軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-18 手強い相手

『それでは頼みます』

9日深夜、老君は 忍壱(しのびいち) と 忍弐(しのびに) を転送機で送り出した。

ゴーレムにも老君にも昼夜の区別はない。忍び込む先もそうかはわからないが。何せ太陽のない地中深くなのだから。

『とはいえ、生物であるならば、『1日』という単位は必要でしょうし、それを惑星の1日に合わせるというのは合理的ですからね』

時刻は、蓬莱島では日付が変わって10日になっている。エルラド鉱山では9日の午後11時頃だ。

送り込まれた2体は、即座に『 不可視化(インビジブル) 』を展開、姿を消した。

出た先は当然、コマンド2がマーカーを設置した部屋。空き部屋と老君が判断したのは正しかった。

『少なくとも今は使われていない部屋のようですね』

忍壱からの視覚情報を得た老君がそう判断した直後、その視界が真っ暗になった。

『なにごとですか!?』

老君は、周囲を警戒していた忍弐に、忍壱の様子を確認させた。

すると、忍壱がいた筈の場所に、直径1メートルほどの半球状の金属構造物が伏せられているのが見えた。忍弐は即座に天井へと移動、隅に身を潜め、辺りを窺う。

その金属構造物はミスリル銀かそれに類する材質のようで、忍壱は無理をせずにじっとしているようだ。

『……やはり、見られていましたか。で、罠を張って待っていたのですね』

見られたとしても0コンマ何秒という短い時間だったろうが、そんな短時間で何があったかを見抜き、この罠を用意したということ。

『侮れない相手ですね』

老君は、こうなったら、相手の正体を見破る方向でいこう、と考えた。それで、忍壱にはじっとしているよう指示を出す。

同時に忍弐には、できる限り観察を続けるように命じた。

金属の半球を被せた相手は誰か、と良く良く見ると、それは金属の外被を持ったゴーレムのような人型の存在。

ゴーレムだとすれば、かなりの反応速度と、可視光域以外、それも仁のゴーレムと同等の領域を見る目を持っているということになる。

が、天井に張り付いている忍弐には気が付いていないらしいので、視覚以外の探知方法は持たないらしかった。

例えるなら『伏せたお椀の中』の忍壱をどうやって連れ出す気なのか、と忍弐が見ていると、工学魔法『 変形(フォーミング) 』を用いたらしく、中に忍壱を閉じ込めたまま、半球は球に変わったではないか。

『なるほど、参考になりますね』

蓬莱島でのセキュリティにも応用できる、と老君は相手の手段に感心した。

同時に、やはり油断できない敵であるとの認識を新たにする。そして、今回の反省点をチェック。

(『相手を見くびった? ……いや、今の持てる技術ではこれ以上の用心は……では作戦? しかし、情報を急ぎ集める必要もあり……』)

こうした相手に対する対処法といっても特になく、経験は皆無。理論的に詰めていくしかないものだ。

(『相手が、最低でもこちらに匹敵するならば、罠を仕掛けられた時点でアウトですね。ならば、この状況を逆手にとって、相手の情報をできるだけ得るように持っていくしかないでしょう』)

最早『超小型ゴーレム』の存在は知られてしまった。ならば、これ以上の情報を相手に与えないようにしつつ、相手の情報を得るように動く、ということで老君は結論を出した。

その間、球形になった金属罠は謎のゴーレムの手によって運ばれていく。それを10メートルほど離れて忍弐が追跡していた。

通路を進み、突き当たりの部屋のドアを開けてゴーレムは中に入った。扉が閉まり、忍弐はもう中の様子を見ることができなくなる。

『そこでそうしていても時間の無駄です。他の場所を観察してきなさい』

老君はそんな指示を出した。

それに従い、忍弐は通路の途中にあった分岐を進んでみることにした。

できるだけ目立たないよう、床の端を歩いて行く。もちろん『 不可視化(インビジブル) 』状態でだ。

そのまま、忍弐は通路を進んでいった。

* * *

一方、突き当たりの部屋に運び込まれた忍壱は、周囲を覆っていた金属が突然消えたのを感じた。

いや、正確には消えたのではなく、『 変形(フォーミング) 』により球が平面状になったのである。

忍壱は身じろぎもせず、機会を窺っていた。

その身体が突然重くなる。重力魔法だろう。100倍になった体重に、忍壱は身動きすることができなくなってしまったのである。

「ふうむ、このように精密なゴーレムを作ることができる技術者がいるのか」

そんな忍壱を覗き込み、呟きを漏らした者がいる。

広い視野の端で捉えたその姿は、700672号に似たところのある面差し。だが。

( 自動人形(オートマタ) ……?)

