軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-15 カイナ村は仁の村

カイナ村の施設にリタがカルチャーショックを受けたことはさておき、仁は二堂城ではなく『家』の方へと向かった。

もちろんハンナも一緒である。

仁の私邸はマーサの家の向かいにあるのだから。

「ただいまー、おばあちゃん」

ハンナは一旦、祖母のマーサに帰宅を知らせに家へ。仁とエルザ、礼子、エドガーは仁の家へ。

1階は工房になっており、まずはそちらを覗いてみる仁。

「あー、久しぶり……だけど埃が溜まっていないな」

それについては礼子が推測を述べた。

「お父さま、おそらくマーサさんたちが掃除してくれていたのだと思います」

「ああ、そうか。お礼言わないとな」

そこへ、マーサとミーネがやって来た。

「ジン、お帰り。エルザちゃんもお帰り」

「ジン様、お帰りなさいませ。エルザ、お帰りなさい」

仁とエルザはただいま、と2人に挨拶を返したあと、正式に婚約した旨を報告した。

「そうかい、ジン、エルザちゃん、おめでとう」

「エルザ、おめでとう。ジン様、娘をよろしくお願いいたします」

2人とも祝福してくれた。そこへ、手を洗ったハンナが、何かを持ってやって来た。

「おにーちゃん、エルザおねーちゃん、こんやくおめでとうございます」

ハンナはそう言って、手にしたものを差し出した。

それは蕾が付いたクェリーの枝だった。

「ほんとは花がさいた枝をおくりたかったんだけど、いちばんはやざきのクェリーでもまださいてないの」

とはいえ、薄紅色の蕾は、今にも綻びそうに膨らんでいる。

「ありがとう、ハンナ。クェリーは俺の一番好きな花だよ」

「ありがとう、ハンナちゃん。蕾でも、とってもきれい」

仁とエルザはハンナにお礼を言って枝を受け取った。

エルザは早速その枝を花瓶に挿そうとして、花瓶がないことに気付く。だが、ここは仁の工房。素材は十分にある。

銀のインゴットを手に取り、

「『 変形(フォーミング) 』」

と、工学魔法で花瓶を作り上げるエルザ。

ハンナはにっこりと笑いながらそれを見ていた。

少し早いが3時のお茶の時間とする一同。場所はマーサ宅の食堂である。

「さあ、できましたよ」

「わ、いいにおい」

ハンナが小躍りして喜ぶ。何せ大好物のホットケーキだ。たっぷりとワイリー(野苺)のジャムが掛かっている。

仁はメープルシロップを掛けたもの。エルザも同じ。そしてマーサとミーネはブルール(ブルーベリーもどき)のジャムを掛けた。

「おいしい!」

重曹を少量使い、ふっくらと仕上がったホットケーキは、今やクライン王国でもかなり普及し、それに伴ってカイナ村特産の重曹も売れているそうだ。

重曹は入れすぎると苦みが出てくるので使う量の加減が難しいが、ミーネは既にさじ加減を覚えてしまっていた。

「母さま、おいしい」

「うん、おいしい」

「よかったですわ」

ハンナのみならず、仁もエルザも美味しいと言って食べている。マーサは何も言わないがミーネと顔を見合わせて頷き合っていた。

ほのぼのとした午後のひとときであった。

それから仁は、いなかった間の話を聞きに村長宅へ行くことにした。エルザはミーネと積もる話もあるだろうと、留守番である。

「あ、それじゃああたしもいっしょに行く」

仁と少しでも一緒にいたいらしいハンナ。仁も笑って承知した。

「あのねあのね、おにーちゃんがいないあいだにね、赤ちゃんがまたうまれたの!」

「ことしは雪が少なくてらくだった、ってみんな言ってるよ」

「このまえ、エルメ川にクレスの芽がでていたんだ! もうすぐ春がくるね!」

そんな話を聞きながら、仁はハンナと一緒に村長宅へと向かった。

「おお、ジン、おかえり」

「ジン殿、おかえりなさい」

晴れて夫婦となったギーベックとサリィが出迎えてくれた。

「特に変わったことはないが、3月1日に、ロックとモーリーの子供が生まれたよ。女の子で名前はジェニーだ」

「ああ、それはおめでたいですね」

カイナ村では生活環境が良くなったためか、ここのところベビーラッシュである。

人口の維持には一組の夫婦に最低2人以上の子供がいないとならないのだが、その点では解消しつつある、といったところであった。

「だが隣村は少し厳しいようだな」

「隣、というとトカ村ですよね? 何かあったんですか?」

リシアが領主を務めている村である。まんざら知らない仲でもないので、少し仁は気になった。

「いや、若い者が数名、村を捨てて王都へ出ていった、という話だ」

「ああ、なるほど」

今も昔も、地球でもここアルスでも、若者が都会に憧れるのは一緒なのだろうか、と仁は思い、それがやけに年寄り臭いことに気が付き、苦笑を浮かべる。

仁が表情を変える様子をハンナは見ていたらしい。

「おにーちゃん、おもしろい顔」

と、笑って言ったハンナの言葉に、仁もはっと気が付く。そして誤魔化すようにハンナの頭を撫でたのであった。

その夜もマーサ宅で夕食をご馳走になった。

ゴーレムメイドのサラが手伝い、手際よく料理が並べられていく。

聞くところによると、このサラは、最近少し腰を痛めたマーサの代わりに、村の共同畑に出て働いているとのことだ。

「……言ってくだされば、いいのに」

エルザが心配そうに言う。

「いいんだよ、もうほとんど良くなって、明日あたりからまた畑に出ようと思っていたんだからね」

マーサは笑って言うが、エルザは聞かない。

「それなら尚のこと、診せてください」

「そうかい? 悪いねえ」

食事前なので、寝台に俯せになって貰い、診察を行うことに。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

腰を中心に診察していくエルザ。

「……少し、脊椎が変形し掛かっています。『 快復(ハイルング) 』『 快復(ハイルング) 』」

骨粗鬆症(こつそしょうしょう) になり掛かっており、僅かな圧迫骨折が脊柱に見られたため、骨折を治し、カルシウムの代謝を改善するように治療していくエルザ。

サリィももちろん腕のいい治癒師であるが、経験はともかく、医学的な知識の面ではエルザの方が上である。

(サリィ先生も、ファミリーになって欲しいなあ……)

マーサを治療しているエルザを見ながら、仁はそんなことを考えていた。

その際、夫であるギーベックをどうするか、という葛藤が起きるのだが……。

(これについてはエルザや礼子、老君も交えて相談するか)

と、ひとまずは置いておくことにした。

「ああ、ありがとう、エルザちゃん。凄く楽になったよ」

治療を終え、マーサが笑顔を浮かべながら起き上がった。

「エルザおねーちゃん、おばあちゃんを治してくれて、ありがとう!」

「どういたしまして」

ハンナにもお礼を言われたエルザは少しはにかみながら返事をした。

そして夕食である。

「……でね、今年の麦の出来は良さそうだよ」

「畑も少し広げましたしね。今年から『お米』や『そば』も作ってみよう、ってみんな張り切ってますよ」

「あのね、ロックさんたちがね、ぼくじょうを広げよう、って話をしてたよ!」

いろいろな話を聞かされた仁は、少々面くらいながらも、嬉しかった。

ここカイナ村は仁の第二の故郷。仁の村なのだから。