作品タイトル不明
25-12 当面の処置
ひとしきり再会を喜び合った兄妹。
「ジン殿、お陰様で妹と再会できましたよ」
「ああ、良かった」
「……誰?」
礼を言うベリアルス、見知らぬ男を警戒するアルシェル。
「彼はジン・ニドー殿。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) で、我々魔族の恩人だ」
ベリアルスは簡単に仁のこと、そして彼が魔族にしてくれたことを説明した。
「そ、そうなの? ……あたしも、ここで、人間とあたしたちは祖先が同じだって聞いて驚いたのよ」
「そうか……」
アルシェルも苦労をし、随分と精神的に成長したようだ、とベリアルスは感慨深げに妹を見つめた。
「アルシェル、家へ帰ろう」
「……うん、お兄ちゃん」
その時、床が揺れた。
「な、何!?」
「崩壊が始まった!」
600012号が告げてからおよそ15分。猶予期間は終わったらしい。
「急いで逃げよう!」
仁ダブルがベリアルスを、礼子がアルシェルを。それぞれの腕を掴み、『転送装置』を作動させた。
「……ここは?」
4人が出たのは『しんかい』の中。直接蓬莱島へ出るのは避けたのである。
「中間基地、みたいなものさ」
そこで改めて4人は『転送装置』で蓬莱島へと転移した。
老君は、ベリアルスとアルシェルが蓬莱島をそれと認識する時間を与えずに、転送機を使って4人をエルラド山山頂へと転送。
地上監視衛星『ウォッチャー』からの情報で、崩壊は地下施設に限定されており、山体には及んでいないことがわかったからである。
その一方で、仁ダブルたちが転移するのと入れ替わりに、転送装置を持ったランド90から99を地下施設に送り込み、怪我をした8人を救出し、『しんかい』にて保護した。
この時、余った……というと語弊があるが、2体が動かなくなったゴーレムをそれぞれ1体ずつ、計2体確保し、『しんかい』に運び込んだのである。
こうして、今回の目的は達成された。
* * *
「ここは……」
4人は星が瞬くエルラド山の山頂に立っていた。展開に付いて行けないアルシェルとベリアルスは呆気にとられている。
それでも、転移、という行為自体は、彼等にとっても馴染みがあるものなので、なんとか事実として飲み込んだらしく、『コンロン2』が降下してくる前には落ち着きを取り戻していた。
「ジン殿、お陰様でアルシェルを見つけることが出来ました。お礼の言葉もありません」
「ジンさん、でいいのよね? 改めて、ありがとう」
ベリアルスとアルシェルが仁に礼を言った。
そこへ『コンロン2』が魔導ランプによる明かりを灯しながら降下してくる。
「あ、あれは!?」
「『コンロン2』といって、俺が作った飛行船さ」
「アル、空を飛ぶ船だよ」
「ええ! そんなことできるの?」
「ああ、できるんだ。残念ながら今はもう真っ暗だから見えないだろうが、明日の朝になったらよくわかるよ」
半信半疑のアルシェルに、仁ダブルとベリアルスは簡単な説明をする。
そうこうするうちに『コンロン2』が着陸した。
「さあ、乗ってくれ。こんな寒い所で夜明かししたくないだろう?」
先程までいたエルラド山山頂の気温は氷点下にまで下がっていたが、キャビン内は空調が効いており、快適な温度に保たれている。
「わあ、あったかい」
ほっとした顔のアルシェル。
仁ダブルは礼子と共に軽食を用意した。
パンとスープだが、特にアルシェルには好評だった。
「わあ! まともな食べ物だあ!」
その様子を見た仁は、600012号のところでは、いったい何を食べていたのかと尋ねた。
「えーっと、なんだかどろどろした、味のないお粥みたいなもの」
それを聞いた仁は、一種の合成食糧だろうか、と思った。
そういった施設もおそらく崩壊した岩の底、残念である。
「ああ、ごちそうさま」
