軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-04 別れの予感

(……私はどうしたいんだろう……)

フリッツに救われた少女、リタは悩んでいた。

(みんなにも会いたいけど、ご恩返しもできずにお別れするというのも……)

法にない『奴隷』扱いされて、足りない税の充填分として売られてきたリタ。それを救ってくれたフリッツには返しても返しきれない恩を感じていたのである。

(ジン様の言うカイナ村? に行けば、一緒に売られた皆と再会できる、って言うけど……)

セルロア王国の闇を曝くため、消さずにいた胸元の入れ墨も、今はきれいになっていた。

(フリッツ様の妹様、エルザ様のおかげ……それにしても)

一介の村娘だったリタにとって、貴族、王族、皇族との出会いは、思い出しただけで震えが来るほどの体験だった。

「でも、いつまでも付いていけるわけないよね」

「ん? 何の話だ?」

「ひゃあっ!?」

物思いに耽っていたところへいきなり声を掛けられたリタは、おかしな声を上げて飛び上がってしまった。

「フ、フリッツ様、いつこちらへ?」

「ん? たった今だ。戻ってみたらお前がぶつぶつ言っていたので、何か悩みごとでもあるのかと思って声を掛けたのだが」

「そ、そうでしたか」

いつの間にか声に出ていたようだ、とリタは顔を赤らめた。

「喜ぶがいい。あと2日もしたら、ジン殿がお前を仲間の所へ連れて行ってくれるぞ」

そういう話になってはいたのだが、セルロア王国の政情が安定するまで、ということで日程までははっきりしていなかったのだ。

ここへきて、いわゆる『補佐団』も一旦帰国せねばならないため、こうした話が出てきたわけである。

「……フリッツ様はどうなされるのですか?」

「俺か? 俺は『ゴリアス』を率いて国元へ帰ることになるな」

「やはり、そうですよね」

そこにノックの音が響いた。

「は、はい」

従者として、リタが立ち上がってドアを開いた。そこにいたのはシンシア・カークマン。

「フリッツ殿、今いいでしょうか?」

少し寂しそうな声である。

「やあシンシア、どうしたんだい? まあ入ってくれ」

「お邪魔します」

「フリッツ様、お茶を淹れますね」

「ああ、頼む」

リタも基本的な侍女の仕事はできるようになってきていた。

「で、どうしたんだ?」

「え、ええ。大したことではないのですが、明日、私たちは国元へ戻ることになりました」

唐突に切り出すシンシア。だがフリッツは顔色も変えずにそれを聞いている。

「ほう」

「グロリア様とグロリア様の父君ボールトン様。それに私、の3名です」

ジェシカはアーサー王子の護衛のためにもう少し残るようだ。

「それで、いろいろとお世話になりましたので御挨拶に、と」

ぺこりと頭を下げるシンシア。フリッツは笑ってそれを受けた。

「そうだったのか。いや、こちらこそ、大したこともできなかったな」

「いえそんな。『もどき』に襲われた時や、道中荷物を運んでいただいたりとか、ひとかたならぬお世話になりました」

「いや、こちらも道中美味い食事を作ってもらったし、面倒な手続きなど随分と肩代わりさせてしまった」

「いえいえそんな」

あくまでも謙虚に振る舞うシンシア。心なしか頬が赤い。

「それで、明日、何時頃発たれるのか?」

「はい、朝食の後、すぐにということですので9時前には」

「そう、か」

それから少しだけ世間話をした後、シンシアはもう一度フリッツに礼を言い、部屋を出ていったのであった。

「……そうか、グロリア殿たちも帰国するのか」

「私もいろいろとお世話になりました……」

「そう、だな。……よし!」

「フリッツ様?」

いきなり立ち上がったフリッツを怪訝そうな顔で見つめるリタに、

「ちょっと出てくる」

と、短く告げたフリッツは、荷物から何か袋を取り出すとそれを抱えて部屋を出ていったのである。

* * *

仁とエルザは、暮れなずむ町の様子を、王宮内にあてがわれた部屋の窓から眺めていた。

「ようやく安定してきたな」

「ん、大変だった」

礼子とエドガーは気を利かせて、5メートルくらい離れている。老子とアンは『コンロン2』の中だ。

「リシャール王……先王、あれ以上の回復はしてないんだって?」

「うん。……私も、いろいろ手を尽くした、けど」

残念そうなエルザである。

いい雰囲気……なのかと思いきや、あまり色気のない会話を交わす2人であった。

「でも、侍女さんが一所懸命に尽くして、いた」

「ああ、あの美人さんか」

いつも、リシャールが傍に侍らせていた侍女。

王妃亡き後、後添えを娶らなかったのは争いの種を増やさないためだったのだろうが、やはり寂しかったのだろうか。

「愛人みたいなものだったのだろうな……エルザ、どうした?」

『美人さん』などと口にしたものだから、エルザが膨れているのだが、当の仁は気付いていない。

そんな時。ドアがノックされる。礼子がドアを開いて誰何すると、訪問者はフリッツであった。

「ジン殿! エルザ! 頼みがある!」

部屋に招き入れられるや否や、仁たちが口を開く前に、フリッツはいきなり話を切り出した。

「明日の朝、クライン王国のグロリア殿、シンシア殿らは帰国の途につくという。それで、いろいろ世話になった礼を贈りたいのだ」

そう言うとフリッツは、手にしていた袋をテーブルの上にどん、と置いた。

「これで、ジン殿には剣を、エルザには何かアクセサリーを作って欲しいのだ」

「は、はあ」

突然のことに、仁は生返事をする。フリッツはそれを肯定の意と受け取り、

「では頼む!」

といい残し、部屋を出ていったのだった。

「……嵐のような人ですね」

ぽつりと、礼子が呆れたように言った。

調べてみると袋の中身は金貨と銀貨で、合わせて9万2500トール入っていた。9万トールといえば大金である。

「剣、というのはグロリアにだな」

「アクセサリーはシンシアさん?」

グロリアの父、ボールトンは忘れられているのか、それともここまでの道中世話になったグロリアとシンシアに限定しているのか。

取りあえず、依頼をこなそうかと考えた仁は、ふとあることに思い当たった。

「……ところで、女性への贈り物に剣というのはアリなのか?」

以前、エルザの誕生日祝いに、銀の短剣を贈ろうとしたときに、ステアリーナに窘められたのは、今となってはいい思い出である。

エルザは少し考えた末に、ぼそりと言った。

「……グロリアさんだから」

仁もそれには同意。

「……グロリアだもんな」

ということで、仁は気にせずに剣を作ることにした。

だが、ここで大きな壁に突き当たる。

「……素材どうしようか」