作品タイトル不明
24-20 認証
「半分……ですか」
「その通り。魔法を増幅するというのは副次効果に過ぎない。本来の用途は『圧縮』なのだ」
「圧縮?」
「然り。通常の 魔結晶(マギクリスタル) に比べ、100倍以上の圧縮率が得られるのだ」
仁は考えて見た。エルラドライトは、術者の 魔力素(マナ) を取り込み、一旦蓄えてから魔法に変換する、という働きをしていると考えられる。
その一旦蓄える、という過程も一瞬で、タイムラグを感じることはない。
これが 自由魔力素(エーテル) でも起こりえて、しかも放出させずにどんどん圧縮できる、ということは……。
「物質生成、ですか?」
「然り。よくぞその結論に辿り着いたな。そう、このミティアナイトを使えば、新たな元素を作り出せる可能性があるのだ。……と、主人は考えていたらしい」
「らしい?」
「残念ながら成功しなかったのだよ」
卓越した知識と技術を持つ『 始祖(オリジン) 』にもできなかったという。
「 自由魔力素(エーテル) をどんどん注ぎ込み、内部で圧縮していったらどうなるか。結果は……崩壊だ。ミティアナイトが砕けてしまう」
「そうなんですか……」
残念そうな仁。
仁も、別のアプローチであるが、水素やヘリウムくらいの軽い元素はなんとか 自由魔力素(エーテル) から合成することができていたのだが、それ以上の重い元素となるとまだ成功していなかった。
「まあ、待ちなさい。話はまだ終わっておらん。……その過程で、『魔力を蓄えておける』という機能に着目したのが、これを認証に使うという発想なのだ」
「えっ」
先日、セルロア王国の『 鍵璽(けんじ) 』を解析した際、その機能が備わっていると判断したのだが、あの日の調査では最終結論にまで達していなかったのである。
つまり、どうして 鍵璽(けんじ) を使うと、対象となる魔導具や 魔導機(マギマシン) を特定の人間が起動できるのか、説明できなかったのである。
仁はそれきり、解析から離れ、セルロア王国を後にしたので、その後の進展は知らなかったが、おそらく解析は終わっていないだろうと思われた。
「認証……ですか?」
魔力素(マナ) などの魔力を蓄えておけることとどんな関係があるのか、と言いかけて、はっと気づく仁。
「……これは、認証の『鍵』になるというよりも、これ自体が認証装置なんですね?」
700672号はそれを聞いて破顔した。
「そのとおり。さすがだな。僅かなヒントで正解に辿り着くその洞察力。どういう原理なのか説明してみてくれるかな?」
「はい。この『ミティアナイト』に、必要な情報を記録させる。そしてその情報と外部からの入力を照らし合わせ、条件を満たしたとき、鍵としての機能が発動する」
「うむ、概ねそんなところだ」
「やっぱり」
仁は、そうなるとセルロア王国の『 鍵璽(けんじ) 』も、それ自体が持ち主を選ぶことに気が付いた。
たとえオランジュが 鍵璽(けんじ) を使おうとしても駄目だったのだろう。
「魔導士が持つ魔力には、特徴をよく表す部分があってな。わかっている限りでは、3つの特徴的なピークを持っていて……」
700672号が説明をしてくれる。指紋や声紋と同様、同じ血筋に発現する特徴だと言うことだ。
もしかすると、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) である巨大ゴーレムも、そういった波形を検出するのではないかと仁は考えた。
(……俺のやり方はどうなんだろう?)
