軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-01 誕生日パーティー

「エルザ、誕生日おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「……みんな、ありがとう」

3月15日、蓬莱島では仁ファミリーが集まって、エルザの誕生日を祝っていた。

本人は、ハンナが祝ってもらえなかったのだから自分もしてもらわなくていい、と仁に言っていたのだが、そんなこととは知らないラインハルトが準備をしていたのである。

(ハンナちゃんには、悪いけど)

そう一言、仁の前でだけ呟き、エルザはその日の主人公になった。

「ベルチェさん、大丈夫?」

にこやかに微笑みを浮かべる、ラインハルトの奥方を見て、エルザが尋ねた。

「ええ、ありがとうございます。つわりもそれほどひどくないので大丈夫ですわ」

「ペルシカジュースを飲むと、凄く楽になるようだよ」

蓬莱島産のペルシカジュースには、 自由魔力素(エーテル) が豊富に含まれている。それが何か、良い効果を発揮するのだろうか。

「くふ、まだまだ 自由魔力素(エーテル) について、調べるべきことは多そうだね」

珍しくドレス姿のサキが笑って言う。こんな時にも研究のことを忘れないのは見上げたものだ。

パーティーといっても、内輪だけなので、無礼講、というか、自由な雰囲気である。

蓬莱島にある研究所の食堂を飾り付け、ペリドをはじめとするゴーレムメイドたちが腕によりをかけた料理が並んでいる。

身分の上下などはなく、みんな『家族』という立場で祝っているのだ。

「……それにしてもそうそうたるメンバーだよね」

こういう雰囲気にはまだあまり慣れていないマルシアが苦笑を交えて呟いた。

「それに関しては、今後、崑崙島をもっと整備して、ここより気楽に使える場所にしようかと思ってる」

ワインを飲みながら仁が口を開いた。

「俺も一応『崑崙君』で通っているからさ。崑崙島が拠点だ、と対外的にも示す必要があるしな」

「ああ、そうだったな。各国から『崑崙君』として認められたわけだから、あそこは正式にジンの領地だな」

ラインハルトは、『ミツホ』から取り寄せた『米でつくった酒』……つまり『日本酒』を飲んでいる。

「しかし、この酒は魚に合うな」

ヒラメに似た魚のムニエルを食べながら、ラインハルトはいつになく早いペースで酒を飲んでいた。

「あなた、飲みすぎないで下さいませね」

お腹に赤ん坊がいるベルチェは、アルコール厳禁なので、ちょっと残念そうな顔だ。

「しかし、ミツホ、か。まだ行ったことがないから興味があるね」

とはトアのセリフ。一月ちょっと前に入籍したステアリーナが、そんな夫を横目で睨んだ。

「お二方、新婚旅行を兼ねて行ってきたら? トアさんなら、陛下に申し入れれば許可が下りると思うし」

超一流の錬金術師のトアであれば、そうした国への調査旅行という名目で許可されるだろうと仁は思ったのである。

因みに、仁ファミリーのメンバーは、仁から聞いて皆、この風習について知っていた。

「そうね、それもいいわね。あなた、頼んでみて下さらないこと?」

「うむ、そうだな」

トアのみならず、ステアリーナも乗り気である。

「あら、それなら私も一緒に……ごめんなさい、なんでもないわ」

語り部、ヴィヴィアンが、ステアリーナたちに同行したいと言いかけ、新婚の邪魔になることを察して口を噤んだ。

「ああ、それなら、俺も時間が取れたら行きたいなと思っているんだよ」

仁が助け船を出す。

「あら、その時ご一緒させてもらえるの?」

「いいんじゃないかな?」

だが、ヴィヴィアンは仁の顔をじっと見、それから少し視線を横にずらした後、

「……やっぱり遠慮しておくわ。今夜の主役が微妙な顔をしているわよ?」

「え」

「わ、私は、そ、そんな」

悪戯っぽい顔で放たれた言葉に、エルザが赤面する。

「うふふ、赤くなっちゃって。可愛いわ」

そんな言葉に、更に顔を赤くするエルザ。

「ヴィー、およしなさいな」

「……そうね」

