作物は小麦・大麦だが、見たところ水田らしきものも散見される。
「 御主人様(マイロード) がごらんになったら懐かしい、と仰いそうな風景ですね……」
どこか日本的な農村風景がそこにあった。
彼はどこへ行っても歓迎された。
聞くところによると、彼のような肌の色をした旅人には『魔法』を使える者が多く、いろいろと地元に益をもたらしてくれるということである。
「悪い奴はいなかったのですか?」
あまりに純朴な物言いに、かえって心配になったジョンは、コーチの町に着いたとき、そんな質問を投げ掛けてみた。
すると、彼を歓待した町長曰く、
『いませんでした』とのこと。
これをどう考えるか、老君も悩む。
平和と言うことか、それとも単に悪い奴……犯罪者を見つけられないだけなのか、と。
考えてもしかたのないことではあるが、気になるのは確かだ。
(そういう穏やかな種族がいてもおかしくはないわけですが)
地球人を基準に考えてはいけないのかもしれない、とジョン=老君は認識を新たにし、深く追究はしない。
優先すべきは、『仁に取って役立つもの』なのだ。
(もしかしたら、 隠密機動部隊(SP) のような秘密警察があるのかもしれませんが……私には関係ないですしね)
悪いことをするつもりなど毛頭ないのだから、そういった組織とこの先関わるとも思えなかった。
* * *
トーヨ、ヤナセ、ミーマとたどり、ついにジョンはコーチに到着した。
「さて、どちらへ行きますか」
ここで改めて考える。町でいろいろ話を聞き、参考にするつもりだ。
そして決めたルートは南下である。まずは一旦海まで出てみようと考えた。
オーノ、ショード、ラシキ、ツヤマで1泊。
ビンゴ、ミマサ、クラッシ、そしてトサである。
トサは海辺に開けた町で、正面には砂浜が広がる。眺めとしては遙か彼方まで広がる水平線が全てだ。
緯度としてはポトロックより少し赤道よりといったところか。
調査の結果、赤道を越えて南回帰線近くまで行くと、 自由魔力素(エーテル) 濃度が低くなり、通常の 魔素変換器(エーテルコンバーター) では十分な 魔力素(マナ) を発生できなくなるというデータがある。
今現在ジョンに搭載されている『 魔力反応炉(マギリアクター) 』なら、もう少し南まで行けることもわかってはいた。
が、さすがにそこまで南下するつもりはない。
(ここトサ周辺でしばらく情報収集に努めましょうかね)
ということで、しばらくトサに腰を落ち着けることにしたジョン・ディニーであった。