軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-19 人造人間の造り方

『 人造人間(ホムンクルス) 』を作っている部屋の様子を一通り観察した後、 忍弐(しのびに) はそれ以上の無理をせず、転送装置でその場を後にした。

転移した先は地表である。そこには、回収用の『ファルコン5』が待っており、先に脱出した 忍壱(しのびいち) と共に、2体は蓬莱島へと帰還したのである。

「ふうん、昨夜はそんな事になっていたのか」

10日の朝一番で、老君は仁に報告していた。

一番の関心事は『アルシェル』をモデルにしたと思われる 人造人間(ホムンクルス) である。

「もしかするとアルシェル本人もその地下施設にいる可能性もあるな」

『はい、 御主人様(マイロード) 。その可能性は高いと思われます』

自由魔力素(エーテル) が高いという意味でも居心地は良いだろうと思われた。

「それと、700672号に似ているという 自動人形(オートマタ) か……」

『いえ、正確には雰囲気が似ている、というだけです。そっくりということではありません。型番はおそらく違います』

「とにかく、エルラド鉱山の地下にも『 始祖(オリジン) 』の施設があったということだな」

『はい、そうなりますね』

これは大きな発見である。同時に、仁だけでは判断がつかないことも多々ある。

そこで仁は、700672号に話を聞きに行くことにした。

「エルザはどうする?」

仁と共に、無言で報告を聞いていたエルザに尋ねると、

「今回はジン兄だけで行ってきて。私はハンナちゃんのそばに居てあげることにする」

との返事。仁はその申し出をありがたく受けることにした。

「それじゃあ頼むとするか」

「ん、気を付けて行ってきて」

というわけで、仁は礼子を連れ、700672号の下へと転移したのである。

「おおジン殿か、よく来られた」

700672号はいつもと変わらぬ態度で仁を迎えた。

仁も、恒例になっている手土産、蓬莱島特製ペルシカジュースを手渡した。

「いつも済まぬな。それで、今日は何を聞きたいのだね?」

「ええ、実は……」

余計な会話抜きに、仁は今回発見された施設とそれに関する情報を余さず伝えた。

足りない点は礼子が補ってくれる。

「ふむ、そんなところにも主人たちの遺した施設が、な」

話を聞いた700672号は、感慨深そうに目を閉じ、しばし考え込んだ後、口を開いた。

「順を追って話していこう。まず、その施設が吾の主人と同じ人々が作ったものであることに間違いはなさそうだ」

内部描写を聞いて、すぐにわかった、と言う。

「次に、その、吾に似た 自動人形(オートマタ) だが、推測の一つが当たっていると思う」

何らかの理由で、元の身体を維持できなくなり、 自動人形(オートマタ) に意識を移したのだろうというのだ。

「その者の立場になって考えてみた。吾も、ジン殿に会うまでは、この身体が衰弱し、維持できなくなりかかっていた。それならいっそ、疑似生物であるこの身体を捨てて、完全な作りものである 自動人形(オートマタ) に意識を移そうと考えても不思議ではない。 自動人形(オートマタ) の身体なら、整備するものさえいれば、半永久的に存在し続けられるのだからな」