生物的ではなく、無生物的であり、一目で 自動人形(オートマタ) であることが窺い知れたのである。

「お前は口がきけるのか?」

との質問が投げ掛けられたが、その意図がつかめず、忍壱は沈黙を守ることとした。

「ふむ、警戒しているのか? それならそれでよかろう。お前を解体し、その 制御核(コントロールコア) から情報を引き出すまでだ」

そんなことになったら、仁や蓬莱島の情報が知られてしまう。躊躇うことなく忍壱は転送装置を使った。

たとえ何Gが掛けられていようと、転送装置には影響が無い。

謎の 自動人形(オートマタ) の目の前で、忍壱は姿を消したのである。

「消えただと!? 転送装置を備えているというのか……。それだけの技術を持っているのは、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』と呼ばれているジン・ニドーくらいのものだろうな」

謎の 自動人形(オートマタ) はそう結論づけたのだった。

* * *

忍弐は、老君から壱が脱出したことを聞いた。

『それを警戒し、次はないかもしれません。 御主人様(マイロード) の情報を知られるのは避けなければなりません。一方で相手の情報はできるだけ多く必要です。もう少しだけ情報収集に努めて下さい。そしてもし捕まり、逃げられなかったら……』

もう1つの防衛機能、『自己破壊』を作動させるように、と老君は念を押したのである。

忍弐は慎重の上にも慎重に、通路を進んでいった。

身長5センチであるから、ゆっくり進めばその進行速度は微々たるものとなる。

とりあえず視覚情報は問題なく老君に送られているので、通路や部屋の構造が700672号と同じ技術系統であることは確実となった。

『ですが、あの姿は 人造人間(ホムンクルス) ではなく 自動人形(オートマタ) でしたね。一体何があったのでしょうか』

蓬莱島の頭脳である老君はその理由を幾つか推測する。

1.外見だけ似せた 自動人形(オートマタ) である。

2.老子やマキナのように、遠隔操作された 自動人形(オートマタ) である。

3.製作者が、人工生物ではなく 自動人形(オートマタ) を好んだ。

4.何らかの理由で、元の身体を維持できなくなり、 自動人形(オートマタ) に意識を転写した。

今のところ老君が立てた仮説は上記4つ。

(『敵対する可能性が小さいというのが救いでしょうか』)

仁や蓬莱島と敵対すべき理由はないから、今のところ緊急性は低いと判断できる。

(『やはり、700672号に確認してもらうことが必要かもしれませんね』)

その時、忍弐が思わぬ画像を送ってきた。

たまたま近くの扉が開き、その部屋の中をのぞき込むことができたのである。

ちょうど1体のゴーレムが出て来たのであった。

(『あれは……アルシェル!?』)

部屋の中にはアルシェルと思われる外見の『何か』が数体確認されたのである。

『その部屋の中へ! 力場発生器(フォースジェネレーター) も使って!』

老君は咄嗟の指示を出す。忍弐は言われたとおりに『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使い、その部屋の中に文字通り飛び込んだ。

(『これは……』)

忍弐の目を通して老君が見たものは、 人造人間(ホムンクルス) の製造工場と言えばいいか。

透明な容器の中に薄青い液体が満たされ、その中に人型の何かが浮いていたのである。

何体かは明らかにアルシェルそっくりの外見をしており、これら全てがアルシェルを模して作られた 人造人間(ホムンクルス) であると老君は判断した。

(『この謎……関連性は何としてでも明らかにしなくてはなりませんね』)

蓬莱島の魔導頭脳、老君は、改めて情報収集のための計画を練るのだった。