作品タイトル不明
25-05 登山
「考え直した方がいいかもしれない」
その夜、仁ダブル、礼子、ベリアルスは、『コンロン2』の中で協議をしていた。
「『謎の従者』の施設に出入り口が無いはずはない、それはいいと思う」
「ですね」
今現在使われていないとしても、手掛かりすら見つからないというのは異常だ。
「『謎の従者』が 自動人形(オートマタ) の身体を持ち、食事を必要としないとしても、アルシェルやそのホムンクルスは食事をしないわけにはいかないだろう」
そんな仁ダブルの発言は、蓬莱島で老君と共に考えている仁本人が思いついたものである。
* * *
蓬莱島でも、仁と老君が協議をしていた。これにはエルザも参加している。
『 御主人様(マイロード) 、アルシェル……の分身でしょうか? グロリアさんたちを襲った個体は『転移魔法』を使いましたよね?』
「……ああ、なるほど、転移魔法で出入りするという可能性か」
『はい。それもまた、セキュリティの方法でしょう』
「でも、それはちょっとおかしい。『転移魔法』って、行ったことのある場所とか、目で見える場所しか行けないんじゃなかった?」
「うーん、そうか」
『そうしますと、一番最初はどうしたか、ということになりますね』
「そういうことだな。どこかから地下に入ったか、あるいは『謎の従者』とコンタクトができる場所があるか」
「その可能性が高そう。問題は、それがどこにあるのか」
『意外な場所にあるのかもしれませんね』
「なにか手掛かりがあればなあ……」
そんな話が交わされていたのだが、一点、仁が頭を抱える内容が出たのである。
「ところでジン兄、掘り出したエルラドライト、着服したでしょ」
「え? …………あ、あーっ!」
エルザに言われてから気が付く仁。
一応、エルラド鉱山はセルロア王国などの管理が入っており、そこで採取されたエルラドライトは国が買い上げることになっているのである。
その法が適切かどうかは置いておくと、仁は無断採掘したことになる。
「……あとでセザール王に断りに行かないとな」
『 御主人様(マイロード) 、それがいいと思います。どのみち、あの巨大なエルラドライトはそこらにいる監視の役人が値を付けられるものではないでしょうから』
「わかった。そうするよ」
こういう流れで、アルシェルの件が済み次第、エルラドライトの発見を申請するということになったのであった。
* * *
「アルシェルがどこでどうやって『謎の従者』と出会ったのか、ということだな」
仁ダブルが悩みながら呟いた言葉を聞いたベリアルスは、はっとしたような表情を見せた。
「……あの子は、昔から山に登るのが好きでした。……もしかしたら、エルラド山にも登っているかもしれません」
この、 自由魔力素(エーテル) が薄い環境で、とも仁は思ったが、身体強化は困難かもしれないが、単に身体を動かす程度ならある程度の順応もするだろうと思われる。
「それとも、行き倒れていたところを『謎の従者』に発見された可能性も捨てきれませんよ」
礼子から、思い掛けない可能性の指摘も行われた。
「とにかく、明日はエルラド山を調べてみよう」
そういうことになった。
翌日、コンロン2は遺跡を離れ、エルラド山の北東側へと移動した。
魔族領から南下してきたアルシェルが山に取り付くとすれば、こちら側からの可能性が高いと判断したからだ。
エルラド山の北東斜面にはまだ残雪があったが、歩くのに支障はない。
ベリアルスを先頭に、仁ダブル、礼子の順で斜面を登っていく。
平均斜度は20度くらい。
自由魔力素(エーテル) 濃度が低いため、ベリアルスは若干辛そうであるが、アルシェルを捜すという目的のためか、それをおくびにも出さず、黙々と歩き続けている。
雪の消えた箇所には植物の芽が出ており、季節が春に向かっていることがわかる。
が、登るにつれ残雪が増え、標高1500メートル付近から上は雪と氷に閉ざされた世界となってしまった。
「やはり歩きにくいな」
コンロン2から見ていたので覚悟はしていたとはいうものの、現実は想像以上に厳しかった。
「仕方ない、南側へ回り込もう」
日当たりのよい南斜面の残雪はぐっと少なくなる。
一行は斜面をトラバースし、南斜面へと回り込んだ。
