軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-20 談話

婚約の儀を終えたランドル邸では、珍しく仁とラインハルトが2人でテーブルを囲んでいた。

「ああ、疲れた」

体力的なものではなく、気疲れした仁である。

「しかし、ジンのあの口上には少しびっくりしたぞ」

ラインハルトがワインを飲みながらからかうような口調で言う。

「言ってくれるな……」

自分でもいささか支離滅裂だった、と顔を赤らめる仁であった。

* * *

「エルザ、幸せそうね」

「はい、お母さま」

エルザは育ての母、マルレーヌと2人、差し向かいで話をしていた。

「ジンさんは優しくしてくれる?」

「とっても」

「そう。ならいいの。……貴女は、ランドルの家を再興してくれてからずっと、この日を待ちわびていたのでしょう?」

現当主であるエルザが嫁ぐならば、後を継ぐ者が必要となる。それには、兄であるモーリッツを推そうと思っているエルザであった。

正式に婚約が成った今、国に申請すれば、間違いなくそれは受理されるだろう。

それにより、エルザの父ゲオルグが起こした不祥事で一旦は取り潰されたランドル家が、本来あるべき姿に戻ると言うことだ。

「……そういえば、父さま、は?」

脳梗塞により、障害が残ったゲオルグを、マルレーヌは付ききりで世話しているのである。

「このごろは大分いいのよ。言葉はたどたどしいけれど、何かに掴まれば立ち上がることもできるようになったの。貴女の婚約を知らせてあげれば、きっと喜ぶわ」

「……そう、かな」

エルザの中では、ゲオルグが魔族『マルコシアス』の操るマルカス・グリンバルトに 唆(そそのか) され、おかしくなっていた際に、『お前は私の出世のため、上位貴族に嫁ぐのだ! そうでなければ、あんな女の生んだお前を認知した意味がない』と言われた言葉を、まだ鮮明に覚えていた。

あの瞬間、エルザの中で何かが砕けたのだ。それは、親に対する無上の信頼、というものだったのか、それとも親子の絆、だったのか。

いずれにせよ、エルザは実の父親に対するトラウマを抱えてしまったのである。

その後、意識不明になり、エルザの尽力によりなんとか回復したゲオルグは人が変わったように穏やかになっていた。

それでもやはり、心の奥底には、父親に拒絶される恐怖がこびりついていたのである。

* * *

「親父殿、具合はどうだ?」

一方フリッツは、1人、父親と面会していた。寝室兼居間の、広い部屋である。

今、世話をしているのはエルザが用意した 自動人形(オートマタ) 、『ララ』。ショートボブにしたプラチナブロンド、水色の目。テオデリック侯爵に贈ったものと同型である。

今年の2月、預けておいたエドガーと入れ替えに贈ったのであった。

「フリッ……ツか。逞しく……なったな。……大分、日に焼けた、ようだ」

「ああ、セルロア王国から帰って来たところだ。道中、天気がよかったからな。親父殿も大分良さそうだな」

同じ軍人となった息子の話を聞くのは楽しいらしく、ゲオルグの顔は穏やかだ。

「ああそうそう、エルザの奴が、今日婚約者を連れて来たんだぞ」

「こん……やくしゃ?」

その単語を聞いた途端、ゲオルグの顔が一瞬 顰(しか) められたようだったが、すぐ元に戻った。

「……ジン・ニドーとかいう……男か?」

「お、知っているんだったな。そう、そのジン・ニドーだ」

「そう、か……」

何か思い出そうとするかのように目を閉じたゲオルグ。フリッツは何も言わず、そんな父親の顔を見つめていた。

「……幸せそうだった、か?」

しばらく経って、ゲオルグの口からそんな言葉が漏れた。

「おう、この上ないほどにな」

「それなら、よかった」

「……言っておくが、ジン殿は、今や『崑崙君』となり、各国から頼りにされる存在だ。陛下からの信任も篤い。それに……」

「……言うな。分かっている。……あの子が幸せなら、それで、いいのだ」

「親父殿」

「あの子、には……顔向けできないほどのことを、してしまったからな」

自分も暗示系の魔法に掛かっていたらしいことを知ったフリッツは、父親の気持ちがよくわかった。

「だがな、一度くらい会ってやれよ。実の父親なんだから」

フリッツはそんな言葉を掛けると、部屋を後にしたのである。

フリッツはその足で客室へと向かった。仁とラインハルトが泊まっている、2間続きの客室である。

ノックをし、返事を待ってドアを開ける。

「夜分、お邪魔する」

「いらっしゃい」

仁とラインハルトがフリッツを迎えた。

「今、親父の所に行ってきたところだ」

新しいグラスをラインハルトが用意し、仁がワインを注いだ。

「ありがとう」

差し出されたワインを一口飲んで、フリッツは話し始めた。

「親父も大分よくなっていた。とはいえ、会話ができるようになったことと、自分で食事が摂れるようになった、ってところだがな」

それ以外にも、多少の介添えがあれば、風呂、着替え、排泄などの日常生活もできるようになったらしい。

「それはよかった」

ラインハルトが相槌を打つ。

「で、だ」

フリッツはワイングラスを置くと、真面目な顔を仁に向けた。

「親父に会ってやってくれ。エルザと一緒に」

「え?」

結論を真っ先に言われたのでわけがよくわからない仁である。

「口には出さないが、親父も反省している。……というか、謝りたいんだろう、と思う」

「……」

ラインハルトは何も言わなかったが、エルザの父が暴走した時、そばにいただけにその気持ちは察することができた。

それで、仁が何と答えるか、待っていたのである。

「そうだな、明日朝にでも行ってみないとな」

気負った風でもなく、仁が答えた。

「やっぱり、エルザの実の父親だもんな」

「ジン、君らしいな」

仁の、拘りを感じさせない物言いに、少しほっとしたラインハルト。

「ああ、そうしたら明日は俺も一緒に行こう」

フリッツも嬉しそうに言う。

「義弟殿、それじゃあ明日」

軽い調子で仁に声を掛け、ワインの残りを飲み干すと、フリッツは席を立った。

「はい、義兄上」

仁も同じような調子で言葉を返したのである。

「エルザには今夜のうちに話をした方がいいかな?」

フリッツが出て行ってから、仁はラインハルトに相談していた。

「うーん、どうだろう? 今夜はそっとしておいてやった方がいいんじゃないかな?」

「やっぱりそうかな?」

母と娘、話すことも沢山あるだろう、とラインハルトは言った。

「わかった。それじゃあフリッツ殿が言うように、明日にしておこう」

それでこの話はそこまでとなる。が、それで終わらないのがラインハルトだ。

「ジン、そちらの話は終わりとして、そのエルラド鉱山の地下にあったという遺跡、そこから回収したゴーレムの話を聞かせてくれ!」

「ああ、いいとも」

ラインハルトのラインハルトらしさに、仁は微笑みながら説明を始めた。

「1番特徴的なのは、 制御核(コントロールコア) が頭部にあったことかな。確かに、人間を模す、という意味では間違っていないと思う。……」

「なるほど、それは興味深いな」

「面白いのは材質だ。オリハルコンという金属なんだが、銅の合金で……」

工作馬鹿同士の談義は礼子に止められるまで夜遅くまで続いたのであった。