作品タイトル不明
25-03 スタート!
「ほ、本当ですか!」
『 傀儡(くぐつ) 』の氏族領にベリアルスの大声が響き渡った。
「ああ、十中八九、間違いないと思う」
「行きます! 同行させて下さい!」
仁が『同行してくれないか』と言う前に、ベリアルスの方から申し出てきた。
「よし、じゃあ明日」
「よろしくお願いします!」
元々出掛ける準備をしていたこともあって、面倒なこともなく、話は纏まってしまった。
「ジン殿、ベリアルスと……アルシェルのことをよろしくお頼み申します」
灰色の髪、金色の目をした『 傀儡(くぐつ) 』の氏族長、マクシムスが仁に頭を下げた。
過疎どころではない魔族の人口事情、1人でも救えるというのは重要なのである。
「うわ、これは面白いですね!」
サキの興奮した声。
サキ、トア、ヴィヴィアンは、マクシムスの妻、ファメラーと、その孫ルシリアスに案内されていろいろと見せてもらっていた。
ルシリアスは70歳、人間で言うと14歳相当。外見相応に好奇心旺盛な男の子で、案内をしつつ質問もしている。
「ふうん、そっちにはそんなものがあるの」
「ああ、といっても一部の貴族が独占している状態だがな」
一番親しげに言葉を交わしているのはトア。
ルシリアスは父親を早くに亡くしているので、トアくらいの(外見的)年齢の男性と親しく話すのが楽しいらしい。
一方でファメラーは、サキやヴィヴィアンを娘か孫のように思っているようで、懇切丁寧に案内・説明をしている。その顔には柔和な微笑みが。
こうして、魔族領訪問は何の問題もなくその目的を達することができたのである。
* * *
翌朝。
朝食後、仁は帰り支度を始めていた。そこにサキがやって来て、要望を告げる。
「ジン、父さんとボク、それにヴィヴィアンはこっちに残るよ」
「やっぱりそうなるか」
事前に言っていたように、やはりサキたちは1泊では物足りなかったようだ。
「そのためにアアルやスチュワード、アンを連れてきているんだしな」
「ジン殿、ベリアルスが戻るまで、お三方は我々でお世話させていただきます」
氏族長マクシムスが請け合ってくれた。
「お望みなら他の氏族も呼ぶなり、お連れするなりできるかと思います」
近いところでは『深遠』の氏族だろうか。仁と最も仲の良い『森羅』氏族は少し遠い。
「よろしく頼みます」
何かあれば、アンやスチュワードが老君に連絡を入れてくれるだろうから、当面問題は無い。
帰りたくなったら連絡すれば、蓬莱島から迎えが来るだろう。
「早ければ5日くらい、長くても半月も掛からないでしょう」
所要日数を見積もる仁。
「わかり申した。お気をつけて」
「族長、行ってまいります」
仁、礼子、エルザ、ベリアルスがカプリコーン1に乗り込む。
「ジン、気を付けて」
「ジン殿、首尾よくいくことを祈ってます」
「ジン君、またね」
サキ、トア、ヴィヴィアン、そしてアアルは彼等を見送った。
そして動き出すカプリコーン1。時速40キロほどで歩行を進めるそれは、たちまちにして見送る彼等の視界から消えたのである。
「ジン殿、この先の予定はどうなっておりますか?」
シートに座っていても落ち着かない様子のベリアルス。妹のことが気になって仕方がないという顔だ。
「大地峡を抜けて南下する。そうすると季節風や天候の影響が少なくなるから、『コンロン2』に乗り換える」
「『コンロン2』とは何ですか?」
ジンは、そういえば魔族領へ入ったことがなかったっけな、と思い返した。 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を探しに行ったときもカプリコーン1だったのだから。
「まあ、見てのお楽しみ、だよ」
仁は、コンロン2に関してはそれだけとする。むしろ、地下の施設について詳しく説明しておきたいのだ。
そして今までわかったことを説明していくと、やはりベリアルスも驚いたようだ。
「……そんな場所の地下に『サーバント』が?」
『サーバント』とは、『 始祖(オリジン) 』が作り出した 人造人間(ホムンクルス) の従者のこと。
「そうなんだ。しかも、自ら望んでなのかはわからないが、身体を 自動人形(オートマタ) にしてしまっているらしい」
「なんと!」
「更に、その地下施設へ穏便に行く方法がわからない。……とまあ、まだ問題は多いんだが」
「そのようですね」
そんな会話を交わしながら南下すること3時間半。
パズデクスト大地峡を越え、ローレン大陸に入る。
「どうだ、大丈夫か?」
このあたりの 自由魔力素(エーテル) 濃度は魔族領よりも10パーセントから15パーセント低い。
人間が2000メートル級の山に登ったくらいのイメージだろうか。
「まだ問題ないですね」
「それならいいんだが」
一方、仁の 身代わり人形(ダブル) の方は、すでに『コンロン2』を合流地点に着陸させていた。ここで仁と仁ダブルとが入れ変わるのである。
時刻はちょうど正午。真っ直ぐ南下してきたので時差はない。
「あれが『コンロン2』だ」
カプリコーン1の車窓からもコンロン2が視認できる距離になった。
「『飛行船』というものですね?」
シオンかイスタリスに聞いたのであろうか、ベリアルスは飛行船の知識があるようだ。
「そうさ。あれならあっという間にエルラド鉱山に着ける。ただ強風に弱いんだ」
「それは想像がつきます」
現代地球の航空機も、強風に弱いことは同じ。また、自動車であっても、突風で横転することもあるのだから、仁の技術が低いせいではない。
現に『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使えば、地上で吹き荒れるどんな風にも対抗することができるのだ。
「思ったよりも大きいですね」
『コンロン2』は全長40メートル。カプリコーン1は8メートル。見た目が大分違う。重さなら圧倒的にカプリコーン1の方が重いが。
「礼子、ベリアルスを案内してやってくれ」
(礼子、ここで入れ替わるから、うまく気を逸らしてくれ)
仁は礼子に予定通りの指示を出した。
「はい、お父さま」
「ベリアルス、俺はコンロン2の確認をするから先に行ってる」
そう告げて仁は先に降り、コンロン2へと駆けていく。
そしてコンロン2に乗り込むと、内部の 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島へと移動した。
礼子はベリアルスを先導するようにしてカプリコーン1を降りた。そのままコンロン2へと歩いて行く。
エルザはカプリコーン1に残った。建前上は留守番である。実際にはこのあと 転移門(ワープゲート) で蓬莱島に帰る。
礼子とベリアルスがコンロン2に着いたときには、入れ替わった仁の 身代わり人形(ダブル) が2人を出迎えた。
「ようこそ、『コンロン2』へ」
おどけた調子でベリアルスを迎える『仁ダブル』。
「これが飛ぶ……想像するとわくわくしますね」
仁ダブルはにっと笑い、ベリアルスを操縦室へ招いた。
乗員は仁ダブル、礼子、ベリアルス。そして操縦及び保守担当のスカイ11である。
この他に、姿を見せてはいないが、サポート要員の『 忍(しのび) 部隊』も乗船していた。
「よし、発進だ」
「了解」
短いやり取りの後、スカイ11はコンロン2を離陸させた。
「おお……!」
一瞬の浮遊感、そして遠ざかる大地。
ベリアルスもまた、しばらくの間、窓に釘付けになっていたのである。