軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-21 報告、そして

翌朝。

食堂で、仁、エルザ、ラインハルト、フリッツ、そしてエルザ継母マルレーヌの5人が顔を合わせ、朝食を摂る。

静かな雰囲気の中、フリッツが声を上げた。

「この後、ジン殿とエルザを親父に挨拶させたいと思う」

「えっ?」

その発言に1番驚いたのはエルザだった。

「そ、それは……」

倒れる直前、父が仁のことを目の仇にしていたことが思い出される。

「行こう、エルザ」

エルザが何か言うまえに、仁もエルザに声を掛けた。

「え、でも」

「大丈夫だ。僕も付いて行くから」

ラインハルトも優しい声でエルザに語りかけた。

「エルザ、皆様がこう仰って下さってるのですから、お言葉に従いなさいな」

「……はい」

最後は継母マルレーヌからの言葉に背中を押され、エルザは立ち上がった。

「さあ、行こう」

「……ジン兄」

珍しく、仁がエルザの手を取り、先に立って廊下を歩いて行こうとした。

……ところが。

「ジン殿、大変申し訳ないのだが、親父のいる部屋はこっちなんだ」

と、正反対の方向をフリッツが指差したのであった。

いきなりの展開に頭の中が真っ白になりかけていたエルザであったが、仁も内心ではかなり焦っているのが分かると、少し気持ちが落ち着く。

それで、エルザはそのまま仁の腕に自分の腕を絡ませると、仁を導くようにして父親のいる部屋へと向かったのである。

仁がノックをしようとしたところ、それをマルレーヌが止めた。

「ジン様、ここは私が先に行きますから」

そう告げたマルレーヌはドアをノックし、返事を確認して扉を開けた。

「失礼します。……あなた、おはようございます」

「……お、お、おはよう……!?」

自動人形(オートマタ) 、ララに介添えされて起き上がっていたゲオルグの目が見開かれた。

もちろん、マルレーヌの後ろに、エルザと仁の姿を見つけたからだ。

「お……前……」

ゲオルグの視線はエルザに向けられた。

仁に寄り添う姿、組まれた腕、はにかんだ表情。

「……そう、か」

昨夜、フリッツに言われたことが腑に落ちる。

(あんな顔、見たことは、なかったな)

口にはできなかったが、父親として、ゲオルグは自らを恥じた。

満足に動けなくなってからこの方、己の半生を何度も振り返っていたのである。

それは、病人にはあまりいいことではない。あの時こうしていれば、あの時なぜああしてしまったのか、あの時……。と、悔やむことが多く、己を苛むことになるから、精神衛生上よくないのである。

だが、ゲオルグは、軍人らしい一徹さを以て、反省を繰り返しながらも、己のこれからを考えていたのであった。

その一つが、娘への祝福。

「エル、ザ、おめ、でとう。しあわ、せに、おなり」

仁とエルザが口を開く前に、ゲオルグは娘に、ずっと言ってやりたかった言葉を掛けたのである。

そして、順番は逆になったが、エルザ、仁、ラインハルトが、ゲオルグに報告を行う。

「……父さま、私、嫁ぎ、ます」

エルザは目に涙を浮かべながら。

「ゲオルグ殿、自分とエルザは、この度婚約いたしました。本日はその報告を、と伺った次第です」

「叔父上、ラインハルトです。エルザ嬢とジン殿の仲介人としてまかりこしました」

仁とラインハルトは、毅然とした態度で。

それぞれ、ゲオルグに告げたのである。

* * *

「……よかったな、エルザ」

ゲオルグの部屋を出た仁は、隣にいるエルザに微笑みながら声を掛けた。

「……ん」

まだ目に涙を浮かべたままのエルザは、こくりと小さく頷いた。

「叔父上も、すっかり変わられた。出世欲とは、良くも悪くも人を変えてしまうのだな」

伯爵である兄への劣等感や対抗心、その他の感情が入り交じって、ゲオルグの出世欲を形作っていたのだろう、とラインハルトは分析し、己への縛めとしたのである。

一方、出世欲とは無縁の仁は、

「あれがエルザの父上の本心なんだろうな。現役を退き、ようやく本音を語れるようになったんだろう」

とエルザに語っていた。

どちらも間違いではないのだろう。人とは、人の心とは、自分でも全てを把握できない闇を抱えているものなのだから。

* * *

ラインハルトはその日のうちに自領へと帰って行ったが、仁はそれから2日間、エルザの実家に留まっていた。

元々少ない使用人たちとも打ち解ける。

礼子は、特に女性の使用人たちから人気があった。とはいえ、いつものように仁以外の人間には無愛想なままだったが。

そして3月26日の午後、仁とエルザは、エルザの実家を辞することにした。

「お母さま、また、来ます」

「義母上、お世話になりました」

「ジンさん、エルザを頼みます」

そんなやり取りを交わした後、仁とエルザ、礼子、エドガーらは、徒歩で『コンロン2』へと向かった。

因みに、『コンロン2』は、一旦ロイザートへ引き返し、屋敷の屋上に係留していた。それを、今朝礼子から連絡を入れて再度こちらへ回したのである。

さすがに2日も3日も草原に係留しておくのは保安上好ましくないからだ。

ロイザートに戻った仁は、屋敷に戻らず、そのまま 宮城(きゅうじょう) へ。

いつものように、煩雑な手続きなしに女皇帝に謁見を申し出る。

30分ほど待たされた後、執務室へと通された。

「ジン君、いらっしゃい。今日は、どんな用事かしら?」

のっけからフランクな口調である。

今日はフローラでなしに、宰相が付いていた。

「はい。先日、正式にエルザと婚約しまして、彼女の実家へ挨拶に行ってまいりました」

「そうですってね。素敵な像を贈り物にしたって聞いているわ」

仁は密かに、女皇帝の情報網に驚いた。

「……で、ですから、エルザを……」

そんな仁を女皇帝は手で制し、宰相の方を向いた。

「わかっています。エルザ・ランドル女準男爵から、モーリッツ・ランドルに家長を変更したい、というのでしょう?」

「は、はい」

「準男爵は、世襲制の爵位ですから、そのままモーリッツに引き継がせます。それでいいのですね?」

「はい」

エルザがランドル家を再興する、という目的は、これで一応叶ったわけだ。

「これからどうするの? 挙式の予定は?」

「え、ええと」

いきなり結婚式の話をされて面くらうエルザ。

「秋に予定してます」

だが仁は、はっきりと宣言した。

「ジン兄!?」

「そう、秋に、ね。気候のいい季節ね。是非出席したいものだわ」

「はい、できますれば」

「ふふ、本気にしちゃうわよ」

そんな言葉を交わした後、仁たちは御前を辞した。女皇帝も忙しく、雑談に興じているわけにもいかないのである。

「ジン兄……」

秋に式を挙げる、とはっきり言ってくれた仁を、少し頼もしく思うエルザであった。