だが、そちら側は傾斜がきつくなっている。仁ダブルと礼子は平気だが、身体強化ができないベリアルスは少し、いやかなり辛そうだ。
気温は摂氏5度くらいなのに大粒の汗を流し、息も荒い。
仁ダブルはそれを参考に、適度に息が弾んだように見せかけている。
「ちょっと休もう」
南側の気温は摂氏8度くらいまで上がった。風が当たらない岩陰にいればまあまあ暖かい。
ここで持ってきた行動食の乾パンを食べることにする。
礼子は食べないが、仁ダブルは食べたふりをしなければならない。
一方のベリアルスは空腹だったらしく、乾パンを美味そうに食べている。ペルシカジュースも飲んで、体力・魔力共に回復したようだ。
「さて、これからどうしようか」
エルラド山は東西に長い山体をしているため、南側は斜度がきついのである。また、日が良く当たるためか風化も進んでおり、岩が脆い。
かといって東側斜面は残雪が多い。
「西側へ回ってみるしかないか」
一般的に、東側と西側を比べたとき、日射量が同じならば、気温が上がってから日が当たる西側の方が雪が溶けやすいのである。
それで一行はそのまま斜面を更に西へ回り込んだ。
「うん、これなら何とかいけそうだ」
一面雪と氷に覆われていた東側と違い、こちらは4割くらいは岩が露出していた。
「よし、行くか」
ベリアルスも反論せず、一行は慎重に西斜面を登り始めた。
標高差は300メートルほど。1時間100メートル登れば3時間で山頂に着ける計算だ。
「コンロン2で山頂に降りた方が早かったな」
と仁ダブルが呟けば、ベリアルスはそれを否定する。
「いえ、途中に手掛かりがあった可能性もあるので、無駄ではないですよ」
一番肉体を酷使しているはずのベリアルスが言うので、仁ダブルもそれ以上のことは言わなかった。
「とっかかりは……と」
「あそこはどうでしょう」
礼子が指差した箇所を見た仁ダブルは思わず呟いた。
「チムニーか……」
チムニーとは本来煙突の意味であるが、登山用語では岩壁にできた縦溝を指す。仁は、芸能人が登山にチャレンジするTV番組を通じて、そんな用語を聞き覚えていたのだ。
「チムニー登攀ってめんどくさいんだよな……」
腕と脚を左右の壁に突っ張って体を支える要領だ。あるいは背中と両脚の場合もある。
「ジン殿、これを!」
そんな風に仁ダブルが悩んでいたら、ベリアルスが何かを見つけたらしい。
「岩が削られているな」
その場所は、明らかに人為的な加工が施されていた。しかもまだ新しい。よく見ると、階段状、いや、傾斜が強いので梯子状といえばいいか。
とにかく、足を乗せられるような溝が岩壁に掘られていたのだ。
「ずっと続いているようです」
遙か山頂方面を見上げながらベリアルスが言った。
「私はここを行ってみます」
「そうだな。俺と礼子はもう少し他を探してみて、良い場所がなかったら後を追うよ」
ということになり、仁ダブルと礼子はもう少し周囲を観察することにした。
礼子の視力をフルに生かし、周辺の観察を続けたのだが、他に登れそうな箇所はなかった。
「やっぱりここか」
「行きましょう」
15分遅れでベリアルスの後を追う2人(2体)。
疲れを知らない 自動人形(オートマタ) の身体は、ぐんぐん高度を上げていき、30分もするとベリアルスに追いついた。
「ジン殿、やはり他には無かったようですね」
「うん、これが唯一のルートみたいだ」
そうなると、この加工を行ったのが何者か、という疑問が残るわけだが。
「誰のためのものか、というのも謎ですね」
そんな発言をした礼子は、淡々とした作業のように登り続けている。
「あと少しで頂上です」
5分も経たないうちに一行は山頂に立っていた。
エルラド山の山頂部は割合広くなっていた。とはいえ、一目で見渡せる広さである。
「何も無いか……」
が、何か手掛かりになるものはないかと、3人は手分けして探し始めた。そして。
「これをご覧下さい」
礼子が指差したもの。それは、良く良く見なければわからないほどに小さな貴石の欠片だった。
「ルビー……かな?」
小指の爪の半分にも満たない大きさのそれを、仁ダブルが掌に載せて観察していると。
「それは……アルシェルの髪飾りに付いていたルビーかも……!」
興奮を押し殺した声でベリアルスが言った。