軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-06 セキの町へ

朝食を済ませた仁一行を、マヤが尋ねてきた。

「おはようさん。今日、ダローさんと一緒にセキの町へ行けるんか?」

セキの町は、ミツホ国の最終審査場といってもいい町だ。ここは文字通り関となっている。

「ええ、大丈夫ですけど、どのくらい離れているんです?」

仁としてはジョン・ディニーからの情報及び監視衛星『ウォッチャー』からの観測により、60キロ弱であることを知ってはいる。

「60キロくらいやな」

「じゃあ、昼過ぎに出ても十分ですね」

「ん? あの自動車ってそんなに速いんか?」

「ええ、時速20キロを出せますから」

その数値を聞いたマヤは納得したように頷いた。

「自転車ならもう少し速いけど、長時間は無理やからな。そういう点では 魔導機(マギマシン) ってすごいわあ」

時間的に余裕があることははっきりしたので、昨日の約束通り、『常夜灯』について教えてくれることになった。

「『ツキヨグサ』という、草というより苔やな、それがミツホの荒れ地に生えとってな。採取してきて乾燥させ、すり潰して塗料に混ぜるんや。そうすると光る塗料ができあがるわけやね」

「なるほど、夜光塗料か」

別名蓄光塗料。光のエネルギーを吸収し、発光するものだ。現代地球では時計の文字盤などに使われている。サキが宿で聞いてきた通り、このツキヨグサが常夜灯に使われていたのである。

「どういう仕組みで光を蓄えるんだろうね?」

サキが首を傾げている。

「すまんね、あたいはそう言うことに疎いんや。セキの町に行けば詳しい人もおるさかい、聞いてみてや」

原理や仕組みを知らずとも、人は昔からいろいろな現象を利用してきた。もちろん、原理を解明することで応用が効くようになることも事実。

「くふ、セキの町、楽しみだね」

「ジンはんたちなら大歓迎される思うわ」

「だといいけどな」

そんな会話をしていると、カリ集落の長、ダローがやって来た。

「おや、マヤも来ていたのか」

実はセキの町の副町長である彼は、ミツホにやって来る者たちを見極める役も担っているのだ。

「ジン殿、本日中にセキの町へ向けて出発、でよろしいですか?」

「ええ、今、マヤさんからも話を聞きました。お昼過ぎに出れば、今日中に着けると思います」

それが『自動車』に乗ることを前提とした話であると察したダローは素直に感心した。

「ほうほう、やはりジン殿は非凡な方なのですね」

背後で薄い胸を反らしている礼子は置いておき、仁は詳しく説明した。

「自動車は時速20キロで1日中走ることができます。短時間ならその倍でも。運転手のエドガー以外に7人乗れますので、ダローさんも一緒に行けますが」

もしもの時のため、補助席が1人分用意してあるのだ。普段は荷物置き場だが。

「ほう、それは嬉しいですね。乗せていただけるので?」

「もちろん」

と、いうことで、少し早めの昼食とし、正午にここを発つ事が決まった。

今はおおよそ10時。

ダローは昼食をご一緒に、と言い置いて一旦立ち去った。

「あれ? ダローはん、帰ったんか。お茶淹れたのにな」

「じゃあみんなでいただこう」

せっかくマヤがお茶を淹れてくれたので、全員でのんびりとお茶を飲むことにした。

「もう行ってまうんか。もっといろいろ話をしたかったなあ」

名残惜しそうな顔をするマヤ。

「ショウロ皇国とミツホとが正式な国交を結んだら、もっと頻繁に行き来できるようになるよ」

「せやな。また会える日を楽しみにしておくことにするわ」

「国交が結ばれれば、オリヴァーさんとだって正式に一緒になれるだろうし」

「ぶほっ!」

仁の言葉に、マヤは盛大にお茶を吹き出した。

「げほげほっ、げほっ」

気管にまで入ったらしく、苦しそうに咽せている。見かねたエルザは治癒魔法を掛けてやる。

「『 治せ(ビハントラン) 』」

内科・外科両用の治癒魔法だ。これでようやくマヤの呼吸が落ち着いた。

「お、おおきに、ありがとさん。……ジンはん、変なこと言わんといてや!」

真っ赤な顔で仁に詰め寄るマヤ。目からは涙を、鼻からは鼻水を垂らしている。

「え、俺?」

オリヴァーとマヤは公認の仲だと思っていたので、仁としては意外であった。

「マヤおねーちゃん、鼻水」

子供の特権で空気を読まずにハンナが指摘した。おかげでマヤの勢いが削がれる。

「あ、う」

ハンカチを出し、顔をぐしぐしと拭き取ったあと、マヤは仁に向き直ったが、先程の勢いはもうない。

「あー……はあ、もうええわ。オリヴァーのことは確かに好きやねんけどな、向こうの家の人があたいなんぞを受け入れてくれるはずないねん。あたいはこんな女やし」

両親がいない、異民族とのクォーターであること、をぽつりぽつりと打ち明け、自嘲気味に笑うマヤに物申したのはサキであった。

「マヤさん、ボクの父はただの平民だったんだ。そして、母は侯爵家の長女だった」

「え?」

「身分が違いすぎて、当然結婚なんて許してもらえるはずがない。でも、ボクは今、ここにいる」

「それって……」

「父が母を連れ出して駆け落ちしたんだ。もう母はいないけど、今では祖父……母の父親も、2人を許している」

「サキはん……」

「だから、諦めちゃいけないよ。そのオリヴァーさんに嫌われたというならともかく」

「……」

珍しくサキが、研究以外のことでムキになっていた。

「サキはん、おおきに。あたいも諦めんと頑張ってみるわ」

「くふふ、柄にもないこと言っちゃったね」

仁たちに向き直ったサキは少し照れていた。

「いや、少し意外だったことは確かだけど、サキにしか言えない言葉だったと思うよ」

「サキ姉、格好良かった」

「サキお姉ちゃん、すてきだった!」

ハンナはどこまで分かって言っているかはわからないが、仁とエルザは本心からの言葉だった。

「……照れるね」

頭を掻き、頬を染めたサキは、こそこそとアアルの後ろに隠れたのであった。

そして出立の時間となった。

「ジンはん、サキはん、エルザはん、ハンナちゃん、また来てや」

マヤが見送ってくれた。礼子、アアル、エドガーは 自動人形(オートマタ) だと教えたので、声を掛けないつもりなのかと思いきや、

「れいこちゃん、アアルはん、エドガーはん、しっかりご主人様たちを守ってや」

ちゃんと声を掛けていた。それを聞いて、

(礼子の呼び方、かなりネイティブな発音に近いな……)

などと仁は考えていたりする。

「さあ、行きますか」

自動車にダローを乗せ、仁はエドガーに出発するよう指示を出した。

「発車します」

一声掛けてエドガーはアクセルを踏み込んだ。ゆっくりと自動車が動き出す。

ダローは、初めて乗る自動車に興味津々のようで、無言のままあちらこちらを観察していた。

「……タイヤは見たところ木でできている。なのにこの乗り心地の良さは……」

とか、

「室内にこれだけの人数がいるのに、暑くもなければ寒くもない。蒸れることもない。これはいったい……」

などと呟く。

そんなダローに苦笑しながら、仁は少し放っておこうと思うのだった。

そしてダローが心の平静を取り戻したのは、セキの町までの道程、その半ばを過ぎた頃であった。