軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-07 ロクレ

『ロクレ』と名乗った謎の人物に、ベリアルスは更なる質問をした。

「今通過したのは 転移門(ワープゲート) だと思うが、間違いないですか?」

この質問への答えは『然り』だった。

「アルシェルはここにいるのですか? 私はアルシェルを捜しているのです」

ここを訪れた目的を打ち明けるベリアルス。

「ああ、いるとも」

肯定する謎の人物。ベリアルスは急き込んで頼んだ。

「会わせて下さい!」

そんな彼を、謎の人物は宥める。

「まあ、待ちたまえ。彼女は元気だ。焦らなくても会わせてあげるよ」

その言に、ベリアルスは少し落ち着きを取り戻した。

「こちらへ来たまえ」

謎の人物はベリアルスを差し招く。

一瞬躊躇ったベリアルスだったが、意を決して謎の人物に従った。

「ここだ」

部屋の隅にある扉を開け、ベルアルスを差し招く謎の人物。

「アルシェルはこの部屋にいる」

その言葉を信じ、ベリアルスは部屋に飛び込んだ。

* * *

「ジン殿のことだから、私の身体が 自動人形(オートマタ) なのはもう気付いていると思う」

「ええ、まあ」

「私は、まだ停止するわけには行かぬ。であるから肉体を捨て、人形の身体を選んだのだ」

それは、700672号の話をした時から、多少予想していた答えではあった。

「 何故(なにゆえ) か。それは、『主人』の遺命を果たすためなのだ」

「遺命……ですか」

「そうだ。それが何かは今はまだ言えぬが」

言葉を濁す600012号に、仁は僅かな不信感を抱く。が、それよりも確認しなければならないことがあった。

「それで、ベリアルスは……?」

「うむ、それはこれから話す。私には、この身体になる前にも試作を何体か作ったのだ」

それは仁にも理解できる話である。

「その一つ前の試作が誤動作してな」

「え?」

誤動作、という意味が理解できない仁は尋ね返した。

自動人形(オートマタ) の 制御核(コントロールコア) を『 知識転写(トランスインフォ) 』で製作する以上、そのようなエラーが起きる可能性は限りなく低い。

ハードディスク上のデータをコピーすることに例えれば近いだろうか。

確かに、100パーセント確実ではないことは確かだ。が、それ以上に、『誤動作』するようなエラーが起きたということを、先代の時代を含め、仁は聞いたことがなかった。

「ここ一帯が特殊な鉱床であることはご存知か?」

「ええ」

スカルン鉱床である上、エルラドライト(=ミティアナイト)も採れる場所だ。

「私の主人はそうした素材に興味を持っていたのでここを選んだのだ。 魔結晶(マギクリスタル) もかなり産する。そんな中、珍しいものがあった」

600012号はそう言うと、振り返って棚に手を伸ばし、そこから1つの 魔結晶(マギクリスタル) を取り上げた。

「これだ。私は『マライト』と名付けた」

「それは……!」

ピンク色をした 魔結晶(マギクリスタル) である。仁には見覚えがあった。

「ふむ、見たことがあるのかね?」

「はい」

かつて、アンの姉妹 自動人形(オートマタ) たちや先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナの系譜を敵視していた 自動人形(オートマタ) である、『黄金の破壊姫』エレナの 制御核(コントロールコア) がこれと同じ 魔結晶(マギクリスタル) を使っていたはずだ。

「これが不思議な特性を持っていると気が付いたのはごく最近のことでな」

「それって、『特定の魔力に過剰反応する』というものでは?」

即座にエレナの改造の時のことを思い出した仁が、先回りして言うと、600012号は驚いたのだろうか、顔を歪めたのである。

「その通りだ。より正確に言えば、『特定の魔力』を増幅してしまうのだよ」

「それってミティアナイトの……?」

「ミティアナイトの特性をご存知か? そう、あれに似て、もっと限定的だ。石によって、増幅する魔力波形が異なるようだ」

「そうなのですか」

エレナの 制御核(コントロールコア) をコピーしようとしたときに、仁の魔力に反応して途轍もない光を発したことがあった。

それで仁と老君は、特定の魔力を増幅するという仮説を打ち出したのだが、他にサンプルもなく、検証するには至っていなかったのである。

それが、図らずもここで明らかになった。

「 魔法制御の流れ(マギシークエンス) にのっとり、 魔法語(マギランゲージ) を以て書かれた 魔導式(マギフォーミュラ) 。それによって 魔力素(マナ) が動き、魔法となる。そんな働きをする 制御核(コントロールコア) 上で、特定の 魔力素(マナ) が変質したらどうなると思うね?」

「誤動作……でしょうか」

「その通りだ」

例えるなら、キーボードで文字入力する際、特定の文字が文字化けするようなもの、と考えれば近いだろうか。

「これにより、どんな結果がもたらされるかは推測できぬ。が、 制御核(コントロールコア) が正常に働かないだろうことは想像がつく」

先程の例えでいうなら、書かれたプログラムの文字が一部文字化けしているようなものである。まともに動作するとは到底思えない。

「それでも、多重検証、複数計算、相互確認などのシステムのおかげで、致命的な暴走だけはせずに済んでいるのだ」

その言葉に、仁は引っかかりを覚えた。

「えーと、『暴走だけはせずに済んでいる』と言いましたね? それはどういう意味でしょう?」

「うむ、すまん。それを話さんがため、これほど長い前置きをしてしまったのだ」

そして600012号が語ったことは……。

* * *

「こ、これは何だ! アルシェル! アルシェルー!」

ベリアルスの前には、薄青い液体に力なく浮かぶアルシェルがいた。それも、5体。

薄青い液体は、透明な容器に入れられており、従って5体のアルシェルも容器の中。

容器は小型なプールといってもいいほどの大きさがあり、その厚みは30センチほどもあろうか。

強靱な材質でできているらしく、ベリアルスがいくら叩いてもびくともしなかった。

「無駄だ。その『アルシェル』は失敗作だからな」

「何!?」

いつの間にか、ベリアルスの背後に『ロクレ』が立っていたのである。

「強度、耐久度、拡張性、応用性、その他のパラメータのほとんどが必要値を上回っているというのに、適合性だけが基準値以下のため失敗作といわねばならないのは辛いのだがな」

「な……何を言っている?」

「兄という貴様なら、もっと適した身体を作れるかもしれん」

『ロクレ』は不気味に仮面の下から覗く口を歪めた。

「だから、アルシェルの兄よ、実験に協力してもらうぞ」

「待て! アルシェルはどこにいるんだ!」

「そこに浮いているではないか」

「これはアルシェルではない! 姿が似ているだけの『もの』ではないか!」

「アルシェルと何が違うのだ? そもそもお前は、生物と無生物の違いを知っているのか? 『生きている』というのはどういうことだ? 我等は生きているのか、いないのか?」

ベリアルスは目の前の『ロクレ』が次第に気味悪くなってきた。

「問答するために来たのではない! 妹を返せ!」

「だからそこにいるではないか。どれでも好きなものを持っていけ。全部持っていっても構わないぞ」

話が微妙に噛み合っていない。ベリアルスはこの場をどう切り抜けるか考えた。

「そ、そうだ! 私の後から2人ほど来たはずだ! 彼らはどうした?」

だが、その問いに関する返答は、ベリアルスを落胆させるだけであった。

「2人? 知らぬ。吾は貴様だけを欲したからな」

その声は、 自動人形(オートマタ) の声とはいえ、冷たい響きを感じさせるものだった。