軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-34 アンの姉妹

クロゥ砦跡にはめぼしいものは残っていなかった。

それは、『頭脳』が自壊命令を出したため、と考えられている。

唯一の朗報は、オランジュが貯め込んだ保存食料であった。

これは、オランジュが領地に貯め込んだ食糧と共に国が没収。近日中にフランツ国民に還元されるだろう。

これらの顛末は、 魔素通話機(マナフォン) によって、即日各国へと伝えられたのである。

「……まったくもって、大きな損失だ」

「人間同士が争うことに、こんな意外な損失があるとは」

「考えさせられる出来事ですね」

「いずれにせよ、これで少しは大陸が静かになるな」

「もっと自らを高める努力をしていくべき、ということか」

連絡を受けた各国の反応はさまざまだが、共通していることは同族同士での争いが不毛だという再認識、であろうか。

一方、『国際指名手配犯』とでもいうべきルフォール・ド・オランジュは、新生フランツ王国において断罪された。

彼は最後の最後まで喚き叫んでいたという、その様子も含めて、処刑の詳細が各国に伝えられたのである。

その他の者たち……ダジュール・ハーヴェイは終身刑。ただし、その手腕を見込まれて、軟禁し、監視状態でいろいろな魔導具を開発させることになった。

「まあやりたいことをやらせておけば、害にはならない男だから……」

とは、一応面識のあったチハラッド・サウトの言である。

オランジュの腹心、ボッカー・オーヴの方は本人の希望もあり、主と共に処刑された。

「あんな者にも忠臣はいるのだな……」

と、処刑に立ち会った新国王は複雑な顔で呟いたという。

「……ようやく、ここからが我が国の始まりだな」

新国王、ロターロ・ド・ラファイエットは小さく溜め息をつくと、その顔を上げ、窓の外に広がる青空を見つめた。

* * *

蓬莱島は何かと忙しかった。

魔導頭脳『太白』の整備を終えた仁は、青髪の 自動人形(オートマタ) 2体の修理に手をつけた。助手は礼子と、珍しくアン。エルザは見学に回っている。

「……なんて杜撰な修理なんだ。いくら修理用の素材が無いからといっても限度ってものがあるぞ」

仁の目から見たら、ダジュール・ハーヴェイやボッカー・オーヴらの修理は杜撰そのものであった。

もう1つ、この2体は修理用ゴーレムに委ねなかった、という理由もある。とはいえ、修理用ゴーレムならもっとましな修理ができたかというと疑問が残るが。

「アンの時よりは少しましだな。保存環境の違いだろう」

「……そうかもしれませんね」

心なしかアンの表情が暗い。

「骨格の腐食は少ない。これも環境の差なのかな?」

仁の目は、内部の構造に、とある特徴を 見出(みいだ) した。

「こっちの 自動人形(オートマタ) はアンそっくりだ。そっちは少し違う箇所があるけど」

その言葉にアンが反応した。

「やっぱりそうなんですね」

「アン、気付いていたのか?」

「はい、ごしゅじんさま。この 自動人形(オートマタ) は、わたくしめにごく近い製造ロットです」

仁からの知識も得ているので『製造ロット』などという言葉を口にしたアンだが、この世界にそういう概念はまだ存在しない。

「なるほどなあ、要は本当の意味での『姉妹』ということになるな」

「はい」

アンがそんなことを言ったので、仁はまずこちらから終わらせることにした。

「礼子、クロムとバナジウムを頼む」

「はい、お父さま」

骨格の鋼鉄にクロム、バナジウムなどの元素を添加し、『 合金化(アロイング) 』でクロムバナジウム鋼とする。

添加した分、ベースになる鋼は若干分離して、体積が変わらないようにするのも忘れない。

「ジン兄、今回の特殊鋼? はどういう性質があるの?」

助手でなく、見学に徹しているエルザからの質問が来た。

「バナジウムは硬度や耐磨耗性、耐食性、それに靭性を増すんだ」

簡単に説明する仁。仁とて、金属原子がどう働いてそうなるかまでは知らないので仕方がない。そうなることを知っているだけだ。

「筋肉組織はもうぼろぼろだな。素材が無くて直せなかったんだろう」

「ジン兄、何か必要だったら持ってくる、けど」

「ああ、それなら標準の 魔法繊維(マジカルファイバー) を頼む」

「ん、了解」

同時に、アンには皮膚に使用するための魔獣の革を用意してもらった。

「あとは……ああ、 魔素変換器(エーテルコンバーター) の再調整……いや、交換した方が早いな」

ダジュール・ハーヴェイには不可能だったことも、仁なら朝飯前である。

