軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-35 光の春

「さて、『太白』だが」

青髪の 自動人形(オートマタ) を整備し終えた仁は、この魔導頭脳の扱いを考えた。

万が一のことを考え、『太白』の持つ情報は老君がコピーし、管理・保存している。と同時に、現在進行形でバックアップも取れるようになっている。

ゆえに、どこに配備しても十分にその役目を果たせるだろう、と仁も老君も考えていた。

「そうだな、前に老君が言っていたように崑崙島を管轄してもらおうかと思う」

『やはりそれがいいですね』

老君も賛成する。

ここ蓬莱島にあって、遙か300キロメートルほど西の海上にある崑崙島まで管理している老君。その処理能力上、まったく問題は無いのだが、やはり現地にいるというのは強みがある。

《『崑崙島』ですか、それはいったい?》

『今、教えましょう』

老君は、太白と『 魔素接続(リンケージ) 』を行い、必要な知識を与えた。所用時間、約5秒。

《……ありがとうございます。理解しました。なるほど、崑崙島。この管理を任せていただけると?》

『そういうことです。対処しきれないときは私がサポートします』

《精一杯務めます》

こうして、『太白』は崑崙島を統括することになった。

* * *

設置場所は島の中央に聳える山、『崑崙山』の山頂……ではなく、地下。

ちょうどそのあたりに、小規模だがアダマンタイトの鉱脈があって、掘り出した直後だったのである。

「お誂え向きの大きさだな」

幅40メートル、奥行き60メートル、高さ15メートルほどの空洞がぽっかりと空いていた。

「しかも、周囲は低品質のアダマンタイト鉱石か、強度的にも十分だ」

アダマンタイトの鉱石は重さ、硬度共に、鋼鉄以上。このままでも地下シェルターとして使えそうな強度の空洞である。

そこに『 硬化(ハードニング) 』と『 強靱化(タフン) 』を掛け、内張を施せば完了。

作業を行ったのはもちろん 職人(スミス) 部隊。

いずれ崑崙島専属の 職人(スミス) 部隊も用意する予定だ。

《 御主人様(マイロード) 、ありがとうございます。素晴らしい設置環境です》

設置とは、単にそこに置くことではない。

今回の場合、周囲を観察する『 魔導監視眼(マジックアイ) 』、音を拾う『 魔導傍聴耳(マジックイヤー) 』を各所に設置し、更には防衛のための『 麻痺(パラライズ) 』を放つ 魔導機(マギマシン) 。

仁はここで、『 衝撃(ショック) 』に比べ、対象の苦痛が少ない『 麻痺(パラライズ) 』を標準とした。

そして『 障壁(バリア) 』を設置することで第1段階は終了としたのである。

「あとは少しずつ充実させて行こう」

仁の言葉に『太白』は礼を述べた。

《ありがとうございます。つきましては、『レファ』を補佐に付けていただけないでしょうか》

「そうだな、それもいいだろう」

老君が操る移動用端末『老子』に相当するものはまだないので、その申し出はすぐに承認された。

もう一体、『ロル』の方は、アンと共に当分蓬莱島勤務だ。

「よし、これで崑崙島の施設をもう少しだけ充実させれば、『崑崙君』としての体裁もとれるだろう」

「ジン兄、ここで『世界会議』を開催したいの?」

隣にやって来たエルザが問う。

「ああ、いずれはな。でもすぐの話じゃない」

「そう」

「あとは老君と太白に任せてみよう」

「なら、ジン兄は?」

「地下の問題をはっきりさせるさ。そのあとは……」

「……宇宙?」

仁の言葉を先取りして口にするエルザ。だが、仁は首を横に振った。

「そっちはまだテスト段階だ。だから……」

「だから?」

「ミツホへ行ってみたいな。エルザと一緒に」

「ミツホ……」

かつて、仁と同郷かもしれない『 賢者(マグス) 』がいたというミツホ。

そこを訪問したら、何か新しい発見があるかもしれない、と仁は思っていた。

「馬車で?」

「馬車で」

「……」

「エルザ?」

馬車で行く、と言ったら、何やら考え始め、黙り込んでしまったエルザ。仁がそんな彼女を訝しんでいると。

「馬車でなく、自動車作ったら?」

「え?」

思い掛けないエルザの言葉だった。

「舗装路が多いらしいし」

「確かにな」

自転車が普及しているところから見ても、自動車が活躍する場面は多そうだ。

「いいのか?」

その問いにエルザは顔を伏せた。やはり自分は口うるさい女と思われているのだろうか、と。

「……いいも悪いも、ジン兄が作りたいんじゃないかと思って」

「う、うん」

「だから私は、ただ注意してるだけ。いざという時に足りなくならなければ、それでいい。ジン兄なら素材に戻すことだってできるだろうし」

「そうか、ありがとう、エルザ」

「ん」

ようやく、エルザは肩の荷が下りた気がした。

ずっとずっと、喉に小骨がひっかかったように、気になっていたのである。

あの日、仁はエルザの気持ちを察して抱きしめてくれたが、それでも彼女は、言葉にする機会を待ち望んでいたのだから。

あまりにも仁が素材を湯水のごとく使うのが気になって、それを注意するつもりが。

彼の反応が意外で、それがちょっと面白くて。甘えるように、じゃれるように、ついつい調子に乗って。

それが、危険な遊戯と紙一重だと気付きもしないで。

(私の役目は、ブレーキであって、ストッパーじゃない。そして、私は部外者じゃない。ジン兄の、パートナー)

そんな思考をしたエルザは人知れず赤面した。

「……自動車か……」

大型のものなら、以前『トータス』というウニモグもどきのキャンピングカーを作っていた。

だが、今度はせいぜい『SUV』、すなわち『スポーツ・ユーティリティ・ビークル』程度のものにするつもりだ。

「ジン兄、楽しそう」

考え始めた仁の横顔を見ながら、エルザが呟いた。

「ま、まあ、まずはアルシェルの件と地下の 人造人間(ホムンクルス) 。そっちへの対応だな」

「うん、魔族領へ、行くの?」

「ああ、そうなるだろうな。併せて、あっちにも『 転移門(ワープゲート) 』を設置したいし。それに連絡用に 魔素通信機(マナカム) を」

勝手に行き来されては困るが、無いと不便でもある。また、何かあったときの連絡手段も欲しい。

「ん、わかる」

「じゃあ、そっちの計画を立てるか」

「そういたしますとお父さま、こちらの家でなさいますか?」

計画の立案をどこで行うか、礼子が尋ねてきた。

「うーんそうだな。一度、蓬莱島へ戻るか」

「はい、わかりました」

「『太白』、それじゃあこれからよろしく頼む」

《はい、 御主人様(マイロード) 。お任せください》

こうして、仁と崑崙島は新たなスタートを切った。

世界情勢が落ち着くまであと少し。

季節は春3月、長い冬が終わり、光の春が訪れる頃のことである。