仁のやり方、というのは文字通り『重ね合わせ』てみて、90パーセント以上一致した場合にOKを出す、という流れである。
事実上、仁以外の魔力波形は弾かれてしまう。
(もっとも、略式にするメリットもないしな……)
仁と仁が作ったゴーレムや 自動人形(オートマタ) は、仁とまったく同じ魔力波形を持つ。
また、仁の仲間、『仁ファミリー』も人数が限られているため、今のやり方で特に問題は無いと思われた。
そして、もう1つ。
仁は、エルラドライトを所有しないので( 統一党(ユニファイラー) 戦で手に入れた物は除く)、波形を書き込むのは 魔結晶(マギクリスタル) である。
こちらは『 書き込み(ライトイン) 』という手間がかかり、工学魔法を使えなければ作れない。
その点、ミティアナイトの場合は、魔力を流すだけで使えるということが利点と言えるだろう。
(なるほど、 鍵璽(けんじ) の場合、持ち主が変わった場合は、改めて上書きすることも可能なんだな)
700672号の説明によって、セルロア王国の 鍵璽(けんじ) にまつわる疑問が全て解決した仁であった。
そして700672号の言葉は続く。
「……つまり、このクリスタルキューブは、吾の主人が誰か、を証明するものであるのだ」
「それって、つまり」
「そうだ。同じ主人たち、つまり『 始祖(オリジン) 』に仕える者との繋がりを証明できる」
これを持っていけば、敵対行動をとられることはないだろう、というのが700672号の心遣いであった。
「ありがとうございます。お借りします」
仁は礼を言って、そのクリスタルキューブを受け取った。
そして良く良く見つめてみる。
「しかし、『ミティアナイト』ですか、不思議な石ですね」
「うむ。この鉱物は、元々はこのアルスにあるものではない。いわゆる隕石だ」
「隕石……ですか?」
意外な事実が語られた。
「太古の昔に落下したらしい。ゆえに産地が限られているのだ」
「ははあ……」
それならば、産地がひどく限定的なのも頷ける、と仁は思った。
* * *
蓬莱島に戻ってきた仁は、今度の予定を考えて見ることにした。
時刻は昼。エルザも戻って来ていて、昼の仕度を調えてくれた。
今日のお昼はざるそば。タツミ湾で養殖した海苔に、最近栽培を始めたばかりの、『辛味大根もどき』が添えられている。これは、栽培物はまだ使えないので天然モノだ。
「うん、ゆで加減もちょうどいいな」
つるつる、とそばを啜りながら、仁はエルザの調理を褒めた。
「ん、やっと加減がわかるようになった」
そばのゆで加減は難しい。ちょっと油断するとすぐにふにゃふにゃになってしまう。
とあるそば屋では、『大盛りは出さない、沢山食べたければその都度新しく注文してくれ』という。理由は、『食べている間にもそばが伸び、風味がなくなる』からだそうだ。
閑話休題。
そば湯で締めた仁とエルザは、食後のそば茶を飲みながら、団欒の時間にした。
エルザはハンナと作った川魚の燻製の話を、そして仁は700672号から聞いたエルラドライトの話を。
「……そうか、楽しそうだな」
「うん、楽しかった。そっちも、いろいろとためになる話を聞いてきたみたい」
そしてそのまま、自然な流れで今度の話にシフトしていく。
「やっぱりベリアルスも連れていった方がいいと思ってさ」
「ん、そう思う。その従者らしい相手は預かったクリスタルキューブでなんとかなるとしても、アルシェルの説得は難しいと思う」
「だよな」
「だから、ベリアルスさんを連れていく、ということに賛成」
傀儡(くぐつ) 氏族のベリアルスを連れていくことに対し、エルザと意見は一致した。
「で、ジン兄は行っちゃ駄目」
「おい」
「……危険。駄目」
『 御主人様(マイロード) 、エルザさんの仰るとおりです。相手は、 御主人様(マイロード) の情報もある程度得ているようですし、油断はなりません』
「老君の言うとおりです。今回は、お父さまはお行きにならない方がいいと思います」
「魔族領へ行った時のように」
仁の『 身代わり人形(ダブル) 』を使え、と言っているのだ。
「……わかったよ」
老君、礼子、そしてエルザに説得されて、仁も折れたのである。
『 御主人様(マイロード) には、クロゥ砦の問題もご検討いただきたいと思っておりますし』
と、老君は、ルフォール・ド・オランジュが逃げ込んだクロゥ砦の現況を説明し始めたのであった。