再調整でなく交換なのは、3分の1という 自由魔力素(エーテル) 濃度の差は、調整くらいでは追いつかないほど大きいのだ。

「逆なら問題ないのにな」

逆に、低い 自由魔力素(エーテル) 濃度用に調整された 魔素変換器(エーテルコンバーター) は高濃度でも問題なく使用できるのである。

「礼子、 制御核(コントロールコア) 用の 魔結晶(マギクリスタル) を頼む」

「はい、すぐに用意します」

アンの時もそうだったが、 制御核(コントロールコア) 用の 魔結晶(マギクリスタル) の劣化は無視できない。

貴重な過去の知識をみすみす失うわけにはいかないのである。

「『 知識転写(トランスインフォ) 』」

加えて、こうして 制御核(コントロールコア) を作り直すことで、文字通り仁が『 製作主(クリエイター) 』として認識されることになるのだ。

その他にも、髪や目、発声機構を交換したり、傷んだ服を交換したり、と、青髪の 自動人形(オートマタ) の修理は完了した。

当然、『隷属書き換え魔法』対策のシールドもしている。

「ありがとう。勉強になった」

エルザに見せるため、ゆっくり作業を行った仁である。本気でやればこの5倍くらいの作業速度だろうか。

「よし、『起動』」

「……」

青髪の 自動人形(オートマタ) が起き上がった。万が一の事を考え、礼子は仁を守るようにその斜め前へと移動した。

「はじめまして、ご主人様」

自動人形(オートマタ) が挨拶をした。

「調子はどうだ?」

仁の質問に、 自動人形(オートマタ) は綺麗なお辞儀をして見せた。

「はい、素晴らしい調子です。ありがとうございます」

「お前の名前は?」

「ロルといいます。これからよろしくお願い致します」

「うん、頼むぞ」

その時ロルは、仁の背後にいる 自動人形(オートマタ) に気が付いた。

「……あなたはもしかしたら『アン』では?」

この質問にはアンだけでなく仁もエルザも、礼子も驚いた。量産された 自動人形(オートマタ) 同士が知り合いである可能性は低いと思っていたからだ。

「ええ、私はアンですが」

「やっぱり。私を覚えてませんか?」

「はい、残念ながら。……実は、私の 制御核(コントロールコア) は劣化が酷かったため、一部の記憶が欠損しているのです」

「まあ、そうだったのですか」

そんな、姉妹ともいえる2体の会話を聞いていた仁は、粋な提案をする。

「アンもロルも、ここはいいから、しばらく向こうで話をしておいで」

「ごしゅじんさま、よろしいのですか?」

「ああ、いいとも。そうした口頭での情報交換も有益だろうしな」

これは、建前としてそう言っておかないと遠慮してしまうだろう、との判断からだ。

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

仁に一礼し、2体は工房の隅へと移動した。

仁はといえば、もう1体の 自動人形(オートマタ) に取りかかることにした。

今度はエルザと礼子が助手だ。

エルザも、一度見ていた工程なので戸惑うことも少なく、ロルの時よりも短い時間で修理は完了したのである。

「『起動』」

「はい、ご主人様」

こちらの 自動人形(オートマタ) はその名をレファと言った。

「もしかして、と思うが、『ティア』という 自動人形(オートマタ) に覚えはあるか?」

ふと思いついた仁が聞いてみると、思った通りの答えが返ってきた。

「はい、私と同時期に作られた 自動人形(オートマタ) です」

「そうか、やっぱりな」

ティアというのは、クライン王国の第3王女であるリースヒェンの乳母として仕えている 自動人形(オートマタ) で、かつて仁が完全修理したのである。

そのティアと、レファの構造がそっくりだったため、仁はもしかして、と思ったのである。

「……名前の付け方にも何か理由がある?」

エルザが思いつきを口にした。

「はい。私どもは、作られた時期によって、名前の傾向を合わせた、と聞いております」

「アンとロル、ティアとレファ。……なんとなく、わかる」

アン(ANN)、ロル(ROL)。それにティア(TEAR)、レファ(REFA)。

ロットごとに文字数を変えたのかもしれない、と想像したエルザの勘が当たったのである。

「ロルもレファもアンの姉妹になるわけだ」

感慨深そうに仁が呟いた。それを聞きつけたレファの反応は。

「アン、とは?」

「ああ、向こうでロルと話をしているよ。レファも参加してくるといい」

「はい、ありがとうございます」

こうして、仁の下には魔導大戦時の貴重な 自動人形(オートマタ) 3体が集ったのである。