作品タイトル不明
24-05 ヤルマーの工房
素材のことを考えずに、剣の作製を引き受けてしまった仁。
「……それは私も悩ましい」
エルザも同様に困っていた。
「蓬莱島から送らせる手もあるけどな」
「……どこから手に入れたか追及されたら」
その場合、さすがに言い訳しようがない。
「……困ったな」
期限が明日の朝9時前まで。今は午後5時である。製作時間は、仁とエルザなので大丈夫であろうが、素材が無いというのは製作以前の問題である。
「お父さま。ヤルマーさんに聞いてみては?」
「え、ヤルマー?」
「はい。つい先程、ダリから戻って来ていたようですよ?」
ヤルマー・バルツ・ガンマはセルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) で、王城にも工房を持っているはず、と礼子が言う。
「そう……だな。それしかないか」
素材を買いに城下に出るというのも、いろいろと問題がありそうである。
そこで、まずは仁と礼子でヤルマーのところへ行ってみることにした。
「えーと、多分1階だろうな」
「はい、お父さま。1階の西側にある中庭に工房棟が建っています」
「ああ、そうか。……詳しいな?」
礼子は仁の役に立てて、嬉しそうに頷く。
「はい。先日来、老君の命で『 忍(しのび) 部隊』が城の内部を調査していますから」
「なるほどな」
「一部、魔法的な結界が張られている箇所を除き、調査は済んでいます」
「魔法的な……結界?」
「はい、そこを通過すると警報が鳴る、と言う程度ですが」
仁はそれを聞き、構成を想像してみた。
「だが、それだと、鼠や虫が入っても警報が鳴るぞ?」
「はい。おそらく一定の大きさ以下のものには反応しないのではないかと思います」
「だろうな。だったら『 忍(しのび) 部隊』なら通過できるんじゃないか?」
体長5センチの諜報用ゴーレム部隊なら大丈夫ではないかと言う仁に、礼子は反論した。
「それは十分考えられます。ですが、老君は、『材質』や『魔力』にも反応する可能性がある、として自重しています」
「なるほどな」
老君の移動用端末、老子ほどの情報処理能力があれば、そうした結界の性質も分析できるのだろうが、5センチの『 忍(しのび) 部隊』にそこまで期待するのは酷であった。
「それに、そうした部屋の3割ほどは、人が出入りする際に中を覗くなどしておおよその事はわかっていますし、大した部屋でもないことが多いです。更衣室とか王の寝室とか」
そんな会話を小声で話しながら、仁と礼子は1階に到着した。
西側の通用口には警備兵がいたが、仁と礼子を見るとすぐに通してくれた。
「あそこです」
礼子が指差す中庭の先には、小さな体育館くらいの大きさを持つ工房があった。
「でかいな。……でも、『リヨン』とか作っているならあのくらいはあってもおかしくないか」
仁たちが近付いていくと、窓からそれを見つけたらしく、ヤルマーが外に出てきた。
「これはジン殿、どうしました? こんなところに。まあ、中へどうぞ」
驚いた顔のヤルマーであったが、仁と礼子を工房内へと招き入れると、椅子を勧めた。
「こちらへジン殿をお招きしたことはなかったですね」
工房の奥には応接間があった。
この工房は、彼の住居も兼ねているとのことだ。
「いらっしゃいませ」
仁と礼子の前にテエエの入ったカップが置かれた。
「ありがとう。でも礼子は飲まないんです」
だが、思い掛けない返事が。
「ええ、存じております。でも礼儀ですので」
そのカップを置いた人物を見ると、長い金髪をポニーテールにした、青い眼の美人であった。
「妻のメイベルです」
おっとりした雰囲気を纏い、均整の取れたボディライン。歳は仁と同じか、少し上くらいに見えた。
「あ、ジン・ニドーです」
自己紹介する仁だが、メイベルは笑って対応する。
「ええ、存じ上げております。主人が先日話してくれました」
「メイは私の助手もしてくれているんですよ」
「はい。そのご縁で妻にしていただきましたの」
柔らかく笑うメイベルに、仁はこの2人はいい夫婦のようだ、と感想を抱いた。
ひとしきり雑談をした後、本題に入る仁。
「……というわけで、剣とアクセサリーを頼まれてしまいまして。素材を分けて貰えたらな、と言う次第です」
ヤルマーとメイベルは笑った。
「そういうことでしたら、どうぞどうぞ。大したものもありませんが」
だが、素材棚をちらと見た限り、品揃えは豊富だ。 魔結晶(マギクリスタル) 、 魔石(マギストーン) をはじめ、 魔導樹脂(マギレジン) や通常の宝石などもあった。
「それでは、夕食後、エルザも連れてもういちど伺います」
メイベルの雰囲気に当てられて、仁はいつになく敬語を交えて喋っていた。
「それではお待ちしてますね」
微笑むメイベルに見送られ、仁は一旦部屋へと戻るのであった。
「そう、良かった」
部屋に戻った仁は、食事をしながら、エルザにうまく話が付いた旨を報告していた。
「で、何を作るか、決まったか?」
「ん。ペンダントトップにしようと思う」
旅の途上であるので、あまり嵩張るものは贈り物に向かないだろうと考えた結果だ。
一方、仁の方は、グロリアが気に入るのはどんな剣だろうかと考えていた。
「コレクションは直剣がほとんどだったな」
以前グロリアの家で見せてもらったコレクションを思い出す仁。
「やっぱり、日本刀、か……」
とはいっても、この世界向けにアレンジするつもりはある。
礼子の持つ『桃花』は完全な(といっても仁の記憶にある)日本刀であるが、仁は少し変えてみるつもりだ。
「だけどな……」
作るからにはせめてどこかに拘りたい仁である。
が、ヤルマーたちの前でどこまで見せていいものか、悩みどころである。
「取りあえず行ってみるか」
「うん」
ということで、仁とエルザはそれぞれ礼子とエドガーを連れて、ヤルマーの工房棟へと向かった。
「お待ちしてました」
ヤルマーが2人と2体を出迎えた。
「あなたがエルザ様ですか? ヤルマーの妻、メイベルと申します。以後よろしくお願い致します」
「エルザ・ランドルです。こちらこそ、よろしくお願いします」
エルザとメイベルも挨拶を交わし、さっそく製作に入ることにする。時間がないからだ。
「……銀と、金を少し。それから青系統の宝石」
「でしたらこちらの中から選んで下さい」
棚の一つを差すメイベル。
「こちらは個人で揃えた素材ですので、いくらでもお使いいただいて構いません」
確かに、国の予算で揃えた素材を好き勝手に使うというのは問題が大ありだ。
エルザはメイベルと話しながら始めたようなので、仁は仁で、ヤルマーに素材の状況を尋ねた。
「刃物用の鋼が欲しいんだけど」
ヤルマーの作ったゴーレム、その鋼鉄製の骨格は、非常に上質の鋼が使われていたことを踏まえての要望である。
「ええ、それでしたらこちらに」
ヤルマーが指し示した棚には、何種類かのインゴットが載せられていた。仁はじっくりと選定させてもらうことにしたのである。