軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-14 完全修理

「ふうん、そんなことになっていたのか」

迎賓館の部屋で、仁はサキたちに今日の報告をしたところである。

「ハンナはどうだ? 面白かったか?」

「うん、おにーちゃん。いろいろ勉強になったよ。あ、一つ教えてほしいことがあったの」

「何だい?」

「えっとね、『げんそ』と『げんし』と『ぶんし』の違いがよくわからないの」

仁は驚いた。その辺は小学校高学年では習わないレベルの理科である。ハンナは今年10歳、小学校でいえば4年生の歳だ。

それでも、ハンナが頭がいいことは知っていたし、知りたいといわれて教えない仁ではない。ましてサキも仁の説明を聞きたがっているような顔だ。

「まず、分子。分子は、もの……『物質』の最小単位だ。たとえば水は水分子が集まっているんだよ」

「うん、そこまではなんとなくわかってる」

真剣な顔で頷くハンナ。

「そうか。で、その分子を作っているのが原子だ。水分子は酸素原子1個と水素原子2個からできているんだが……わかるか?」

一気に話が難しくなるので心配したが、意外なことにハンナは肯定して見せた。

「うん、わかるよ、おにーちゃん」

「で、元素、というのは、原子を分類した時の呼び名、といえばいいかな。この辺は慣れもあるかと思う」

その他にも例を出していろいろと説明した仁であるが、ハンナはそのほとんどを理解したではないか。

「ハンナは頭がいいな。びっくりしたよ」

説明を終えて仁が褒めると、ハンナは嬉しそうに微笑んだ。

「えへ、もっともっと勉強して、早くおにーちゃんのお手伝いできるようになりたいの!」

「そっか、ありがとうな、ハンナ」

仁も嬉しくなってハンナの頭を撫でてやった。

そんな2人を、エルザもサキも微笑ましそうに見つめていたのである。

* * *

その夜。

仁は礼子と共に、こっそり蓬莱島に戻っていた。

「老君、どうだった?」

もちろん、『マーカー』が送り出された先、つまり素材を確保している場所についてである。

『はい、 御主人様(マイロード) 。3つのマーカーは別の場所に送り出されました。1つは大サハラ沙漠のただ中、1つはクリューガー山脈の北、もう1つはサヤマ湖西部の森です』

「ふうん。推測するに、森は木材、山脈と砂漠は金属や 魔結晶(マギクリスタル) なんかの鉱物資源かな?」

『その認識でいいと思います』

そうなると、次に問題になるのはその地点の危険性になるが、これは他の地域と同程度であることが『ウォッチャー』からの観察でわかっている。

「となると、やはり資材を採掘するゴーレムが動かなくなっているんだろうな」

『その可能性が高いですね』

ここで仁は考え込んだ。ミツホに残された工場を再生することも重要だが、『 賢者(マグス) 』や先代の足跡を調べることも大事である。

仁がミツホへ旅行しに来た目的の1つであるからだ。

「ここは、 職人(スミス) を送り込むか」

夜のうちに、採掘先のゴーレムを修理してしまおうと考えた仁である。

『わかりました。お任せ下さい』

「頼むぞ」

老君が請け合ってくれたので、仁は安心する。

『ところで 御主人様(マイロード) 、『工場長 自動人形(オートマタ) 』はかなりの知識を持っていると思いますが、彼等を作った人たちのことは尋ねられないのですか?』

「え? ……あ、ああ、そうか」

仁は工場の再稼働に気を取られていて、そちらには思い至らなかったのである。

「明日にでも聞いてみるよ」

そう心に決めて、仁はミツホへと戻った。

迎賓館内にある駐車場から庭園へと回る。これで、誰かに見られても、庭園を散歩していたと説明できるだろう。

だが、誰にも見咎められず、仁は自室へと戻れたのであった。身構えている時に限って、こんなものである。

* * *

一方、老君。

『ふむ、三ヵ所とも同じ症状…… 自由魔力素(エーテル) 不足による一時停止ですね。風雨に曝されていた分、傷みも酷いものが多いですね。ここは、 職人(スミス) を動員してさっさと終わらせてしまいましょう』

三ヵ所とも、作業用ゴーレム数十体に監督ゴーレム1体、管理 自動人形(オートマタ) 1体、そして整備用ゴーレム10体という構成であった。

老君は、一ヵ所に付き50体の 職人(スミス) を投入して、それらを2時間ほどで完全修理してしまったのであった。

『さて、再起動ですね』

魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を交換した時の再起動なので 魔鍵語(キーワード) はいらない。

