作品タイトル不明
26-07 保守
「なるほど、セキの町で最終審査が行われるのですね」
道中、仁はダローからいろいろな注意事項を聞いていた。
「正式な国交が結ばれれば、こうした些事もなくなるのでしょうけれど」
ダローは、そうした未来に期待していることを匂わせる口調で言った。
「そうなれば、お互いの良い所を取り入れて、ますますの発展が期待できるでしょうからね」
仁も無難な答えを返しておく。こういう時にこそ、ラインハルトを連れて来たかった、などと考えつつ。
「しかし、ジン殿は素晴らしい技術をお持ちですな。もうセキの町に着いてしまう」
自転車と同じ位の速度とはいえ、なにもせずに座っているだけで着いてしまう、というのは驚きでもある。
「もっと大きな自動車を作って、1日に何往復かさせることも可能ですよ」
要は乗合自動車、乗り合いバス。
「ほう、なるほど」
「そうしてできた『暇』を、より良い未来を作るための『思考』に費やすんです。この繰り返しで少しずつ世の中は発展していくと思っています」
「ほう? ジン殿はなかなか独自の哲学を持っていらっしゃるようだ」
「哲学、などという高尚なものではないですよ」
そんな会話をしていると、自動車が停止した。セキの町の正門前に着いたのである。
「ふうん……すごいな」
がっしりした石造りの塀は、エゲレア王国の地方都市、ブルーランドにも引けを取らない。
高さは5メートルくらいか。出入りに使われている門の部分だけは、高さが7メートルくらいに高くなっていて、巾が10メートル近くあり、通路部分は高さ5メートル、巾5メートルの正方形の空間が町中に通じていた。
「門衛などはいないのですか?」
ダローに仁が尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。
「おりますよ、ほら」
ダローが指差す方向を見ると、確かに、門の上に4名の門衛が覗き込んでいるのが見えた。
「が、ここまで来ることができた方に、いちいち誰何はしないのです」
それは、言葉としては心地よく響くかもしれないが、防衛的な観点からはどうなのだろう、と思う仁。それで、そのまま疑問をダローにぶつけてみる。
「はは、そうお考えなのは当然です。あの門は飾りではありません。実際は、カリ集落からここまでの間に何ヵ所か監視所があるのです」
「ははあ……」
その監視所からの連絡を受け、セキの町では門を閉じるということになるのだそうだ。
「ジン殿はショウロ皇国からの証明書をお持ちですし、私が同行しておりますからね。実は私は、セキの町の副町長も務めておりますので」
知ってます、と言いたいがそこは口に出さない仁。
自動車はゆっくりと走り出し、門をくぐった。
「おお」
門の内側には丈夫そうな扉が取り付けられていた。今は開放されたままである。
「これを閉めれば、そうそう侵入を許すものではありません」
「でしょうね」
人力ではそうそう打ち破ることはできないだろうと思われる。
とはいえ、礼子の力なら易々と破壊できるだろう。ミツホではそうしたゴーレムによる戦闘は皆無なのだろうか、などと、観察しながら仁は考えていた。
「真っ直ぐ進んで下さい。正面突き当たりが町長のいる役場です」
周囲が石造りの平屋なのに、これだけは2階建て。望楼もあって、町の中心であることがわかる。
「あの望楼に登れば町中が見渡せそうですね」
とサキが言えば、ダローは頷く。
「正にそのためのものですからね」
そして自動車は役場前に到着。馬車用の駐車場に駐め、運転手のエドガーも含め、全員で役場へ向かった。
「どうぞ、こちらへ。町長が待っているはずです」
ジョン・ディニーの時は応接室だったが、仁たちが案内されたのは2階中央奥にある町長室だった。
「ようこそ、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、ジン・ニドー殿、そしてお連れの方々」
仁たちを迎えたのは、歳は40代半ば、焦茶色の髪、茶色の目、浅黒い肌の男。
「私はこの町の町長をしております、クロウと申します」
がっしりした身体は文系というより体育会系のように仁の目には映った。荒野の中にある町、という環境が、彼をデスクワークのみに留まらせてくれないのだろう。
「ジン・ニドーです。こちらは婚約者のエルザ・ランドル、そちらがサキ・エッシェンバッハ、この子が妹のハンナ」
