作品タイトル不明
24-03 地下の魔物
「なんだ、どうした!?」
一瞬画像が暗くなり、また明るくなった。魔導ランプがそのような挙動をすること自体珍しいので、見ていた者たちが不思議がるのも無理はない。
それ以上に、度肝を抜いたのは、画面に映し出されたものであった。
「ギガントーアヴルム!」
グロリアが叫んだ。
画面に映し出されていたのは、無数に蠢く『ギガントーアヴルム』、すなわち巨大ハサミムシであったのだ。
「ああ、あれは!?」
一瞬見えた、銀色の鎧。すぐにギガントーアヴルムに覆い隠されてしまったが、それはまさしくセルロア王国の兵士が身に着けている物だった。
「……ということは、皆、あの怪物に……」
セザール王が青ざめた顔で呟いた。
「グロリア殿、貴殿はあの怪物を知っているのか?」
フリッツが急き込んで尋ねた。
「あ、ああ。……クライン王国内で出会ったことがある。ギガントーアヴルムといい、普通の剣では斬れない。動作もなかなか素早く、手強い魔物だ。ジン殿に作ってもらった剣があったればこそ、私はこうして生きていられる」
画面から目を離さずにグロリアは答えた。その手は知らず知らずに腰の剣に置かれていた。
「ああっ!」
シンシアが叫んだ。
画面が天井を向く。つまり、ゴーレムが仰向けにひっくり返ったのである。
そしてたちまち、ギガントーアヴルムで覆い尽くされていく。やがて画面は真っ暗になった。
「……ゴーレムがやられたようですな」
「仕方なかろう。あの型は戦闘には向かないのだから」
ラゲード第一軍事省長官とラタント第一技術省長官が残念そうな声で言った。
「ううむ、あのような魔物がいたとは……グロリア殿、もう一度説明をお願いする」
セザール王がグロリアに要請した。
グロリアは、出会った経緯はぼかし、魔物のことについて詳しく描写した。
経緯を話すと、当然、『アルシェル』のことを話さねばならず、そうなると彼女そっくりな少女を保護しているセザール王の立場が悪くなるのでは、と気遣ったのである。
さすがに、その少女がいなくなっていることまでは知る由もなかった。
「ううむ、そんな魔物がいるのか」
「だが、見たことがあるのはグロリア殿だけなのだろう?」
「というか、あそこはどこなんだ?」
ざわざわと声が飛び交い、収拾がつかなくなりそうである。
「お静かに!」
一声で場が静まった。声を掛けたのはショウロ皇国女皇帝、ゲルハルトである。さすがだ。
「今のまま好き勝手に討論しても時間の無駄です。問題点は順序立てて整理していきましょう」
その言葉には重みがあり、一同無言で頷いた。
「まず、あそこは本当にダリにある地下室なのでしょうか?」
仁には、その答えがおおよそ見当が付いていた。ちらとみえた地下室の壁。そこに刻まれた 魔導式(マギフォーミュラ) 。
(あれは…… 転移門(ワープゲート) だ)
仁が使っている物と型式は異なるが、間違いないだろう。画面が一瞬暗転したのは転移したためだ。
廃棄されたアンを見つけた遺跡にも 転移門(ワープゲート) があった。魔導大戦前にはそれなりに使われていた技術なのだ。
「もしやあれは『 転移門(ワープゲート) 』では?」
考えに耽っていた仁はその言葉に顔を上げた。
セルロア王国の第一技術省長官、ラタントの発言であった。さすが技術大国のトップ、 転移門(ワープゲート) ではないかと当たりを付けたようだ。
「『崑崙君』、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』としての御意見は?」
こういう話題であるから、仁に質問が来るのも当然である。
「そうですね、 転移門(ワープゲート) だという意見に賛成です」
「やはりか……」
魔導大戦前には使われていた技術であるから、聞いたことのある者も何人かいた。
「ですが危険ですね。1つ間違えば、あのギガントーアヴルムがこちらに転移してくるということですよ」
仁のその言葉は、特にセルロア王国の者たちに衝撃を与えたようだ。
「……確かに。では、どうするのがいいとお考えかな?」
と、ラゲード第一軍事省長官からの質問。
「そうですね。とりあえずは、修復可能な程度に壊しておくことですね」
仁は思うとおりのことを述べた。
「壊すのか!?」
ラゲード第一軍事省長官は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその意味する所を悟った。
「……確かに、あの怪物がダリに現れたらと思うとぞっとする。しかも、他にも魔物がいる可能性もある」
その推測は正しい。仁は、イナド鉱山から出てきた『 巨大百足(ギガントピーダー) 』のことを少し臭わせる。
