作品タイトル不明
26-08 大歓迎
セキの町には入浴施設があったので、仁たちはのんびりと旅の汗を流し、ぐっすりと寝ることができた。
翌日はいよいよミヤコへ向けて出発である。
仁も、改革するならまずミヤコからだろう、と考えている。
「ジン殿、伝書鳩で知らせてあるが、一応これも持っていってください」
町長のクロウが、仁に一通の書状を渡した。
「私からの推薦状です。セキの町を出てしまえば、もう止められることはないと思いますが、珍しい『自動車』に乗っているので、念のため、ですな」
「わかりました。お心遣い、ありがとうございます」
セキの町からミヤコまでは100キロちょい、時速20キロで5時間くらいだ。
「それでは、短い間でしたが、お世話になりました」
「お気をつけて」
仁たちを乗せた自動車はセキの町北門を出発した。
「おお、本当に舗装道路だ」
『 瀝青(れきせい) 』による舗装道路は非常に走りやすい。
「エドガー、時速30キロまで出していいぞ」
それで仁はスピードアップを命じたのである。
「ミヤコに着いたら、ゴムを分けてもらい、ゴムタイヤにしたいものだな」
時速30キロ出すと、木製タイヤではやはり微振動が気になるのである。
それでも、シートに衝撃吸収素材である『 暴食海綿(グーラシュヴァム) 』を使っているので、かなり違う。
50分ほどでエヒムの町。一旦休憩とする。
ここでも自動車は珍しいので、見物人が集まってきた。町長もその中にいて、仁に挨拶をしてきたのである。
目的地がミヤコであると告げると、町長は残念そうな顔をした。
「前回見えられたショウロ皇国の方たちは礼儀正しく、こういう方々とならお付き合いしたいと思いましたよ」
と、嬉しい事も言ってくれたのである。
その次に着いたのはテマエの町。そしてナルド、ヤシマと、だいたい45分から50分ごとに町が出てくる。
それぞれの町で10分から15分休憩をする仁一行である。
ただし、昼食時間と重なったヤシマの町には40分ほど滞在し、名物だという『カツドン』を食べたのである。
これはジョン・ディニーも気が付かない情報であった。
なんと箸もしくはスプーンが選べる。もちろん仁は箸、他のメンバーはスプーンを使う。
「これ、おいしい」
「おにーちゃん、おいしいね!」
「ジン、初めて食べたが、いけるじゃないか!」
仁はもちろんのこと、エルザ、ハンナ、サキらも大いに気に入ったようだ。
つゆも仁たちの口に合う味付けで、マルネギ(タマネギ)や玉子の使い方も仁が知るものと同じ。
フライやコロッケは作っていたが、丼物は盲点だった、と反省する仁であった。
カツはピグの肉。ピグは、野生の獣、 砂漠猪(デザートボア) を飼い慣らしたものだそうだ。豚に近いのだろう。
カツもちゃんと揚がっており、仁は、店の主人から、これも 賢者(マグス) が伝えた料理だと聞き、ますます彼の出自が気になり出すのであった。
「あー、おいしかった!」
余程気に入ったとみえ、大人向けの1人前を平らげてしまい、お腹をさするハンナに、
「よし、今度作ってやろうな」
と約束する仁。ハンナは満面の笑みで頷いたのである。
食後なので少し速度を落とし、ゆっくり走る。
それでも午後2時にはミヤコに到着した。
「へえ、堀割か」
ミヤコの町の周囲は堀割で囲われているのだ。堀割には橋が架かり、橋には首府ということで検問がある。
「止まれ」
仁は自動車を止めて、門衛にショウロ皇国からの証明書と、クロウからの書状を示した。
効果は絶大で、門衛は敬礼をして仁たちを通してくれたのである。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、ジン様とそのご一行様、どうぞお通り下さい」
「ありがとう」
礼を言って、仁たちは自動車を発車させた。
橋の巾は7メートルほど、十分に通過できる。
橋を渡りきれば、そこはミツホ国の首府、ミヤコであった。
「ジン様ご一行ですね」
ミヤコの町に入るとすぐ、歓迎団に出迎えられた。
