軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-14 帰路に就く

3月8日朝、各国代表たちは、ある者は熱気球で、ある者は馬車で、またある者は船で、それぞれ帰国の途に就いた。

「ジン殿、エルザ媛、お世話になった」

『コンロン2』は一番最後にセルロア王国を離れることになっていた。それを見送っているのはセザール王。

「だが、いいのかね? 謝礼も持たずに」

「はい、目録はいただいてますから。それに積みきれませんし。必要に応じていただきにまいります」

正直、琥珀を除いて、仁には欲しい資材はないのだ。だから持ち帰ることに拘っていない。

「そうか、また来てくれ。いつでも歓迎する」

「それでは陛下、これで失礼致します」

仁、礼子、エルザ、エドガー、そして リタ(・・) は『コンロン2』に乗り込んだ。

ゆっくりと浮かび上がる飛行船を見上げ、セルロア王セザールは深い溜め息をついた。

「…… 彼(かれ) の力があれば、国を治めるのも楽になるだろうにな……」

だがそれは他力本願であると自らを叱咤し、彼は執務室へと戻っていったのである。

* * *

「……わ、わあ……飛んでます……」

リタは、浮かび上がって以降、窓に張り付くようにして外を見ていた。

無理もない、と仁とエルザは好きにさせている。

今、『コンロン2』はカイナ村に向かっていた。リタを同郷の仲間に引き合わせるためである。そのまましばらくカイナ村で過ごすことになっている。

そしておよそ2ヵ月の後。

侍女として最低限の教育を受けた後、リタはショウロ皇国へ行くことを決めていた。フリッツの元で働くためである。

カイナ村まではおよそ400キロと少し、昼過ぎには着けるだろう。

* * *

フリッツはダリに保管しておいた『ゴリアス』5体を引き連れ、アスール川を渡り終えたところ。

帰国の途に就いたというのに、彼の気分は珍しく沈んでいた。

なんとなく、物足りないというか、物寂しい感じが拭えないのである。

その理由もわからないまま、ただ黙々と『ゴリアス』を歩ませるフリッツであった。

* * *

アスール川がトーレス川と合流しナウダリア川と名を変えると、川幅はぐっと広くなる。

流れは幾分緩くなるが、新型船にはあまり関係ない。

フィレンツィアーノ侯爵とマルシア、そしてゴーレムアローが乗る三胴船は、時速60キロに迫る速度で川を下っていた。

流れに乗っているとはいえ、この速度は驚異的である。

「速いわね、これなら明るいうちにナールネッカまで行けるかもしれないわね」

「閣下、それは少し無茶ですよ」

一緒に過ごした十数日で、マルシアとフィレンツィアーノ侯爵は一層親しくなっていた。

「冗談よ。今夜はダコソスに泊まることになるでしょう。昨日のうちに連絡しておいたから、迎えの船も明後日には着くと思うし」

ここのところ海が荒れ気味、ということで、小さな三胴船でエリアス半島南端のポトロックへ行くにはやや危険と判断し、フィレンツィアーノ侯爵だけは沿岸沿いの町ダコソスで熱気球の到着を待って、そちらで帰国するという予定になっているのである。

マルシアは休暇、というか、マイペースで戻って来て構わない、とのお達し。そのための費用もたっぷりもらっている。

「でも、三胴船は小さくても安定がいいから安心感が強いわね」

ずっと乗っていた三胴船を降りるとき、侯爵が名残惜しそうに呟いた。

「あたしは沿岸沿いにゆっくり戻りますので」

「ええ、気を付けて帰ってらっしゃいね」

海が少々荒れていても、沿岸沿いに進めば危険は低い。また、沿岸各地の船を自分の目で見たいと、マルシアは思っていた。

* * *

街道をひた走る馬車の中で、ショウロ皇国女皇帝は、『コンロン2』に乗った時の感激を思い返していた。

「……ジン君が、熱気球でなく、あの『飛行船』を各国に技術提供する気になってくれるのはいつのことになるのかしら」

自問自答。

「……世界が平和になって、全ての国が未来に向かって一致団結したなら、きっと……ね」

そのためにも自分は努力を惜しまないようにしよう、と新たな決意をする女皇帝であった。

「でもあの王子……アーサー王子には油断できないわ、ね」

その能力で、女皇帝はクライン王国第2王子に何かを感じ取ったらしい。

「陛下、それでも、彼が有能だと言うことに間違いはありますまい。上手く付き合っていくのが肝要かと」

護衛という名目で馬車に同乗しているゲーレン・テオデリック侯爵が意見を述べた。

「そうなのよね。まずは自分の国のことを考えないと」

* * *

「……中途半端だったが、仕方ないか」

クライン王国第2王子、アーサーは、付き人で家庭教師のリオネス・アシュフォードと2人、熱気球に乗って母国を目指していた。

「ええ、今回は予想できないことが多すぎました。でも、殿下の手腕は各国代表に深く印象づけられたでしょうし、それなりに実績も上げられましたから、決して失敗とは言えません」

「それが救いだな」

そしてもう一機の熱気球にはジェシカ・ノートンと、仁が修理した汎用ゴーレムが乗っていた。

「……今回、アーサー殿下の活躍は素晴らしかったな……他の王族ではこうはいくまい。やはり次の王はアーサー殿下と言うことか……」

ジェシカは、そんな独り言を呟いていたという。

* * *

「ああ、故国への道のりは長いな!」

グロリアが溜め息をつきながらぼやいた。

「本当ですね。久しく母の顔も見ておりません」

それにシンシアも同調する。

3日ほど先行しているグロリアとシンシア。

今回は、トーレス川を渡らずに、北東に延びる街道を、一路クライン王国を目指している。

今までならこのルートは国賓か大使、及びそれに準ずる者しか許可されなかったが、今回はセザール王の許可の上で通行していた。

このルートの方がより早くクライン王国領に入れるという理由からだ。

「だが、明日には川を渡り、祖国の地を踏めるぞ!」

グロリアの父、ボールトンが元気付けるように、殊更大きな声を出した。

こうした彼等の安否は、監視衛星『ウォッチャー』により、見守られていたのであるが、そのことを知るものは、当然誰もいなかった。

* * *

「おにーちゃん、おかえりなさい!」

「ただいま、ハンナ」

同日昼過ぎ、『コンロン2』は予定どおりカイナ村に到着した。

出迎えてくれたハンナを抱き上げた仁は、エルザに手を引かれているリタに向かって、

「リタ、ここがカイナ村だ。で、あれが俺の城、二堂城。あそこに君の知り合いたちが待ってるよ」

その言葉どおり、二堂城前には少女たちが立ち並び、手を振っている。

「リター!」

「元気だったー?」

「みんないるわよ!」

そんな声を掛けられ、リタの目に涙が滲んできた。そんなリタの背を仁はぽん、と叩く。

「さあ、行ってお上げ」

「は、はい!」

勢いよく走り出したリタ。それを出迎える同郷の少女たち。

「よかったな」

「ん」

「おねーちゃんたち、うれしそう!」

仁とエルザ、そしてハンナは、顔を見合わせて微笑みあったのである。