軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-17 地下の施設

ハンナと仁が釣りを楽しんでいた同じ日、ちょっとした動きがあった。

それは、老君がじっくりと調査を進めていたエルラド鉱山で、である。

エルラド鉱山の浅い箇所は普通の鉱山であり、鉄・銅・錫・亜鉛・鉛、それに少量のアダマンタイトが採れる。

もう少し深いところからは宝石・魔石・ 魔結晶(マギクリスタル) が産出されていた。

更なる深い場所からは時折エルラドライトが採れるということで、エルラド鉱山と呼ばれたのである。

『ここはペグマタイトではないのですね』

老君は『ミニモグラ』でゆっくりとボーリングを続けながら、地層の情報を集めていた。

ペグマタイトは巨晶花崗岩とも呼ばれ、地中深くでマグマがゆっくりと冷えて固まったもの。その時に融点(凝固点)の違いによりさまざまな鉱物が結晶化するのである。

イナド鉱山や蓬莱島地下などはペグマタイト鉱床に属する。

ここエルラド鉱山はそれとは違う、『スカルン鉱床』であった。

ごく簡単にいうと、地下から上昇してきた花崗岩など高熱高温の深成岩体が、石灰岩や苦灰石といった岩石と化学反応を起こし、岩の中の金属元素が濃集した鉱床である。

『ミニモグラ』がここエルラド鉱山に投入されたのは3月4日。ダリの離宮地下にあった謎の 転移門(ワープゲート) がここの地下に繋がっていることがわかったためである。

浅い部分は既知の鉱山であり、前記のような地質情報を得た後、『ミニモグラ』は更に地中深く潜っていった。

『地表から1000メートル、思ったより温度は高くないですね』

元々の標高が高いため、まだこのあたりでは海抜でいってもプラスであろうが、それでも地温の上昇が緩いことを老君は訝しんでいた。

直径10センチ、長さ30センチの『ミニモグラ』3機は、1日に600メートルずつ掘り進んでいく。

そして、3月6日早朝、『ミニモグラ3』が、地下の空洞を発見したのである。

こういう時のために搭乗している超小型ゴーレム、名付けて『コマンド』。その3号、コマンド3がミニモグラから出て調査に当たった。

『コマンド』は『 忍(しのび) 部隊』と同等の性能を持っているので、仮に人間がいても見つかることなく情報収集が可能なのだ。

そして、1時間ほどかけて空洞を調査したコマンド3からの報告により、その空洞が『カタコンベ』のようだと老君は考えたのであった。

この情報は同日の朝、早速に仁へと伝えられた。

その『カタコンベ』は単なる空洞だったので、『ミニモグラ』は更なる地下を目指したのである。

そして、3月9日の朝。

『ミニモグラからの連絡ですか? ……ふむ、地中に謎の結界、ですか。まさしく『謎』ですね。さて、どうしますか……』

老君にしては珍しく長考した。といっても数秒、であるが。

『進行速度を落とし、より慎重に掘り進めなさい。搭乗している『コマンド』1、2、3は、万一の時には転送装置でミニモグラを捨てて脱出。ミニモグラは自壊させます』

と、調査を最優先した指示を出したのである。

ミニモグラは指示どおり、速度を20分の1に落として掘り進んでいった。

途中、さまざまなデータを老君へと送っていく。

その一つに、驚くべきものがあった。

『ほほう、 自由魔力素(エーテル) 濃度が上がっているようですね』

地上に比べ、 自由魔力素(エーテル) 濃度が1.5倍に上がっていたのである。魔族領ほどではないが、パズデクスト大地峡あたりの 自由魔力素(エーテル) 濃度に近い。

