軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-17 ゴムタイヤ

「皆さん、よく眠れましたか……って、どうしたんですか? 寝不足のようですね。何か不手際でも?」

朝食後、ミイがやってきて、まだ眠そうなサキとエルザを見てそんなことを言った。

因みに仁は、ブラック企業に勤めていただけあって、2晩くらいの完徹は平気である。自慢できるようなことではないが。

「ああ、ちょっと昨夜、話し込んでしまって……遅くまで起きていたんですよ」

仁がそう言うと、ミイは納得したように一人で何度も頷いた。

「目録ご覧になってらしたんですね」

違うというのも何なので、仁は曖昧に笑って済ませた。

「それでは本日はどう致します? 街巡りはやめておきますか?」

「俺は、普通の商店とかも見てみたいんですが」

「あ、あたしも!」

「……いっしょに行く」

「ボクも」

寝不足の2人も行くというので、ミイが人力車を呼びます、といって立ち上がる。それを仁は止めた。

「いや、そうすると俺のことがばれてしまうから徒歩で行きたいんだけど」

だが、ミイはそんな仁の言葉を笑って否定した。

「それは意味がないと思いますけど……だってジン様たち、肌の色が私どもと全然違いますもの」

ああそうか、と、仁も納得する理由である。こればかりは急には変えられない。

「じゃあ、いっそのこと、自動車で回ろう……」

と言いかけた仁は、不意に何かに気が付いたようだった。そして叫ぶ。

「そうだ、タイヤをゴムにしよう!」

今のタイヤは弾力のある樫の木を使い、表面に魔獣の革を貼り付けた長距離仕様であるが、やはりゴムタイヤの方が乗り心地はいいだろうと仁は考えたのである。

同時に、

「午前中、工場へ行って改造してくるから、エルザとサキは待っていてくれていいよ」

と、寝不足の2人をそれとなく 労(いたわ) る仁であった。

ということで、仁、ハンナ、礼子の3人で工場へ行くことにした。この面々の場合、運転は礼子がして、エドガーはエルザに付いていることになる。

「……行ってらっしゃい」

「またお昼にね、ジン」

2人に見送られ、ジンは迎賓館を発った。

自動車は目立つ。仁が乗ってきたということは、既に街中が知っており、行く先々で見物人が出ており、自動車に向かってお辞儀する者も多かったのである。

「……なんだか、必要以上に目立ったな」

「おにーちゃん、すごいもんね」

ハンナの率直な賛辞を受けつつ、自動車は堀を渡って工場前に到着した。

「いらっしゃいませ。どんなご注文でしょうか」

工場長 自動人形(オートマタ) が出て来て尋ねる。このあたりは、決められた手順なのだろう。

「ゴムタイヤが欲しいんだ」

と仁は告げてみた。どの程度の対応能力があるのか知りたかったのもある。

すると工場長は、

「ゴムでタイヤを作るのですか? 申し訳ございません。まだグッタペルヒャの在庫が十分ではないのでお待ちいただくことになります」

と、きちんとした対応を見せた。

「わかった。少し待たせてもらおう。ハンナ、見学させてもらうとしよう。……いいかな?」

「はい、もちろんです。大人1名、お子様2名ですね。私がご案内させていただきます」

礼子も子供1名に数えられたようだ。

「よろしく頼む」

仁は頷いて、3人で工場長 自動人形(オートマタ) の後を付いて行く。

「ここは金属加工部です」

簡単な造りの旋盤やボール盤、金属用バンドソーなどがあり、今は自転車のフレームを作っているところであった。

「ここは石材加工部です」

今現在は作業されてはいない。が、石材用のカッターやタガネは、先日仁が見た時に比べ、整備されていた。

「ここは木材加工部です」

ここも今は作業は行われていない。が、ここも、工具・工作機械の整備は十分なされていた。

続いて2階に上がった仁たち。

「ここは化学系加工部です」

少量届いたグッタペルヒャを加硫し、ブレーキパッドを作っているところであった。

その加工技術もさりながら、ちゃんと『化学』という言葉があることに感心した仁であった。

* * *