陰から眺めていると、動き出したゴーレムたちは、管理 自動人形(オートマタ) の指示で整列し、早速最低限の資材を確保すべく動き出した。

大サハラ沙漠では 魔結晶(マギクリスタル) 、金属鉱石、宝石類。

クリューガー山脈では貴金属資源。

サヤマ湖西部では木材。

『これなら、明日から稼働できるでしょう』

どんな資材が採れるのか興味があったが、黙って持って帰るのは泥棒になるので、それは見合わせた老君であった。

* * *

「ジン様、工場が再稼働できるのですと!」

仁たちが朝食を食べ終わった頃、議員たちと首長のヒロ・ムトゥが大挙してやって来た。

「お祖父さ……首長、何を慌ててらっしゃるのですか?」

世話役のミイが呆れたような顔をした。

「これが慌てずにいられようか! 工場を再稼働できるようにして下さったなんて! ああ、ジン様、あなた様は 賢者(マグス) の再来です!」

「いえ、お父さまは『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』でいらっしゃいます」

「おお! そうでしたな! では本日ただ今より、わがミツホにおきましても、ジン様は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』であらせられます!」

「ど、どうも」

首長と議員たちのあまりのテンションの高さに、仁も少したじろいでいる。

「本日は何をなさるのでしょうか?」

首長ヒロの問いかけに仁ははっきりと答えた。

「あと資材搬入用の 転移門(ワープゲート) とその向こうを修理すれば完了ですよ」

「なるほど、それが終われば工場は元のように動き出すのでしょうか?」

「そうなると思いますよ」

「ああ、ありがとうございます! このお礼はいかがすればよろしいのでしょうか!」

仁としては、珍しい資材があったらサンプルでいいからもらいたいと思っていたので、それを告げる。

「量があっても持ち帰れませんから」

と、念を押すのも忘れない。これで、ショウロ皇国女皇帝に言われた『商業的な取り引きは遠慮してほしい』という要請にも抵触しない。

「わかりました。では後ほど、目録をお持ちしますので、そこから選んでいただきましょう」

これはサキも喜びそうな内容である。事実、横に座っている彼女の目は輝いていた。

議員たちは帰ったが、首長のヒロ・ムトゥだけは残り、仁たちに付いて行く、と言う。

「サキとハンナはどうする?」

「うーん、今日はおにーちゃんといっしょに行く」

「くふ、そうだね。ボクもご一緒するよ」

ということで、この日は仁たち、世話役ミイ、そして首長ヒロという大人数で工場へと向かったのである。もちろん全員人力車で、だ。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご注文でしょうか」

工場長 自動人形(オートマタ) が仁たちを出迎えた。整備用ゴーレムのおかげで、問題なく動けるようになったようだ。

「申し訳もございませんが、ただ今、作業用ゴーレムが不調のため、生産ラインが止まっております」

「わかっている。今日はまず、それを解消しに来たんだ」

「そうでございましたか。よろしくお願いいたします」

工場長は仁に頭を下げた。

「ところで工場長、お前や、この工場を造ったのはどんな人なんだ?」

昨日老君に指摘されて思いついた質問をぶつけてみる仁。だが答えはシンプルなものだった。

「その情報は私にはございません」

その答えから受けた感じは、やはり工場長 自動人形(オートマタ) といえども、不慮の事態に対処できるほどには能力は高くない、ということ。

とはいえ、1000年前のゴーレムであるし、仁の作るものと比べてはいけないのだろうが。

仁はそちら方面は期待していなかったので、気を取り直し、この日の作業に取りかかる。

「 魔結晶(マギクリスタル) はあるか?」

「はい、ございます」

昨夜老君に命じて鉱山側のゴーレムたちを修理させておいた甲斐があり、改造に必要な 魔結晶(マギクリスタル) の数は十分である。

「よし、今から 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を作るから、動けなくなったゴーレムは全部こっちと取り替えるように」

「承りました」

こうしてその日午前中一杯を掛け、作業用ゴーレムの整備は終了したのである。

いっしょにいた首長ヒロと孫娘ミイは、仁の手際を見て開いた口が塞がらないようで、最初から最後まで何も言えずにただ見ているだけであった。