『特異点があるのか、謎の結界によるものか、それとも他に何か理由があるんでしょうかね。いずれにせよ、ますます調べる必要性が高まりましたね』

そして更にミニモグラは地下を掘り進んでいく。深さは地下3000メートルにもなろうとしていた。

と、ミニモグラ2は数センチ先に空間があることを『 音響探査(ソナー) 』によって探知する。

同時に、老君へ報告、指示を仰ぐことにした。

『ふむ、またしても空洞、ですか。それも謎の結界内部に』

いよいよ謎の核心部らしい、と老君は思った。セルロア王国の都市、ダリにあった 転移門(ワープゲート) から密かに送り出した『マーカー』の反応もその付近にある。

老君は自分が行けないことを残念に思いながら、次なる指示を出したのである。

『更に慎重に進みなさい』

そして更に3センチ進んだところで、岩ではなく金属の壁に突き当たったのである。

『金属……明らかに人工のものですね。地下にある人工の空間、ですか』

更に謎が深まった。この謎を解くためには、金属の壁、その向こう側に行ってみなくてはならない。

『いかにミニモグラが小さいといっても、直径10センチ、長さ30センチ。人目につかないはずはないですね』

こんなことなら、ミニモグラにも『 不可視化(インビジブル) 』を搭載すべきだった、と老君は思った。

転送装置を内蔵しているから、『しんかい』経由で蓬莱島に戻すことは可能だが、もう一度同じ場所へ戻るにはそれなりの時間が掛かってしまう。

転送機で送り出す事も不可能だ。老君による制御といえども、ミリ単位の精度は出せないので、寸分同じ場所に送り込むことはできなかった。

『このまま進むしかないでしょうね』

転送方式で掘り進んでいるため、岩屑などが落ちないのが一番の強みである。

ただし、穴が残っては侵入を気取られてしまうので、金属部分だけは蓋状に加工し、再度嵌め込むことにした。

ミニモグラの修理・整備ができるように作られた『コマンド』ゴーレムは、その程度の工学魔法なら使えるのだ。

そして、ついにミニモグラ2は、金属壁の向こう側、空洞内へと進出した。同時に 力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、落下を防ぐ。すぐに穴には蓋をした。

ミニモグラには 魔導監視眼(マジックアイ) も付いており、老君は居ながらにして空洞内の映像を見る事ができた。

『これは……』

そこは、綺麗に調えられた室内であった。既視感がある。

『『天翔る船』によく似ていますね』

かつて魔族領で老君の移動用端末『老子』が潜入した、『 負の人形(ネガドール) 』の基地。

ミニモグラの 魔導監視眼(マジックアイ) から送られてくる映像を見ながら、老君は確信していた。

人影はない。調度も少なく、空き部屋のような感じがした。だが、伝わってくる雰囲気は紛れもない。

『ここは、あそこと同じく、『 始祖(オリジン) 』 所縁(ゆかり) の地なのでしょうね』

少なくとも何らかの関係性はあるはずだと老君は判断した。

『付近の床にマーカーを設置し、すぐに戻りなさい』

『 始祖(オリジン) 』に関係があるとすれば、その技術力は蓬莱島を凌ぐ可能性がある。老君は即時撤退を命じた。

ただし、後で訪れられるよう、マーカーだけは設置することにして。

その指示どおり、搭乗していたコマンド2は、ミニモグラ2から降りると金属製の床の一部に僅かな隙間を見つけ、小さなマーカーを設置した。

そして大急ぎでミニモグラ2へ戻った。というのも、足音が聞こえてきたからである。

コマンド2がミニモグラ2に乗って非常用の転送装置で消える直前、人影が室内に現れた。

『あれは……』

人影を捉えていたのは0コンマ数秒の刹那の時間であったが、老君には十分であった。

『しんかい』に戻ったミニモグラ2は、次いで 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ戻ってきた。

『ご苦労でした、コマンド2』

そう声を掛けながらも、老君は確認した人影について考えていた。

『あれは……間違いなく、700672号の同類でしょうね……』

700672号は、惑星ヘールから『天翔る船』に乗ってこのアルスに移住してきた『 始祖(オリジン) 』が作り出した従者。その正体は『 人造人間(ホムンクルス) 』である。

合成された有機物の肉体を持ち、疑似生命を与えられた人造生物。その知識は『 始祖(オリジン) 』には一歩及ばないものの、この世界に住む人類とは格段の差がある。

はっきり言って、仁以上と考えられた。

『ですが、幾分外見に違和感があったのは、型番が違うから、なのでしょうか……』

こればかりは基礎情報が無さ過ぎて判断がつかない。そこで老君は別角度から再度アプローチすることにした。

マーカーを利用して、『 忍(しのび) 部隊』を送り込むのである。『コマンド』でないのは、その適性の振り分けによる。

『コマンド』は技術的に秀でており、『 忍(しのび) 部隊』は隠密行動性に秀でているのだ。

『ですが、地下3000メートルでは、内蔵されている緊急用の転送装置では心許ないですね』

発見されたり捕らえられたりした時のために、短距離用の転送装置を内蔵しているのであるが、行動の基準となる場所にマーカーを置く必要がある上、距離が50メートル程度と短すぎるのだ。

『最低でも地上に戻れるくらいの移動距離は持たせないと危険ですね』

そこで老君はいよいよ仁に報告し、その判断と技術支援を仰ぐことにしたのである。

* * *

「ふうん、なるほどな」

同日夜、ハンナが眠った後、仁は蓬莱島に戻っていた。エルザもカイナ村である。今、一緒にいるのは礼子だけだ。

「地下の施設か……。700672号は知っているのだろうかな?」

後で聞きに行ってもいいな、と仁は考えている。それよりも今は老君からの要望だ。

「うーん、あの大きさで移動距離を延ばすとしてもなあ」

身長5センチのミニミニサイズであるから、おのずと限界があるのだ。

『 御主人様(マイロード) 、これは使えないでしょうか?』

老君が仁に示したのはエルラドライトの欠片であった。掘り進む過程で見つけたもので、大きいものでも4ミリに満たない。

が、『 忍(しのび) 部隊』に使うには十分であった。エルラドライトで増幅すれば、標準で20倍、最大でおよそ30倍。2個を使えば3000メートルの転移が容易になるということだから。

こうして、エルラドライトを装備された『 忍(しのび) 部隊』、忍壱と弐の2体は、転送機で地下施設へ送り込まれることになったのである。