ところで、仁は、密かに礼子に命じ、老君に連絡を取っていた。

その内容は、『グッタペルヒャの一時的な増産』である。

その指示を受け、老君はまず 職人(スミス) 11を転送機でサヤマ湖西部の森へと派遣した。

職人(スミス) 11は、樹液を採っているのが、カイナ村や蓬莱島にあるお茶の木=ペルヒャと同じであることを確認。

『それなら蓬莱島の在庫を少し分けてあげることができますね』

目的は仁の自動車用のタイヤを現地で作ることであるから、老君は 躊躇(ためら) わずにペルヒャ系ゴムを容器に入れてサヤマ湖西部の森へ転送した。

それを受け取った 職人(スミス) 11は、現地の作業用ゴーレムが集めているペルヒャ系ゴムに紛れ込ませた。

見たところ、作業用ゴーレムの知能程度はそれほど高くない。

作業に必要な知識と判断力は有しているが、それ以外の分野については無知に近いようだ。

新たに差し入れたペルヒャ系ゴムの品質を判断することはできても、それがどこからもたらされたかを気にしないことを、 職人(スミス) 11は姿を隠したまま観察し、そして確認していた。

彼等は予想どおり、増えた素材に関しては疑問を抱くことはなかったのである。

『論理回路の判断部分が未熟ということですか。このあたりは問題ありですね。ですが、初期のゴーレムである以上、仕方ないのかもしれません』

作業用ゴーレムの自律性を検討した際には、他所から資材がもたらされるなどという事態はまったく想定されていなかったのであろうことは容易に推測できる。

本当に必要な、資材の品質判断などはできているから、大きな問題は起きないと考えられたのであろうか、と老君は推理した。

『いずれにしても、これで 御主人様(マイロード) が必要とする分が送られるでしょう』

* * *

資材用 転移門(ワープゲート) から送られてくるペルヒャ系ゴムの量が一気に増した。

工場長は、それがどういう理由か、というような疑念を抱くことはなく、即座に製造ラインに回していく。

(ああ、自律型とはいっても、判断領域が狭いんだな……情報容量も少ないから仕方ないのか)

工場長は工場長で、どうして送られてくる資材が増えたのか、という疑問はまったく抱いていないところから、仁も老君と似たような結論を引き出していた。

完全分業といえば聞こえはいいが、相互チェックがなされていないというのは非常に危うい。

(そこまで干渉するわけにもいかないな……)

まずは、システムを復旧したことで良しとしておこう、と仁は気持ちに折り合いをつけたのである。

「おにーちゃん、工場長さんが来たよ?」

そんなことを考えていた仁は、ハンナの声で我に返った。

「お待たせしました。ただ今をもちまして、グッタペルヒャの在庫が規定量を超えましたので、ご注文を受け付けることができるようになりました」

「おお、そうか。それじゃあ……」

仁は、欲しいタイヤの大きさ……外形、内径、巾、硬さ、断面形状などの情報を工場長に伝えた。

「承りました。詳細な情報ありがとうございます。さっそく生産を開始させます」

工場長 自動人形(オートマタ) は、監督ゴーレムを1体呼び出し、説明を行った。

監督ゴーレムはグッタペルヒャの加工ラインへ向かい、作業用ゴーレムに指示を出す。

作業用ゴーレムは指示に従い、グッタペルヒャを加工していく……という流れであった。

「うーん、なんというか、効率が悪いな」

蓬莱島なら、 魔素通信機(マナカム) を使って一瞬で情報伝達ができる。というか情報共有がなされているので、『説明』という工程は最初の1回だけで済むのだ。

「ですがお父さま、『 魔素通信機(マナカム) 』がないなら仕方のないことではないのでしょうか」

「まあ、な」

礼子の言うことは正しい。

1000年以上前に整備された工場と蓬莱島を同じ基準で判断してはいけないのである。

「そういう意味では、この工場、すごいよな」

蓬莱島を比較対象に選ばなければ、この世界でも他に類がない生産設備である。

ますます『 賢者(マグス) 』に興味が湧いた仁。

そんな仁の前に、要求通りのグッタペルヒャタイヤが4つ、運ばれてきたのは30分後であった。