作品タイトル不明
26-13 工場長
奥の扉の先は小さな部屋だった。
執務室、といった雰囲気で、埃がすごい。この部屋は掃除をされていなかったのだろう。
そして部屋の真ん中には机があり、その前には1体の 自動人形(オートマタ) が座ったまま停止していた。
「少し待てば動き出すだろう」
『 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) 』を持った仁がこちらへ移動したので、この 自動人形(オートマタ) も間もなく動き出すだろう。
「 自由魔力素(エーテル) 不足によるスリープ状態か……」
仁の手掛けたゴーレム、 自動人形(オートマタ) たちは、補助用の『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』を持っているので、突然停止することはない。
自らの状態を極力維持できるよう手を打ってから停止するはずである。もちろんその際、 魔素通信機(マナカム) で蓬莱島へ連絡するはずだ。
仁がそんなことを考えていると、エルザとエドガー、ミイもやって来た。
「ジン兄、ここは? その 自動人形(オートマタ) は?」
「ああ、エルザか。この 自動人形(オートマタ) はおそらく『工場長』だ。この工場全体を管理していたのだと思う」
ミイは目を見開いていた。
「す、すごいです! 今まで誰も、こんな奥まで来てはいません!」
「うーん、なんでだろうな? まあ、来ても直しようがないわけだけれど」
そんなやり取りをしてると、ついに『工場長』が動き始めた。
「……私は止まっていたのでしょうか……」
そして仁を見つけ、挨拶する。
「いらっしゃいませ。私が工場長です。本日のご注文は何でしょうか?」
そのセリフを聞いた仁は、かつてはこの工場長に注文を出し、それを受けてこの工場が生産を行う流れであることを確信した。
「いや、今日は注文じゃあない。お前が今自分で言ったように、今さっきまで工場は停止していた。それをまずは認識するように」
そんな仁からの説明に、工場長はきちんとした反応をした。
「なんと、そうでしたか。それでは工場内の再整備から行わなければなりませんね」
これを聞いた仁は、工場長とならまともな会話ができそうだ、と少し安心する。
「いや、それも待った方がいい。今の世界は、 自由魔力素(エーテル) 濃度が低下していて、工場はまともに稼働しないんだ」
「それは困りましたね。どうすればいいのでしょう?」
こうした事態は想定外だったとみえ、工場長は途方に暮れたようだった。
ここで仁は一つの賭けに出る。とは言っても、十分勝算のある賭けだが。
「資材の搬入はどうなっている?」
「はい、第1・第2・第3 転移門(ワープゲート) を使いますが、 自由魔力素(エーテル) 濃度が低下しているなら止まっていると思われます」
「その通りだな」
仁は安堵した。やはり、この工場では素材の搬入に 転移門(ワープゲート) を使っていた。
『アキツ』のいる場所への移動にも使われていたので、もしやと思ったのである。
賭けというのは、現役の技術なら、仁が 転移門(ワープゲート) を使ったとしても受け入れられるだろう、という考えだ。
仁としては、この工場を完全稼働まで持っていきたかったのである。
仁が持たない、あるいは開発していないものが多々あるこの工場をこのまま朽ちるに任せるのは惜しすぎた。
とはいえ、仁が1人で修理して回るにはゴーレムの数が多すぎる。だが。
「工場長、ここのゴーレムの整備や修理はどうしている?」
そう、長期間稼働しているのだから、保守体制は整っているはずなのである。
「はい、整備用ゴーレムが50体あります」
仁の予想どおりだった。
「それはどこにいる?」
「はい、この部屋を一旦出て、向かって左の部屋に」
「わかった」
仁は、ミイとエルザ、エドガーにはそこにいて工場長の様子を見ていてもらうことにし、自分は礼子と共に整備用ゴーレムを確認しに向かう。
「……これか」
工場長が言ったとおり、50体の整備用ゴーレムが横たわっていた。
「礼子、 魔結晶(マギクリスタル) を100個……そうだな、並の下くらいの品質でいいから、ここへ転送させるよう老君に連絡してくれ」
「はい、お父さま」
仁が持つ『腕輪』からも連絡は可能だが、礼子の場合は内蔵されているため、そうした通話が一瞬で済む。しかも声に出さなくていいので、仁はしばしばこうして礼子に頼むのである。
もちろん、礼子を頼りにしている、という意思表示にもなっており、こうした用事を果たした後の礼子は特に機嫌がよい。
1分も経たずに、100個の 魔結晶(マギクリスタル) が仁たちの目の前に現れた。
「よし、これを使って 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を作る。それを整備用ゴーレムに移植していくぞ」
「はい、お手伝い致します」
早速仁は、今の 自由魔力素(エーテル) 濃度に対応した 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を作り始めた。
