作品タイトル不明
24-12 最初の攻防戦
「ほう、 解放隊(パルチザン) の連中か。この私、オランジュ公を捕らえにやって来たのかな?」
ルフォール・ド・オランジュ元公爵は、クロゥ砦最上階の狭間(小さな窓)から見下ろしていた。
正式に罷免されたわけではないので、未だ公爵を名乗っているあたり、図々しい。
「とはいえ、こちらもまだ砦の全てを把握したわけではない。まずは様子見だな」
オランジュ側も 解放隊(パルチザン) と同じようなことを考えていた。
そのうちに、 解放隊(パルチザン) 側から2体のゴーレムが出てきた、手には大きな鎚を持っている。
「ふむ、あの鎚で扉を破壊する気か。できるのかな?」
ここ数日で、オランジュは砦に大分詳しくなっていた。
「魔族の侵攻に備えて、外壁はかなりの強化が施されているという。見ものだな」
誰にともなく、独り言のように呟くオランジュ。
眼下では、ゴーレム2体が鎚を振るっていた。
扉に鎚がぶつかるたびに轟音が響くが、扉はびくともしないようだ。
「やはり丈夫にできているな」
やがて、ゴーレムの振るう鎚の方が壊れ、2体は引き下がっていった。
そしてそのまま、 解放隊(パルチザン) も後退していく。
「ふむ、馬鹿ではないな」
相手の戦力も見極めず、闇雲に攻め込むのは愚の骨頂。その点、 解放隊(パルチザン) の一部隊を指揮している者は分別があるようだ、とオランジュは評した。
「とはいえ、これから夜になる。気をつけんとな」
力尽くで攻め込むのはやめ、夜陰に乗じて忍び込む可能性を考えたオランジュは、今できる限りの手を打つことにした。
すなわち、『クロゥ砦』の防衛機構を動かすことである。
「おや、オランジュ様、どうしました?」
防衛機構を動かすため、オランジュが一旦地下へと赴いた際、作業をしていたボッカー・オーヴと出会った。
「ボッカーか、ちょうど良い。『レファ』の修理状況はどうだ?」
『レファ』とは、この砦奥で見つかった 自動人形(オートマタ) である。参謀もしくは補佐官のような役割を果たしていたらしく、砦に詳しい。
だが、300年という年月を経てかなり傷んでいたため、ボッカー率いる技術者集団に修理をさせていたのである。
時代にそぐわないオランジュの知識はこのレファによるものであった。
「はい。動作はまだぎこちないですが、会話には問題ないまでには修復できましてございます」
オランジュは満足そうに頷いた。
「うむ、それで十分だ」
そしてレファのいる部屋……『司令室』へと足を踏み入れた。
『オランジュ様、ようこそ。何か御用でしょうか?』
レファもまた、青髪の女性型 自動人形(オートマタ) 。アンやティア、そしてダジュールが使役するロルと同型である。が、補佐官としての役割を果たすため、かなりカスタマイズされているようで、性的な機能は皆無、代わって幾つかの攻撃魔法を使用できる仕様となっていた。
とはいえ、動作関係の修理が終わっていないので、今のところ、できることは助言関係だけだ。
「うむ、今夜、もしかすると侵入者があるかもしれない。その対策を立てたいと思ってな。何か適当な防衛機構はないのか?」
『でしたら、外壁の結界を発動すればいいでしょう』
打てば響くように答えが返ってきた。
「結界?」
『そうです。侵入者に雷系の魔法を浴びせ、気絶もしくは殺傷する結界です』
さしずめ、高圧電流の流れる防護柵といったところであろうか。
「そんなものがあるのか。よし、すぐに発動しよう。どうやればいい?」
『この司令室から直接操作できます』
「そうか。……まだ『頭脳』が再起動していないのだが、大丈夫なのか?」
これに対しても、レファは保証してくれた。
『はい。これは『頭脳』とは切り離された機能ですのでご安心下さい』
「わかった」
こうしてオランジュは、レファの指導に従い、幾つかの操作を行った。
『これで、外壁を乗り越えようとする者には雷撃が浴びせられることになります』
「わかった。この砦はまったくすばらしいな」
『はい。魔族の侵攻に備えて作られた 魔導砦(マギフォートレス) ですから』
「ふふ、そして私がここの主だ」
『はい、オランジュ様』
* * *
その夜、月が真上に来て、日付が変わらんとする頃。
(いいか、気を付けて行ってこい)
(わかりました)
2人の斥候が、 解放隊(パルチザン) の陣地を出発した。
全身に黒い布を纏い、忍び足で進むその姿は、それと知らなければほとんどわからないだろう。
やがて2人は壁に取り付いた。
(よし、見張りはいないようだな)
(オランジュの奴にそれほど部下はいないはずだからな)
短いやり取りのあと、外壁を乗り越えるべく、先端にカギ状の爪が付いたロープを上に向かって投げた。
3度目で上手く引っ掛かり、体重を掛けても外れないようなので、まず1人目が登り始めた。
もう1人は周囲を警戒する。
順調に登り続け、外壁の上に立った、その瞬間。
「あぎゃあっ!」
一瞬、紫色の閃光が走ったかと思うと、男はがっくりと頽れ、外壁の上から落下したのである。砦内部へと。
「お、おい!」
もう1人は思わず大声を出してしまった。が。
(くっ……罠か……ここは引き返すしかないな)
助け出そうにも、外壁を越えようとすればおそらく同じ運命が待っている。
残った斥候の男は悔しさに唇を噛みつつも、 解放隊(パルチザン) の陣地へと引き返したのであった。
「そうか……」
戻った斥候からの報告を聞いた支部長は難しい顔をし、
「罠があったとはな。おいそれと近付けない、というわけか。やはり一支部の手には負えないという判断は正しかった。増援が来るまで手出し無用。監視に留めることにする」
「はっ、わかりました」
こうして、 解放隊(パルチザン) 側は待機に入ったのである。
* * *
外壁の結界が作動したとき、オランジュはよく眠っていた。
代わって結果を確認したのはレファである。
『ご主人様が懸念されていたとおり、侵入者があったようですね。……外壁内部に転落しましたか。回収し、生きているようなら情報を引き出せないか調べてみることにしましょう』
そして、自分が操作することのできるゴーレムを繰り出した。遠隔操作で動く低級(砦基準で)なゴーレムだ。
運び込んでみれば、まだ息はあるようだ。外壁から落ちたときに首の骨を折らなかったのは運がいいと言っていいだろう。
『とりあえず手当をさせないと』
レファ自身は治癒魔法を使うことができないので、砦内にある治療設備へと運び込ませた。
『1日か2日あれば話せるようになるでしょう』
そうすれば、敵の情報を聞き出すこともできるはず、とレファは考えている。
『 知識転写(トランスインフォ) を使うことができれば良かったんですが……残念です』
この砦内にその魔法を使える者は皆無だったのである。
魔導大戦時、砦よりも前線において、治癒魔法士はより必要とされていた。そしてそれを補佐する治癒系ゴーレム・ 自動人形(オートマタ) も。
戦闘用ゴーレムに比べ、治癒系のゴーレムは貴重であり、この砦内に残っていないのはそういう理由からであった。
クロゥ砦の攻防戦はまだ始まったばかりである。