同じ従者 人造人間(ホムンクルス) である700672号だからこそ、その未知の従者 人造人間(ホムンクルス) の考えが理解できる、と言った。

「とはいえ、吾は主人から与えられたこの身体を捨てる気にはなれないがな。そのあたりは個体差の範囲だろう」

「なるほど、そうなりますか」

仁は頷いた。老君の仮説の一つが裏付けられたのである。

「そして、そのアルシェルを模した 人造人間(ホムンクルス) が作られていたという話だがな」

「はい」

「可能性の一つとしてだが、その従者は、 自動人形(オートマタ) ではなく、そっちの身体に意識を移すことを検討していたのではないかと思われる」

「……え……?」

アルシェルは少女である。外見は8歳前後、ハンナより幼く見える。そんな身体に意識を移す、ということを仁は想像できなかったのだ。

700672号にそう言うと、彼は笑った。

「はは、ジン殿にはそう感じられるか。だが、吾や吾の同朋に、本来の意味での性別はない。であるから、アルシェル……ルージュの身体に意識を移すことに抵抗はない」

「そ、そうですか……」

仁には到底理解出来る話ではなかった。

「吾らの存在意義は主人の役に立つことだ。その主人がいなくなったならば、主人の存在した証を守ること、が第2の存在意義となる」

そのためには手段を選ばない者もいるだろう、と700672号は締めくくった。

「吾とは少しその点において考え方が違うがな。吾よりも古い従者かもしれぬな」

「あの、アルシェルの姿であることに何か利点はあるのでしょうか?」

700672号の話を聞く限り、意識を移すために 人造人間(ホムンクルス) を作るなら、己と同じ姿にすれば良さそうなものだ、と仁は思ったのである。

「ふむ、なるほど。従者の作り方を知らないが故の質問だな」

700672号は一つ大きく頷くと、再度説明を開始したのであった。

「 人造人間(ホムンクルス) を作る際に、必ず必要になるものが2つある。1つは精神触媒だ」

そう言って700672号は指を1本立てた。

「そしてもう1つは……そうだな、『設計図』と言えばいいか。要するにモデルとなる遺伝子情報だ」

人造人間(ホムンクルス) も疑似、人工的であるとはいえ、生物である。それ故に回復魔法や治癒魔法が効果を発揮する。

「ジン殿ではまだ理解しきれない部分もあるだろうし、何より人造生命に興味はなさそうだから説明は省くが、身体は人間と同じ構成になるのだよ」

「はあ……」

話を聞き、仁はクローン技術を思い出していた。

要は、クローンで身体をつくり、精神触媒で魂を入れる、そんなイメージでいいようだ。

「その際、元になる身体の性能が高いほど、出来上がる 人造人間(ホムンクルス) の身体能力も高くなる」

それは十分に理解できる話だった。

「で、おそらく、その従者のいる施設には、もう従者を作り出せるような遺伝子情報が残っていなかったのだろう。事実、ここにも残っていないからな」

「ということは……」

「うむ。魔族……『 堕ちた者たち(フォールナー) 』の子孫は総じて身体能力が高い。身体も頑強だ。ゆえにアルシェルをモデルにすることを選んだのだと思う」

これで疑問の大部分に説明がつけられたことになる。

「そして、推測になるが、そこの地下に魔物が大量にいたと言ったな?」

「あ、はい」

「……その魔物は、精神触媒を集めるために養殖されている可能性がある、と思う」

「あっ」

言われて仁も気が付いた。

かつて、イナド鉱山地下で見つけた精神触媒を。そしてそのイナド鉱山から出て来た大量の 巨大百足(ギガントピーダー) を。

巨大百足(ギガントピーダー) では増えすぎると手に負えないが、あの地下にいたのはギガントーアヴルム。

ギガントーアヴルムなら、アルシェルがテイム……手懐けることができたはずだ。

「すると、アルシェルとその従者は……」

「うむ、協力関係にある可能性が高い」

「……」

仁は悩んだ。アルシェルは、グロリアと遭遇したときには狂気を孕んでいたようにも見受けられ、ギガントーアヴルムに人間を襲わせようとしていた。

今はどうなのであろうか。

「……ベリアルスに教えた方がいいかもしれないな」

いろいろ考えた結果、アルシェルを心配して捜し回っている兄のベリアルスに教え、彼と共にその施設を訪れることを考えた方がいいのではないか、という結論に達したのである。

「ふむ、それはいい考えかもしれぬな」

700672号に話すと、彼も賛成してくれた。

「だが、そこが主人の使っていた施設だとすると、おいそれとは行くことはできぬだろう。敵対するとは言わぬが、その従者も簡単には心を開かぬだろうしな」

「では、どうすれば……」

「慌てるな。幾つか方法は考えられる」

それは、と詰め寄りたくなる気持ちを抑え、仁は700672号の次の言葉を待った。

「これを持っていくといい」

その700672号は棚を探り、一つのクリスタルキューブを仁に手渡した。キューブは部屋の明かりを受け、緑色の光を放った。

「……これは……」

「うん? 『ミティアナイト』を見たことがあるのか」

「『ミティアナイト』、ですか? エルラドライトではなく?」

「貴殿らはそう呼んでいるのか。ふむ、話にあったエルラド鉱山付近で採れるゆえの命名だな。……で、この石の性質を知っているのかな?」

試すような目で仁を見つめる700672号。

エルラドライトの命名に関しては言いたいこともあったが、それよりも仁は質問に答えることを優先する。

「ええ。魔法の増幅効果、ですね?」

エルラドライト=ミティアナイトは、電気系の例えで言うならばキャパシタ(コンデンサ)であろうか。

魔力( 魔力素(マナ) )を大量に貯め込み、それを一気に放出させることで、術者の能力以上の魔法を発生することができるのだ。

700672号は頷きながら笑った。

「半分だけ、正解だ」