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作品タイトル不明

24-36 閑話48 ロル

伝説の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが遺した 自動人形(オートマタ) の 設計基(テンプレート) が発見されたのが3101年。

この年は、魔法工学界にとって記念すべき年となった。

それまでの 自動人形(オートマタ) 及びゴーレムは、その九割が、『 魔導樹脂(マギレジン) 』を使ったもの。

つまり、魔法で変形する『粘土』を人型にして、金属の鎧を着せたものがゴーレム、模造皮膚を被せたものが 自動人形(オートマタ) であった。

内部に骨格を持つ 自動人形(オートマタ) はほんの一握りしかおらず、それらも単なる試作機か、あるいは金持ち・貴族の見栄という枠を出ることはなかったのである。

それが、アドリアナの 設計基(テンプレート) の発見により、大きな改革期が訪れたのである。

「人間のそれを簡略化した骨格」

「人間に近い筋肉の付き方」

この2点は、より人間に近い動きと仕草を可能にした。

その恩恵はといえば。

ゴーレムは人間が培ってきた剣技・格闘技などの技を余すことなく使えるようになった。

自動人形(オートマタ) は、より人間らしさが加わった。

これにより、特に 自動人形(オートマタ) の需要が一気に伸びたのである。

雨後の 筍(たけのこ) のように、大小の工場・工房が操業を開始した。

それらは3年ほどの間に淘汰され、5年もすると、品質の良いものを作り出す工場・工房のみが残っていた。

その工場もそんな風に淘汰されて残ったものの一つである。

試作を経て、完成した第一弾の新型 自動人形(オートマタ) が完成したのである。

それはまさに、人間そっくり、というよりも人間そのものといえるような傑作 自動人形(オートマタ) だった。

工場側は自主規制として、髪の色を、人間には絶対に有り得ない色……『青』にすることを決定した。

名前は出来るだけ短い音節で構成されるように決めた。

第1号 自動人形(オートマタ) は『アン(ANN)』、2号 自動人形(オートマタ) は『ベル(BEL)』、3号 自動人形(オートマタ) は『キャス(CAS)』。

彼女たちは全部で20体、『ティム(TIM)』まで作られる。

18番目の 自動人形(オートマタ) の名は『ロル(ROL)』と名付けられた。

「お前の名前は『ロル』としよう」

「はい、私の名前は『ロル』です。よろしくお願いいたします」

ロルを買ったのは若い学者だった。

彼は、研究の助手として、新型 自動人形(オートマタ) に期待したのである。

ロルは期待に応えて良く働いた。

「ご主人様、そろそろお昼です。切りのよいところで一旦お休み下さい」

「ご主人様、新しい研究素材の整理が終わりました」

「ご主人様、あまり根を詰められるとお身体に障ります。今日の所はもうお休み下さい」

学者もロルを可愛がり、大事にした。

「うむ、ありがとう、ロル」

だが、悲劇は突然起こった。

いつもなら朝から賑やかになる研究室が、その日に限って静かなままなのである。

訝しんだ隣人が様子を見に行くと。

「う、うわっ! いったいこれは?」

四肢を引きちぎられ、ばらばらになったロルを前に、呆然と膝を付き、項垂れる学者の姿があったのである。

ロルを破壊した犯人はついに捕まらなかった。

学者は、ロルを製造した工場を訪れた、が、そこでも悲劇は起こっていた。工場の技術責任者が殺害されていたのである。

とはいえ、製造責任者は無事だったので、何とかロルを修理してもらうことが出来、これを機に学者は地方へと転居していったのである。

それは英断だった。

この後、ロルと同じ青髪の 自動人形(オートマタ) が破壊される事件が相次いだ。また、これより先に、アドリアナが遺した 自動人形(オートマタ) の 設計基(テンプレート) を発見した 魔法工作士(マギクラフトマン) までが殺害される事件もあったのだが、関連性は謎のままである。

