軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-37 閑話49 レファ

伝説の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが遺した 自動人形(オートマタ) の 設計基(テンプレート) が発見されたのが3101年。

それを切っ掛けに、 自動人形(オートマタ) ・ゴーレムに関する技術は飛躍的に向上した。

そんな時代、3107年に完成した最新型。それはまさに、人間そっくり、というよりも人間そのものといえる傑作だった。

髪の色は、人間には絶対に有り得ない青色に決定された。同型機は全部で20体作られ、大評判となる。

第1号 自動人形(オートマタ) は『アン(ANN)』、2号 自動人形(オートマタ) は『ベル(BEL)』、3号 自動人形(オートマタ) は『キャス(CAS)』。

彼女たち第1世代は全部で20体、『ティム(TIM)』まで作られる。

20体の 自動人形(オートマタ) を世に送り出した工場では、1年ほどの間に寄せられた要望を元に、更なる改良を施す。

主に信頼性と汎用性を増す改良を加えられた、第2世代 自動人形(オートマタ) だ。

こちらは、注文に応じていろいろとカスタマイズできるタイプである。

大貴族が、乳母用として『授乳機能』を付加させたタイプを発注したこともあったようだ。

が、一時、こうした 自動人形(オートマタ) が次々に破壊されるという事件が頻発し、工場の技術責任者までが殺害された。

これにより、工場は一時操業をストップせざるを得なくなった。

この謎の事件は謎のまま終息し、工場は生産を再開する。技術責任者がいなくなったため、これ以上の新型を開発することは難しかったが、同じ型なら問題無く作れたのである。

そして。

『軍用にするため、信頼性を上げて欲しい』

「はい、では魔導神経を2系統に増やしておきます」

『軍事系の知識はこちらで教育する』

「はい、でしたら必要最低限の知識のみ与えておきます」

こうした、軍関係者からの要望によりカスタマイズされたのは第2世代、18番目の 自動人形(オートマタ) 。名を『レファ(REFA)』といった。

「いいか、レファ。これが魔導頭脳だ。お前はこの『頭脳』と砦内の『人間』との橋渡しの役を務めるのだ」

「はい、わかりました」

レファには数々の専門知識が与えられ、また、『人類』への奉仕という基本命令も与えられた。

特定の人間ではなく、『人類』という種族への奉仕。それは、戦争という特殊な条件下では必要なものだった。個人の安全に固執するあまり、全体の安全がおろそかになってはならないからだ。

更に、戦時中のため、貴重な 自動人形(オートマタ) として、砦の魔導頭脳とも 魔素接続(リンケージ) を行い、非常時には魔導頭脳からの命令で行動することも出来るようになった。

とはいえ、基本的には『司令官』に仕えるのだが。

(これで私はご主人様……司令官にお仕えする資格を持てたのですね。司令官とは、どのようなお方でしょう)

あくまでも内心、いや『 制御核(コントロールコア) 』の深いところで、レファはこれからの自分を思い描き、期待に胸を膨らませていた。

だが、間もなく『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』が起き、完成したばかりの頭脳と共に、レファは長い眠りに就いたのだった。

(……いつか、私の『司令官』にお会いできるのでしょうか…………)

* * *

「……」

レファが再起動したとき、目の前にいたのは、『司令官』ではなかった。

(何者でしょう? 人間には違いなさそうですが……)

自分の中に刻まれた『司令官』の条件に当てはまるものは、唯一、『人間』であることだけ。その外見は軍人には見えず、その保有魔力は貧弱に過ぎた。

「……」

(声が出ません。……相当、身体が傷んでいるようですね。それに身体が重い。これは 自由魔力素(エーテル) 不足……?)

だが、長の年月は、レファの身体を蝕み、発声機能を奪ってしまっていた。

それだけではない。希薄な 自由魔力素(エーテル) 濃度に対応していない 魔素変換器(エーテルコンバーター) は、十分な 魔力素(マナ) を 魔力炉(マナドライバー) に供給できず、慢性的な魔力エネルギー不足状態だったのである。

「最優先でこいつをまともに喋れるようにしてくれ」

「言われるまでもない」

『主人』と認識した人間が、その部下らしい技術者に命令をした。そのおかげで、レファは最低限の機能を取り戻すことができたのである。

『オランジュサマ、ヨロシクオネガイイタシマス』

(なぜ、能力のないこのような人間が砦の指揮をしているのでしょうか……)

『司令官』ではないが、従わねばならない主人。

(この状況はいったい、何なのでしょう。私の存在意義は……そう、『頭脳』ならわかるかもしれません)