礼子はそれを次々に整備用ゴーレムの旧装備と交換していく。
作業しながら、鉱山が再稼働したなら、今日使った分を補充させてもらうか……などと頭の隅で考えているあたり、エルザの教育はそれなりに功を奏しているようだ。
10体ほど交換したところで、仁は一旦手を止め、整備用ゴーレムを再起動した。今回は、エネルギー発生装置周りを交換したので『再起動』が必要なのだ。
魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を交換した時の再起動は、 制御核(コントロールコア) 交換時の再起動と異なり、 魔鍵語(キーワード) はいらない。
〈ご指示はなんでしょうか〉
まずは1体を起動してみる。礼子は念のため警戒態勢だったが、危険は無さそうだ。
「 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) が不適合だ。わかるか?」
〈わかります〉
整備用だけあって、ゴーレムに関する知識・技術は十分なようだ。ということは、専門化・細分化が進んでいるということなのだろうか、と仁は考えた。
「よし。ここに 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を用意してある。他の9体と協力して、残る40体を改装しろ」
〈わかりました〉
交換済みの9体も再起動し、出来上がった 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を渡せば、10体の整備用ゴーレムはてきぱきと作業を進めて行く。
仁の作業速度には比ぶべくもないが、それでも十分な作業速度である。
「それが済んだら、互いの身体を整備しあえ。そして待機だ」
これなら2時間くらいで終わるだろうと、仁は指示を出してその部屋を後にした。
「あ、ジン様、いかがでした?」
仁が戻ると待ちかねたミイが質問してきた。
「ああ、整備用ゴーレムは今日中には完全になるだろう。その後のことは明日だな」
それを聞いたミイは涙を流さんばかりに感激した。
「ほ、本当ですか! ……ああ、やっぱりジン様です! ありがとうございます!」
「いや、勝手に弄ってまずくなかったかな?」
落ち着いて考えてみると、かなり好き勝手やらかした気がしている仁であった。
「大丈夫です! 私が一緒でしたし、何一つまずいことなんてありません! 仮に文句言う人があったらこっちが文句言ってやります!」
その言葉は聞き流して、仁は後一つ、気掛かりなことを確認する。
「……工場長、資材搬入用の 転移門(ワープゲート) はどこだ?」
「はい。この部屋を出て、整備用ゴーレムと反対の部屋です」
「わかった」
今度は全員でそちらの部屋へと向かった。
「……おお、確かに 転移門(ワープゲート) だ」
いくらか旧式に見えるが、間違いなく 転移門(ワープゲート) がそこにはあった。
「……だけど、停止してはいないな」
「え?」
エルザは 転移門(ワープゲート) に関してはまだまだ素人だ。仁が見抜いたこともまだ分からないらしい。
「ほら、 転移門(ワープゲート) 内部の魔法陣…… 魔導式(マギフォーミュラ) が微光を放っているだろう? あれはスタンバイ状態にある証拠だ。だからうっかり踏み込むなよ?」
「う、うん」
かつて、事故めいてはいたが、蓬莱島の 転移門(ワープゲート) に踏み込んでしまって迷子になりかけたことのあるエルザは神妙に頷いた。
「でも、どうして? ゴーレムは動かなくなっていたのに」
「ああ、それはな、 転移門(ワープゲート) の 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) が特別上等にできてるからだと思う」
仁は、『アキツ』のところへ行く 転移門(ワープゲート) だって動いていたし、アキツも不安定ながら動いていたことを引き合いに出す。
「つまり、昔の物でも、出来が良ければ何とか動く、ってこと?」
「その通り」
とはいえ、この 転移門(ワープゲート) の向こう側がどうなっているかを自ら調べに行くのはリスクが高すぎる。
そこで、『マーカー』を放り込んで転移させ、『 魔力探知機(マギレーダー) 』と『ウォッチャー』で位置を特定することにした。
『マーカー』は、礼子が少し離れたところに移動し、老君から受け取ってきた。これでミイには知られずに作業を進められる。
「本当に動作しているかどうか、調べてみよう」
等と言いながら、石のようにも見える『マーカー』を 転移門(ワープゲート) に投げ入れる。それは一瞬で消えて無くなった。
「き、消えました!」
驚くミイ。仁は残る2つの 転移門(ワープゲート) にも同じように『マーカー』を投げ込んで、消える事を確認した。
「やっぱり 転移門(ワープゲート) は生きてるな。とすると、資材が送られてこなくなったのは向こう側のトラブルだろう。今日はもう時間がない。明日、準備を整えて出直そう」
気が付けばもう5時近くなっていた。
工場長には、待機するように指示し、仁たちは一旦工場を出てミヤコの街へ戻ったのである。