「ジン殿も聞き及んでおられたか。私も、生きているところをこの目で見たわけではないが、体長50メートルはあろうかというその『 巨大百足(ギガントピーダー) 』の死骸は目にしている」
それを聞いたボールトンは、ばつが悪そうに口を開いた。
「私はこの目で見ました。剣も魔法も通用しない怪物でした。デウス・エクス・マキナ殿に助けてもらわなければ、命を落としていたでしょう。彼がどうやって倒したのかはわかりませんが、その死骸、甲殻にはアダマンタイトの剣でなければ傷一つ付けられないものでした」
「……」
地底に棲むと思われる魔物、怪物の脅威が、かなり現実味を帯びてきたようで、一同深刻な顔になる。
自国の鉱山から、いつそうした魔物が現れるかわからないからである。
「……そんなところへ、私は兵士を送り込んでしまったのか……しかも8人も……」
「仕方ないですよ、陛下。 転移門(ワープゲート) があること、そして転移した先にあんな怪物がいることなど、誰にも予測できません」
ラゲード第一軍事省長官が慰めるが、セザールは首を横に振った。
「いや、最初にゴーレムを送り込むべきだったのだ。それをしなかった私の怠慢である」
「陛下、とはいえ、ここエサイアにしか特殊ゴーレムは無かったのですから、現地の兵を送り込むというのは妥当な命令だったと思います」
「しかし人命を無駄にしたことは否めない……」
「と、とにかく、 転移門(ワープゲート) が動作しないようにしておくことが肝要かと」
落ち込むセザールを見て、少し強引に話を戻す仁。あの 転移門(ワープゲート) は、見た限りでは旧式で、送り出しと受け入れの切り替えが手動のようだ。つまり、今のところ一方通行である。
が、いつそれが切り替わるか予断を許さないので、『修復可能な程度に壊しておくこと』と提案したのである。
(とはいえ、どちらがマスター側かまではわからなかったからな……)
送り出し・受け入れの切り替えは、通常マスター側で行われる。そのマスター側が、あのギガントーアヴルムのいた側だとすると、いつ切り替わってもおかしくない。
今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫だろうと思うのは楽観に過ぎる。
「わかった。向こうにはヤルマーがいるはずだ。彼に伝えておこう」
魔導式(マギフォーミュラ) の一部を消せば、 転移門(ワープゲート) として動作しなくなる。そうしておけば安心だ。
(その前に、あの魔物がいる場所がどこなのかは調べておきたいものだな)
仁は、小用に立つ振りをして会議室を出ると、 魔素通信機(マナカム) で老君に連絡を取った。
『わかりました。『 忍(しのび) 部隊』に命じ、マーカーを転移させましょう』
「そうだな。それならいいだろう」
マーカーだけを送り出してしまうなら、損害を受けることもないだろうと考えたのである。そしてマーカーがあれば、 魔力探知機(マギレーダー) で場所を特定できるはずだ。
仁が老君への指示を終え、会議室に戻ると、話題は魔物に対抗できる武器の話になっていた。
「これはジン殿に作ってもらった剣です。極々薄いアダマンタイトを鋼で挟んで作られた剣で、ギガントーアヴルムも斬り裂くことができました」
やや自慢げに剣の説明をするグロリア。
仁は、各国代表の前でばらしていいのかと思ってアーサー王子を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしているので、グロリアの暴走だと察した。
が、ここまでばらしてしまっていては今更秘密でもない。
「ジン殿、素晴らしい構造ですね」
フィレンツィアーノ侯爵にまで感心されてしまった。
「各国、そうした武器の準備を進めたく思います」
と、ショウロ皇国女皇帝も口にした。
こうした対魔物用武器は、そのまま対人間にも使えるわけで、殺傷力が更に増すと言うことである。
ますます戦争をさせないようにしないといけないな、と密かに思う仁であった。
仁が、その発端になったグロリアは、と見ると、隣に座る父ボールトンに何やら注意を受けていた。軽はずみな発言を叱られているらしい。
アーサー王子からも叱責を受けたようで、しょげかえるグロリアが珍しかった。
* * *
『 御主人様(マイロード) 、ぎりぎりでしたが、あの 転移門(ワープゲート) が繋がっている先を特定することができました』
その夜、仁は老君から報告を受けていた。
「よくやってくれた。で、どこだった?」
『はい。旧レナード王国内、エルラド鉱山の地下でした』
「『エルラド鉱山』だって!?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。エルラドライトの主要鉱山ということでそう名付けられたようです』
「そのあたりを詳しく調べる必要があるな」
仁は考え込んだのである。