それからのレファは、情報を集めることに躍起になった。

レファの 制御核(コントロールコア) は、『頭脳』と『人間』の仲立ちをするため、デフォルトで並列思考が可能なよう調整されていた。

そのため、『主人』であるオランジュに従う一方で、未だ動き出さない『頭脳』のためにも行動することができる。

つまり、『頭脳』を補佐する役目も持つ彼女としては、

『ズノウヲ サイキドウスレバ、コノトリデハ ナンコウフラクニナリマス』

と、『頭脳』を再起動させることで、己の存在意義をより確かなものにする必要があったのである。

そのために、地下室に眠る『修理用ゴーレム』の存在を教えた。これにより、修理は一気に進む。

(これで、この謎の事態に何らかの進展があるでしょう)

『頭脳』に依存する思考と、『主人』に従う思考。

2つの並列思考に矛盾が生じないよう、レファはうまく行動していた。

そしてついに、『頭脳』が目覚めた。

レファは、自分が知り得た情報・知識を全て『頭脳』に伝える。『頭脳』はまた、独自の情報網で新たな情報を得ていく。

決定的だったのは、砦を包囲していた人間が侵入してきたこと。

彼等10名を容易く気絶させた『頭脳』は、そのリーダーと思われる男から、この争いについての情報を手に入れたのである。

(この『主人』は人類の利益に反する行動をしている。これなら遠慮なく止めることができます)

『 衝撃(ショック) 』

「ぎゃああ! レ、レファ、な……ぜ……」

自動人形(オートマタ) が主人を攻撃することはない、と信じ切っていたオランジュとその配下は、あっさりと気を失った。

(なぜ、と問いかけますか。……この無益な争いを終わらせる、それだけです。私の存在意義は『人類への奉仕』ですから)

個人ではなく全体への奉仕。先に述べたようにレファが軍用に調整されたが故の特性である。

『司令官』が明らかにおかしな命令を出したときには、『頭脳』の判断で 諫(いさ) めることもできるのだ。

まして、『司令官』の資格もないのに砦を簒奪した人間には攻撃することもできた。

もちろん、その方法は、傷や後遺症を残さないやり方に限定される。

そこで雷系魔法の『 衝撃(ショック) 』が用いられたのである。

こうして命令する人間がいなくなったため、『頭脳』からの指令があり、レファは動作を停止することとなった。

(まだ見ぬ私の『司令官』。お会いしとうございました……)

* * *

「『起動』」

レファの 制御核(コントロールコア) に『 命令(コマンド) 』が入力され、彼女は目を覚ました。

「はい、ご主人様」

レファの目の前にいたのは、とても軍人には見えない、小柄な青年。とても軍を指揮する『司令官』には見えなかった。

だが、それで彼女が落胆することはなかった。

(な、なんでしょうか、この溢れるような魔力は……この方こそ、 御主人様(マイロード) !)

そして起き上がったレファは、己の身体が思い通りに動くことに気が付いた。

丁寧な動作でお辞儀をする。

「修理していただき、ありがとうございます」

(……いいえ、修理ではないですね。改造……それも根本的な! つまり、『再生』!)

今までずっとレファの身体にのし掛かっていた、人間でいうところの『怠さ』が消えている。

それは、取りも直さず、体内の『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』が再調整されたことに他ならない。

(…… 魔素変換器(エーテルコンバーター) ……? いいえ、違う。これは……何?)

魔力反応炉(マギリアクター) という概念をレファが知るのは、もう少し先のこと。

「もしかして、と思うが、『ティア』という 自動人形(オートマタ) に覚えはあるか?」

彼女の新たな『 御主人様(マイロード) 』が質問してきた。

「はい、私と同時期に作られた 自動人形(オートマタ) です」

レファ、セリー、ティアの3体は同時に作られ、カスタマイズされる前の段階でストックされていたのだった。

セリーとティアがどうなったのか、レファは知らない。

「……名前の付け方にも何か理由がある?」

レファの新たな主人の横にいた若い女性が質問した。

(この女性も、素晴らしい保有魔力を持っている。 御主人様(マイロード) のパートナーでしょうか)

「はい。私どもは、作られた時期によって、名前の傾向を合わせた、と聞いております」

それを聞いたレファの主人は感慨深げに呟いた。

「ロルもレファもアンの姉妹になるわけだ」

(……アン? 誰でしょう?)

「アン、とは?」

同ロットのことについては知識があったが、前のロットについては何も知らないレファであった。

「ああ、向こうでロルと話をしているよ。レファも参加してくるといい」

新たな主人が指差す方向には、同じ工場で作られたとはっきりわかる、2体の 自動人形(オートマタ) が楽しげに言葉を交わしていた。

(……楽しげに? ……ああ、 私の御主人様(マイロード) の下では、こういう光景が見られるのですね)

一瞬面食らったものの、その意味するところを察したレファは頭を下げた。

「はい、ありがとうございます」

(今度の 御主人様(マイロード) も『司令官』ではなかった。……けど、もっと、もっともっと、素晴らしい方でした)

こうして、仁の下には魔導大戦時の貴重な 自動人形(オートマタ) 3体が集ったのである。