食べるだけ食べたアルシェルは満足げにお腹を撫でた。
仁は、これでようやくゆっくり話ができる、と思い、仁ダブルを使って食後のお茶を淹れた。
「アルシェル、あの施設の地下にいた8人はどういう人なんだ?」
自分たちでさえやっと見つけた地下施設に、どうして8人も人間がいたのか。仁ダブルは気になっていたことを尋ねた。
「えーと……あたしが飼ってたギガントーアヴルムの牧場にいきなり現れて襲われてたの」
「え?」
仁は、なんだか聞いたことがあるような話だと思った。そしてすぐ、セルロア王国での出来事を思い出す。
「ダリの 転移門(ワープゲート) か!」
謎の施設を調べに送り出された8人の兵士とその後に送り出された特殊ゴーレム。
特殊ゴーレムが送ってきた映像には、多数のギガントーアヴルムが映っていた。
そして、その際に、あの 転移門(ワープゲート) がここに繋がっていることを知ったのである。
「そうか、彼等は助かっていたのか」
セザール王も喜ぶだろう、と仁は思った。
だが、ギガントーアヴルムに襲われたため、四肢の欠損まではいかないが、かなりの怪我をしている。
セルロア王国に送り届けるのは、エルザに治してもらってからの方がよさそうだ、と仁は考えていた。
「ギガントーアヴルムは『精神触媒』を採るために飼っていたのかい?」
「う、うん。確かにそんなこと言っていたわね」
アルシェルを保護していたのは、一つには 人造人間(ホムンクルス) のモデル、もう1つは精神触媒を入手する手伝い、の意味合いがあったようだ。
その精神触媒を持ってくることができなかったのはちょっともったいなかったかな、と仁は思った。
仁は、まだまだ聞きたいことがあったが、大分夜も更けたので、兄妹2人だけにしてやろうと考えた。
「2人はこっちのスペースで休んでくれ」
シートは背もたれを倒せばフルフラットになる。
「ジン殿、ありがとうございます」
「ジン……さん、ありがと」
仁ダブルと礼子は操縦室へと行き、仕切りのドアを閉めた。
兄妹2人きりになると、ベリアルスはアルシェルに尋ねた。
「アルシェル、どうしてあそこにいたんだ?」
ベリアルスから当然の質問が飛ぶ。
こうした経緯は仁も知りたくはあったが、プライベートな話になりそうだったので遠慮していたのだ。
アルシェルは俯きながら訥々と語り出した。
「……あの、ね。家を出て、南へ南へと歩いていて、気が付いたらあの山の頂上にいて……」
* * *
『本来は、『 知識送信(センドインフォ) 』の後、その者を脱出させた後に自壊する手筈だったのでしょうね』
「そりゃそうだろうなあ」
仁と老君は一連の出来事を振り返っていた。
『あの場で崩壊に巻き込まれてしまったら、せっかく知識を与えた相手が死んでしまいますからね。 御主人様(マイロード) ……のダブルだったから脱出できたわけで』
「まったくだ。……ああ、それからゴーレムも運び出したって?」
『はい。送ったランド隊は10体、怪我人は8人。2体が手空きでしたので』
「よくやってくれた。あのゴーレムはおそらく先代とはまったく違う系統だ。いろいろ参考になると思う」
少しだけ600012号を見た仁は、その構造の差に興味を惹かれていたのである。
「だが、一つわからないのは、ダリにあった 転移門(ワープゲート) とあの施設とがどうして繋がっていたのか、だ」
『確かにそうですね。最早施設の方を調べることが出来そうもないのが残念です』
「可能性としては、ダリの 転移門(ワープゲート) と偶然に周波数が一致したから、ということかな」
『それが一番ありそうです』
他にもいろいろ話したいことはあったが、蓬莱島とエルラド山の時差は2時間15分くらい。
故に蓬莱島はすでに日付が変わっており、仁は老君に仁ダブルの操作を任せて眠りに就いたのである。