ステアリーナが窘めなければ、まだ何かいいそうなヴィヴィアンであった。

「しかし崑崙島、か……我々の船じゃまだ無理だな」

ロドリゴがしみじみとした口調で呟いた。

「そうだね、父さん。もっともっと精進しないと」

マルシアとロドリゴは、仁ファミリーとして、先進技術を教わることを良しとせず、自力で開発を進めるという道を選んでいた。

それもまたありだろう、と仁は思っている。

「でもマルシアの船は安定がよかったんだろう? 無事に何ごともなくポトロックへ戻ったようだし」

「まあ、ね。少し海が荒れていたから岸沿いに移動したんだけどさ、波によっては沖の方が穏やかな場合もあるんだよね」

うねりのような波は、海水の上下動であるから、浅いところほど波が高くなる傾向にあるのだ。

これが風浪(強風によって起きる海面の波)だと、岸近くだと、陸地によって風が弱まる傾向にあるため、沿岸部の方が安全なこともある。

それを見極めることが安全への第一歩だ、とマルシアは言った。

そんなマルシアに、エルザがぽつりと一言尋ねた。

「今年、レースは無かったの?」

もちろん、ゴーレム艇競技のことを指しているのだ。

「ああ、いつもなら2月中頃なんだけど、今年はほら、セルロア王国の記念式典があったろう? だから3月にずれ込んでるんだよ。20日に開催予定だ」

「今年は出ないの?」

「うん。工房が忙しくてさ。うちの工房で作った船が5隻も出場するんだよ! 『水車駆動双胴船』が」

「へえ、そりゃすごい」

仁も感心した。

「だろ? シグナスで出れば勝てると思うけど、そうしたら自分で自分の工房を否定するようなものだし……」

確かに、旧型に新型が負けたら、お客はどう思うだろうか。

一番の差はアローなのだが、そんなこと、一般客にわかるはずもない。

「たしかにな。また違う制約でのレースなら別なんだろうけど」

「そういうことさ。ゴーレム艇競技はあれ以来人気が更に上がったからね……」

「まあ、いいことだよな」

マルシアの話によると、外海で競技を観戦しようというお客が更に増え、今年は多分大型船が多数用意されるとのことだった。

「観光も産業だし、いいことなんだろうな」

ラインハルトが口を挟んできた。彼も、昨年のレースでは仁のライバルとして、船と人魚型ゴーレム『ローレライ』を作り出していたのである。

「『あの』水着は健在だよ。去年、今年と、海水浴客も着ている人がぐっと増えた」

『あの』水着というのは仁が作った、メリヤス地のワンピース水着のこと。それまではゆったりした、半袖半ズボンタイプが主流だったのである。

「まあ、蓬莱島やカイナ村では普通だしな」

と、ラインハルト。彼としてはむしろ普及してもらったほうがよいのだろう。

隣では彼の愛妻が睨んでいたが、当の本人は気が付いていないようである。

「そういえばエルザは最初から気に入ってたよね」

マルシアが当時を思い起こしながら言う。

「ん、動きやすい、というか泳ぎやすいと、思った」

「まあ、それは確かだけどね……」

当時を思い出して苦笑するマルシア。

和やかな輪から少し外れて眺めているのは、エルザの実の母、ミーネ。

(あの子があんなに楽しそうに……)

幸せそうに笑う我が子の様子を見て、喜ばない親はいないだろう。

(ジン様に出会えて、本当に、よかった)

そんな蓬莱島の空には星が瞬いていた。

* * *

因みに、今年のプレゼントはというと。

ラインハルト:ミスリル銀の短剣(改めて)

ベルチェ:新しい外出着(少し大人びたデザイン)

サキ:新しい靴(外出着と合わせてある)

トア:新しい帽子(外出用)

ステアリーナ:香水

ヴィヴィアン:スカーフ

マルシア:花束

ロドリゴ:ハンカチ

ミーネ:爪切り

そして仁からは、ブローチ、ネックレス、イヤリングの3点セット。

いずれにも 水石(アクアマリン) があしらわれており、 魔力探知機(マギレーダー) の目標にもなる。同時に転送装置のマーカーにもなる。

こうした装備を複数系統身に着けておくことで、より安全を期することができる、と考えたのであった。