転居した先で、ロルと学者は静かに暮らした。

そして年老いて学者が息を引き取るまで、ロルは甲斐甲斐しく仕えていたという。

その後、主人がいなくなったロルは、当時の慣習により国に引き取られ、若干の整備をされた後、待機状態に入った。

折から、『魔導大戦』が勃発。

謎の破壊事件を免れ、残っていた 自動人形(オートマタ) の大半が駆り出された。

その主な目的は『兵士の慰問』である。

『夜の相手』が出来るよう改造を施された 自動人形(オートマタ) が多数あった中、ロルは、辛うじてそうした改造を免れた。

辺境の砦でなく、最終防衛線と目された砦に配備されたのである。

建造中にも関わらず配備されたロルは、食事の用意、掃除、洗濯などの日常のサポートに留まらず、資材の運搬などの雑用までこなした。

魔導大戦が苛烈になり、どこも人手不足になったからである。

戦時中のため、貴重な 自動人形(オートマタ) として、砦の魔導頭脳とも 魔素接続(リンケージ) を行い、非常時には魔導頭脳が命令を出すことも出来るようになった。

そして『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』。

砦と共に、ロルは動作を停止した。

* * *

「……」

ロルは再起動した。

その基本命令の一つは、目覚めたときに目の前にいる人間が主人である、というもの。

『アナタガゴシュジンサマデスカ。ワタシハ ろる トモウシマス』

今度の主人は技術者のようだった。ロルは、その能力を生かし、サポートできるはず……だった。

『ゴシュジンサマ、ナンナリトオモウシツケクダサイ』

だが。

「さっさとしろ、この愚図め!」

『モウシワケモゴザイマセン』

300年という歳月は、ロルの身体を蝕んでいた。そしてロルの新しい主人には修理することができなかったのである。

『オチャガハイリマシタ』

そのため、ロルの動作はかなりぎこちない。

指も満足に動かないし、歩行もおぼつかない。

お茶を入れるための知識はあっても、お湯の温度を知るためのセンサーが劣化しており、正確に温度を知ることができない。

そのため、

「ぬるい!」

『モウシワケモゴザイマセン』

今度の主人は苛立ち、お茶をカップごとロルにぶつけることが多かった。それでもロルは逆らわず、ひたすら仕え続けたのである。

思い通りに砦を修理することができずに悶々とする主人に、砦の司令官補佐用 自動人形(オートマタ) のことを教えたのである。

『ソノオクニ ホサヨウノ オートマタガ アルハズデス』

これにより、砦の整備が捗った。

補佐用 自動人形(オートマタ) も修理用ゴーレムにより整備される。が、修理用素材の不足は如何ともし難く、優先的に砦内施設の修理に使われたため、ロルの修理は後回しにされた。

それでもロルは、不満一つ言わず、主人に仕えた。

補佐用 自動人形(オートマタ) はまた、魔導頭脳のことを示唆する。

このことにより、彼女たちに転機が訪れた。

魔導頭脳が目覚めた数日後のこと。とある事件が切っ掛けとなり、魔導頭脳から砦内の人間を気絶させろという命令が出されたのである。

人間を、より大きな脅威から守るためになら、傷付けない方法で攻撃することを、『頭脳』が許可したのである。

が、ロルの主人は、既に深い眠りに落ちていたため、わざわざ気絶させることはなく、『睡眠』の魔法を上掛けし、監禁するに留まったのだった。

そして彼女は再度停止させられた。

停止する直前にロルの 制御核(コントロールコア) をよぎったのは一抹の寂しさであった。

(これで、もう2度と目覚めることはないかもしれません。……そのことに不満はないですが……ああ、もう1度……全身全霊を以てお仕えできるご主人様にお会いしたかったですね)

* * *

「はじめまして、ご主人様」

ロルは内心びっくりしていた。己の口から出た言葉が、あまりにも滑らかだったからだ。そう、まるで、作られたばかりの頃のように。

「調子はどうだ?」

そう尋ねたのは、ロルが主人と認識した青年。有り得ないほどの魔力を持ち、また有り得ないほど精密で、有り得ないほどの力を秘めた 自動人形(オートマタ) がそばに 傅(かしづ) いている。

起き上がった時に、身体の調子も元通り、いや、元通り以上になっていることが感じ取れた。

それでロルは、滑らかな動作で、綺麗なお辞儀をして見せたのである。

「はい、素晴らしい調子です。ありがとうございます」

更に驚いたことに、仁と名乗った主人の背後に、もう1体 自動人形(オートマタ) がいることに気が付いた。

その特徴的な髪色は間違いなく、自分と同時期に作られたものだ。

そして彼女等は、製造時期が後のものほど、自分以前に作られた『姉』についての知識を持っていた。

「……あなたはもしかしたら『アン』では?」

ロルの知識の中にある『アン』の特徴と一致したのだ。そしてそれは正しかった。

「ええ、私はアンですが」

こうして、300年以上の歳月を経て、 自動人形(オートマタ) の姉妹は再び出会ったのだった。

そしてこの日から、ロルにとって幸せな日々が始まったのである。