軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26-05 散歩

「いやあ、ジンはん、たいしたもんやな!」

そのまま仁たちは、マヤの家で夕食を御馳走してもらうことになった。

献立は白米のご飯に大根の味噌汁である。味噌汁はちゃんと鰹節で出汁を取っている。

それから魚の干物を焼いたもの。そしてお新香である。

「招待しといてこんなもんしか出せんで悪いなあ」

「いやいや、美味しいよ」

味付けが仁の好みだったので、本当に美味しそうに食べる仁。

「そらよかったわ」

「おねえちゃん、お代わり!」

ハンナも美味しそうに食べ、お代わりをしている。

「オリヴァーさん、鰹節の出汁を知らなかったようだけど?」

「あはは、最初に買っていった時、なにも聞かんかったから知ってる思たんや。でもジョン・ディニーの知り合いの……ローシさんやったかな? ……に使い方聞いた、と言ってきた時には失敗したー思たわ」

なるほど、と仁は思った。意外と、目の前にいるマヤという女性はそそっかしいのかも、とも。

「あー、なんか失礼なこと考えてるやろ?」

「い、いえ、別に」

ドキッとする仁であった。

それからもいろいろ話は弾んだが、ハンナが眠そうな顔になったのでお 暇(いとま) することにした。

外に出てみるともう真っ暗、である……が、所々に『常夜灯』が灯されていて、最低限、道が見えている。

「あれ、面白いやろ。昼間、光を吸って夜吐き出す明かりなんよ」

「へえ……」

「ジン、面白いね! いったいどんな物質なんだろう?」

サキが興奮するのも無理はない。仁の知る夜光塗料などより遙かに明るく光っているのだから。

「気になるかもしれへんけど、ハンナちゃんがもうおねむやさかい、また明日な」

「ああ、そうですね、おやすみなさい」

「おやすみ」

サキも今夜は諦めたとみえ、仁に順って宿へと戻ったのである。

「あー……雑魚寝だったか」

大部屋一つ、ということだったことを思い出す仁。

「今夜はお風呂も我慢だね」

「ん、仕方ない」

この集落では水が貴重なので風呂はない。水かお湯で身体を拭くだけである。

「俺は車で寝るよ」

さすがに女性達と同室で眠れるほど図太くはないから、と仁は言い訳した。

「……私はかまわないのに」

「くふ、ボクも別にいいんだけどな」

ハンナは既に夢の中である。

「いや、俺が構うから。……おやすみ」

仁は誘いを振り切って、礼子と共に自動車に乗り込んだ。

「ジン様、どうなさいましたか?」

運転手役のエドガーが仁に気が付き、尋ねてきた。

「ああ、今夜はこっちで寝るから、エドガーはエルザのところへ行ってやってくれ。俺には礼子がいる」

「はい、わかりました」

ということで、仁はシートをフルフラットにし、そこで寝ることにした。毛布も用意してあるので寒いことはない。

空調だって付いているのだ。

「お父さま、わたくしが番をしておりますからごゆっくりお休み下さい」

「ああ、頼むよ、礼子。お休み」

「お休みなさいませ」

昼間、久しぶりに自転車を漕いだ疲れが出た仁は、横になるとすぐに寝息を立て始めたのである。

その夜は何ごともなく過ぎていった。

明け方。

早く寝付いた所為で、仁は夜明け前に目を覚ました。

「お父さま、お目覚めですか?」

眠る必要がないため、ずっと寝ずの番をしていた礼子が仁の目覚めを察して声を掛けてきた。

「ああ。目が覚めた。まだみんな寝てるんだろうな」

だが、礼子はそれを否定する。

「先程、サキさんがそっと出て行かれたようです」

「え、サキが? 1人で?」

「いえ、アアルと一緒に」

「それなら安心か」

このあたりにまで『 砂虫(サンドワーム) 』のような魔物が来るかどうかは知らないが、アアルが付いていれば最悪逃げることはできるだろう。

とは思ったが、少し気になるので、自分も外に出てみることにした。当然礼子も付いてくる。

「あー、まだ朝は少し寒いかな」

吐く息が白い。10℃を下回っていそうである。

「サキは……、と」

辺りを見回せば、常夜灯がまだぼんやりと灯っており、その明かりで2つの人影が町外れへ向かうのが見えた。

仁も早足でそちらへと歩いて行く。人影はゆっくり歩いているので、すぐに追いついた。

やはりそれはサキとアアルだった。きょろきょろしながら何かを探しているらしい。

「サキ」

仁が声を掛けると、サキは驚いた顔で振り向いた。

「ジ、ジンか。びっくりした」

「どうしたんだ? こんなに早く」

「くふ、何か珍しいものが無いかと思ってね」

少し照れくさそうに答えるサキである。

「あの常夜灯に使っているのって、『ツキヨグサ』っていう苔なんだそうだよ。宿の人に聞いたんだ。なんでも、乾燥地帯に生えるそうでね、このあたりにもあると聞いたんで明るくなる前にと思ってさ」

「苔なのに草か? まあいいけど」

「サキ様、ありました」

「おっ、でかした!」

目のいいアアルが早速見つけたらしく、サキは飛んでいった。

「なあジン、これ、蓬莱島で栽培できないかな?」

サキが持ってきたのは、石にくっついたツキヨグサであった。夜明けの光の中、まだ微光を放っている。

「うーん、どうだろう? トパズに相談して見るか。最悪、空調室を作れば何とかなりそうだ」

蓬莱島は乾燥した環境とは言い難いので、もし乾燥した環境でないと生育しないのなら、空調を調えた密閉空間が必要になるはずだ。

最初は採取地にできるだけ近い環境で育てて増やし、少しずつ環境を変えて試してみるのがいいかもしれない、と仁は考えていた。

「世界は広いね。もっともっといろんなことを知りたいなあ」

「同感だ」

ツキヨグサの付いた石を手にしたサキがしみじみと呟き、仁もそれに同意した。

「あー、おにーちゃんとサキお姉ちゃんいたー」

声に振り向くとハンナが走ってくるところだった。

「目が覚めたらサキお姉ちゃんがいないから、きっと表に出たんじゃないかと思って捜してたの」

「そっか、おはよう、ハンナ」

「おにーちゃん、おはよう!」

日も昇ってきて、あたりはすっかり明るくなっていた。

「そういえば、エルザは?」

「エルザお姉ちゃんはまだ寝てた」

「そっか」

仁たちはもう少し散歩してから宿に帰ることにした。

そして宿に戻ると、自分だけ除け者にして散歩していた彼等をジト目で睨むエルザに迎えられたのである。