仁が代表して挨拶し、同行者の紹介もしていく。
「この子が礼子、そちらがアアル、こちらがエドガー。 自動人形(オートマタ) です」
自動人形(オートマタ) 、という言葉を聞いたクロウの目が大きくなった。
「ほほう、 自動人形(オートマタ) ですか。わがミツホではめったに見ませんが、すばらしく人間そっくりですなあ」
「礼子は自慢の娘ですから。アアルは自分と友人が精魂込めて作った傑作ですし、エドガーはエルザ渾身の作です」
「ほうほう」
クロウの顔に嬉しそうな笑いが浮かぶ。
「ジン殿ご一行の目的は、わがミツホの観光、ということでよろしいか?」
「はい、そういうことですね」
仁の返事は簡潔だが、嘘でもなければ裏もない。本当に、ミツホという国を、土地を、見て回りたいのである。
「でしたら、まずは首府であるミヤコの町へ行っていただけますかな?」
「ええ、それは問題なく」
ジョン・ディニーからミツホの政治形態は耳にしているから、そういう話になるだろうと予測もしていた仁なのである。
「さっそく聞き届けてもらえてよかった。本日はこれくらいにして、迎賓館で休んで下さい」
「ありがとうございます」
3時間ほど移動を続けていたことで疲れているだろうと、クロウは仁一行を気遣った。
自動車がいくら乗り心地がよくても、3時間はやはり長い。仁たちはありがたくその申し出を受けることにした。
迎賓館に案内された仁一行。
ジョン・ディニーが訪れた際には迎賓館などというものはなかったが、その後、ショウロ皇国からの使者が2度にわたって訪れたため、こうした施設を作ったらしい。
とはいえ、1から作ったのではなく、元々あった建物を改装したようだ。使われている石材などを見れば分かる。部分的に新しさが違うのだ。
「これ、気になる」
内装を見たエルザが、仁に声を掛けた。
「どうした、エルザ?」
「ここ、見て。石材が『 融合(フュージョン) 』されていない」
魔法工学を用いていない証拠だ。とはいえ、力学的に問題になるような箇所には見えないので、仁はこっそり『 融合(フュージョン) 』でくっつけはしたものの、あまり気にしてはいない。
その事は、部屋に入ってからエルザに解説してやる。
「……ということで、魔法工学がない場合は、ああした摩擦力を利用することも考えるんだろうな」
「ん、納得」
「ジン、魔法がない世界か!」
感心するサキではあるが、仁はそれを補足する。
「サキ、ハンナが住むカイナ村だって、俺が行くまでは基本魔法は使っていなかったんだ。そう珍しいことでもないさ」
「ああ、そうだね……」
サキも、なんだかんだ言って侯爵の孫であり、それなりに恵まれた生活をしてきたわけだ。故に、仁以前のカイナ村のような暮らしは想像できなかったのであろう。
「魔法がない世界では代わりに『科学』が発達する。俺は、魔法と科学を融合させて、より素晴らしいものにしたいと思い続けてきた。だけど、この国にはもうその萌芽……いや、若木が育っている。……とはいえ、このままでは大木になる前に枯れそうではあるんだが」
「え?」
いつになく抽象的な仁の物言いに、エルザとサキが怪訝そうな顔をした。
「それっておにーちゃん、ここの国がなにかあぶないっていうこと?」
ハンナだけが、言葉の意味は分からずとも、仁が言わんとすることを察し、的確な言葉に言い替えていた。
「危ない——ああ、そうだな。 魔法工作士(マギクラフトマン) の不在により、文化の維持が難しくなっている」
「でも、ジン兄……」
エルザが言いかけ、サキがそれを引き取って続ける。
「ショウロ皇国との国交が成立すれば、解決するだろう?」
仁は複雑な顔をする。
「そうとも言えるし、違うとも言える。要は、ここにある道具・魔導具類は、魔導大戦以前のレベルにあるものが多いということさ」
「ああ、そうか……」
「ジョン・ディニーの報告でも聞いていたが、この目で見て大分納得がいった。ミヤコへ行けば、なお一層いろいろわかるだろう」
今もジョン・ディニーは、ミツホの南部を旅していて、住民に手を貸しながら、珍しい物を見つけては報告してきていた。
とはいえ、広い国土にたった一人、まだまだ人員不足ではある。
「これもなんとかしなくちゃな。せっかくの魔導具が朽ちていかないように」
本気で惜しいと思う仁であった。