十数人が正装して出迎えており、分かりやすく『歓迎 ジン・ニドー様』と書かれた幟を掲げてある。少し恥ずかしい仁であった。
「お待ちしておりました。私は首長のヒロ・ムトゥと申します。我々はジン様を心より歓迎いたします」
丁寧な挨拶に、仁は慌てて自動車から飛び降りた。
「ジン・ニドーです。よろしくお願いいたします」
「お会いできて光栄です」
首長ヒロ・ムトゥと握手を交わす仁。
「自分のことをご存知なんですか?」
「もちろんです。貴方のことは、我々の恩人でもあるジョン・ディニー様から聞かされておりましたよ」
「ああ……」
仁は、この国の陰の立て役者とも言える教育用 自動人形(オートマタ) 、『アキツ』を直したことを思い出した。
その功はジョン・ディニーのものとなり、彼は『名誉 魔法職人(マギスミス) 』の称号を授かっていた。
その彼は仁のことを師と言い、仁に比べたら自分は子供、いや、赤子のようなもの、と告げていたのであった。
その仁がやって来たとあって、首長のヒロと18名の議員全員が仁を出迎えていたのである。
中には仁のことを随分若いな、と思った者もいたかもしれないが、それをおくびにも出すことなく、彼等は仁一行を取り囲み、歓迎の意を示していた。
「ここで立ち話も何ですからな、迎賓館へどうぞ」
ヒロが手を振ると、人力車が数台現れた。
「これにお乗り下さい」
浅草や飛騨高山などの観光地にあることをTVなどで見知ってはいたが、実物を見るのは仁も初めてである。
とはいえ、ジョン・ディニーから聞いていたので、仁はちょっと相談し、ハンナの手を引いて人力車の1台に乗り込んだ。エルザとサキももう1台に乗り込む。
礼子とアアルは、それぞれの 主(あるじ) が乗る人力車の横に付いた。それを見たヒロが首を傾げる。
「お二方はお乗りにならないのですか?」
これに返答したのは礼子だった。
「はい、私たちは 自動人形(オートマタ) ですから」
これを聞いてヒロはじめ、議員たちは仰天した。
「な、な、何ですと!」
礼子とアアルは人間そっくり、いや、人間そのものにしか見えなかったのだ。
確かに、伝書鳩による連絡で、一行については把握してはいた。が、実際にその目で見ても信じられなかったのである。
「なるほど、確かにジン様は世界一の 魔法職人(マギスミス) 、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』なんですね!」
その言葉に、礼子は黙ってにっこりと微笑んで見せた。
そんな一幕があったが、仁たちはそれぞれ、人力車(仁・ハンナ・エルザ・サキ)・徒歩(礼子・アアル)・自動車 (エドガー)にて迎賓館に向かった。
首長のヒロや議員たちも、人力車で伴走する。
5分ほどで迎賓館だ。
「おお、瓦か」
瓦に良く似たもので葺いた建物、それが迎賓館。
「日本庭園風だ……」
ジョン・ディニーが来た時と変わらぬ庭園が仁たちを迎える。
人力車を降りた仁たちは玄関ホールとでもいうべき広間に通された。エドガーは自動車を敷地内にある駐車場に置いてから合流である。
悪戯はされないと思うが、念のため、新生『蓬莱島 隠密機動部隊(SP) 』の『エルム』を呼び寄せ、番をしてもらうことにした。
(あー、セキュリティも考えた方が良かったのか……)
仁がそんな事を考えていると。
「さて、改めましてジン・ニドー様、ようこそいらっしゃいました」
整列した議員たちを代表してヒロ・ムトゥが挨拶をした。
「ジョン・ディニー様から、ジン様は派手な歓迎を好まれないと伺っておりましたので、このような形になりましたことを一言申し添えさせていただきます」
(これで派手じゃないのか……)
仁は、人力車でここへ来る途中、住民たちから手を振られたり、声を掛けられたり、お辞儀をされたりしていたことを思いだしていた。
「ジョン・ディニー様は我々の救世主、その師であらせられるジン様ですからな」
この程度で済んで良かったと思うべきなんだろうな、と仁は、内心少しげっそりしていたのであった。