軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-09 知識送信

仁ダブルたちが『浴育室』にやって来る少し前。

「その身体ならアルシェルよりも優秀だろうな」

仮面の『ロクレ』がベリアルスに迫る。

「だから 人造人間(ホムンクルス) を作る協力を……待てよ?」

ロクレの動きが止まる。

「わざわざ 人造人間(ホムンクルス) を作らずとも……その身体をいただけば済むことか……ふむ」

「待て! 何のことだ!?」

ロクレは再び動き出した。心なしか、仮面から覗く目が、剣呑な光を湛えているようだ。

「大丈夫だ。殺しはしない。ただ、その身体をいただくだけだ」

「はいそうですか、と素直に頷けるものか!」

恐怖に駆られ、ベリアルスは逃げようとした。が、その足を止めたのはロクレの言葉。

「お前が断れば、仕方ない、アルシェルの身体を使うことにしよう」

「な……何!?」

妹を人質に取られたようなもの。ベリアルスが一瞬足を止めた、その時。

「『 麻痺(パラライズ) 』」

「ぐあっ!」

天井から放たれた『 麻痺(パラライズ) 』の魔法により、彼は床に倒れることになったのである。

ロクレは彼を作業台の上に運び、手足を拘束ベルトで固定する。

そして、何やら複雑な 魔導機(マギマシン) を操作し始めた。

* * *

「600012号、止めるのだ」

仁ダブルと一緒に来た600012号が声を掛けた。

仮面を付けた『600012号』が振り向く。

仁ダブルの目を通して、仁にはその仮面の下に隠された 魔法外皮(マジカルスキン) が崩れかけていることを察した。

「600012号、邪魔をするな!」

仮面の600012号が叫んだ。その挙動を見た仁は、動作が不安定なことを見て取った。ぎくしゃくし、明らかに無駄な動作が多いのだ。

(これが『マライト』を使った弊害か……。制御系の一部と論理系のごく一部に影響があるのかな……?)

現場にいない仁は冷静に観察できる。仮面を付けた方の600012号の反応には僅かなタイムラグが感じられ、その疑似感情がえらく高ぶっているように見えた。

「止めるな! そうか、そこにいる邪魔者が600012号を惑わしているのだな? ……『 麻痺(パラライズ) 』」

天井から、ベリアルスを麻痺させた魔法が降り注ぐ。が、防ぐまでもなく、 自動人形(オートマタ) である仁ダブルと礼子には効果が無い。

「な……なんだと……?」

「600012号、もういい、もういいのだ」

だが、仮面を付けた600012号、ロクレは聞く耳を持たない。

「ううぬ、貴様等がいるから、600012号がおかしくなるのだ。ゴーレム7410、そいつらを追い出せ!」

『自分』である600012号を攻撃することはできないが、仁ダブルと礼子はその限りではない。ロクレは汎用と思われるゴーレムに、2人の排除を命じた。

「待て!」

600012号の静止も虚しく、2メートルあまりの、 銅(あかがね) 色をしたゴーレムが、まず仁ダブルに襲いかかった。

「うるさいですね」

仁ダブルは仁ではないが、仁が作った作品である。礼子は仁ダブルを庇い、ゴーレム7410を迎え撃った。

があん、という音が響いて、合成ネフライト製の床に亀裂が入った。

礼子が「腕投げ」を使ってゴーレム7410を投げ飛ばしたのである。

だが、普通ならばらばらになるほどの勢いで投げ付けられたにも関わらず、ゴーレム7410は起き上がってきた。ボディもあまり歪んでいない。

(意外と丈夫だな)

蓬莱島にいる仁は材質に少し興味を持った。

「ふはは、そのくらいでゴーレム7410を止められるか!」

ロクレが叫ぶ。それを聞いた仁は、かつての『黄金の破壊姫』エレナの狂態を連想した。

「礼子、とどめを刺してしまえ」

その言葉が終わるか終わらないうちに、ゴーレム7410は再び床にめり込んだ。飛び上がった礼子が踵落としを喰らわせたのである。

しかも、ただの踵落としではなく、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を併用した踵落としだ。

30キロという体重でなく、己の身体を空中に固定して行われた踵落としは、ゴーレム7410の頭部を破壊し、なおかつその身体を完全に床にめり込ませるほどの威力があった。

「う、うぬぬ……」

歯があるのか無いのかわからないが、ロクレは歯がみをして悔しがった。

そこへすかさず仁側の600012号が声を掛ける。

「言わぬことではない。止めよ、と言っているのだ。既に我等の使命は達せられようとしている」

そして、ようやくその言葉がロクレに届く。

「……何!? ……どういう意味だ……?」

狂態も収まってきたようである。

懇々と諭すような口調で600012号は続ける。

「我等が『主人』の遺命を果たすべき相手はここにいるのだ」

仁ダブルを指差す、仮面を着けていない方の600012号。

「その者が『継ぐ者』だと?」

仮面を着けた600012号が怪訝そうな声を出した。

「そうだ。『主人』は遺命を残した。『資格ある者を見つけよ、そして伝えよ、と』」

「わかっている。だがその者に資格があるとどうしてわかるのだ」

「彼はジン・ニドー、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だ。彼以上に資格のある者がこの世界にいるだろうか?」

「……確かに一理ある。ゴーレム7410を寄せ付けない従者を作り出せる技術があるということか……」

「そうだ。ようやく分かってきたようだな」

* * *

「……」

蚊帳の外に置かれた仁は、何のことなのか理解できなかった。が。

『彼、600012号は、何らかの知識もしくは情報を伝える相手を捜しており、それに相応しい者が 御主人様(マイロード) だと言っているようです』

老君が己の解釈を仁に伝えた。

「確かに有り得るだろうが……」

『 御主人様(マイロード) は世界でただ一人の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) です。何らかの資格があると言われても不思議ではありません』

「うーん……」

それはともかく、正直なところ、わけのわからないものを背負わされるのは御免被りたい、と思う仁であった。

* * *

「だが、真の資格があるかどうか、その最終判断はどうするのだ?」

仮面を着けた600012号が反論する。

「簡単なこと。彼は『クリスタルキューブ』を持っている。それで十分だ」

少し前に700672号から借り受けた『クリスタルキューブ』。それにどんな意味があったのか、仁は深くは考えていなかったが、600012号にとっては重要だったようだ。

「ジン殿、クリスタルキューブを出して見せてくれんかね?」

「は、はい」

仁ダブルは内ポケットからクリスタルキューブを出して見せた、その瞬間。

「おお、やはり……」

「それは……」

2体の600012号が突然跪いたのである。

「え!?」

ゴーレム経由で見ていたはずだが、実際に目の前にした2体の反応は想像以上だった。

「『主人』ではないが……懐かしい、本当に懐かしい魔力」

「……それを持つ貴殿は『継ぐ者』に間違いない」

2体の600012号は仁ダブルに向けて手を伸ばした。

仮面の600012号は仁ダブルの正面から、もう1体の600012号は横から。

「『主人』の遺命を今こそ果たす時」

「この巡り会いに感謝を」

「『 知識送信(センドインフォ) 』」

「『 知識送信(センドインフォ) 』」

「待っ……」

仁ダブルが止める間もなく、2体の600012号は『 知識送信(センドインフォ) 』を使ったのである。