作品タイトル不明
24-02 地下室探索
「何? またしても戻って来ないと?」
「は、陛下」
「ううむ……」
新セルロア王、セザールは難しい顔をして考え込んだ。
事の起こりは、仁から尋ねられたダリの建物である。
老子とアンにより、地下に空洞があることまでは確認されていたが、その後のことはセザールに任されていた。
というか、勝手に調査するわけにいかなかったのである。
「最初3人、今度は5人が、か」
セザール王は、ある程度信頼できる兵士を、まずは3人、調査のために送り出した。
老子とアンが見つけた部屋、その床の石英タイルには切れ目があり、少し複雑だったが、床は開いた。
そこには階段があり、階段は更に地下へと続いていた。
魔導ランプを持った兵士を3名、送り出したところ、半日が過ぎ、日が変わっても彼等は帰ってこなかったのだ。
そして、行方不明の3人を捜索する意味も加えて、今度は5人の兵士が送り込まれた。
が、彼等も帰ってこなかったというのである。
「これは……間違いなく何かあるな……」
父である先王、リシャールに尋ねてみたが、地下室があることも知らなかったようだ。
ようだ、というのは、会話もままならない状態がずっと続いているからである。
首都の宮殿に移し、一流の治癒師を揃えたものの、一向に良くなる兆しは見えなかった。
もちろんエルザも日々尽力していはいるのだが。
ようやく聞き出せたのは、父の先々代、つまりセザールの曾祖父ギョームの前の代からあった地下室で、伝承によると、遺跡への入口であるらしいということ。
そして、そこを保護するために上物、つまり教会風の建物を建てたのも祖父ギョームだった、ということ。
これだけである。
内容から推測するに、父リシャールも、地下室に何があるのか確認してはいないらしい。
「もうなりふり構っていられんな」
考えをまとめたらしいセザールは、ちらと日時計を確認すると、執務室を出て小会議室へと歩き出したのだった。
* * *
セルロア王国建国記念式典に出席した各国代表は、そのほとんどがまだ滞在していた。
1つには、この技術・軍事大国の政情が不安定だったこと。まかり間違って周辺国に戦争を仕掛けでもしたら目も当てられないからだ。
もう1つは、新王セザールの政治基盤が脆弱だったこと。正に青天の霹靂、ともいうべき唐突さで即位したためである。
『ほとんど』というのは、この場にいない者が2名ほどいるからである。
1人はフランツ王国のオランジュ公ことルフォール・ド・オランジュ公爵。
もう1人はエゲレア王国のガラナ伯爵である。
オランジュ公は、セザール王の即位を邪魔せんとした先王の弟、アラン・デモヌと裏で繋がっていたらしく、王弟の敗北後、逃げるように姿を消し、そのまま行方知れずに。
ガラナ伯爵は体調を崩し、熱気球で国元へ送り帰されていた。
ということで、ショウロ皇国は女皇帝、テオデリック侯爵、デガウズ魔法技術相、フリッツ中佐、マテウス大尉、ラインハルト男爵。
クライン王国がアーサー王子、その付き人リオネス、女性近衛騎士ジェシカ、グロリア、シンシア、そしてグロリアの父ボールトン。
エリアス王国がフィレンツィアーノ侯爵とマルシア。
エゲレア王国がブルウ公爵、となっている。
それに『崑崙君』仁とその婚約者エルザを加えた面々が小会議室に集まっていた。
とはいえ、この集まりもあと数日。
『 魔素通話器(マナフォン) 』のおかげで母国の様子が報告されており、大きな問題が発生していないといっても、元首・首脳・重鎮がいつまでも国を空けているというのはまずいのである。
「諸君、よろしく頼む。本日の問題点は……」
セザールが切り出した。この日の主な議題は地方の改革であった。
「地方の裁量に任せるというのにも限界があります。ですので査察官を派遣し……」
「互いに監視し合い、不正を正すような組織を作る必要が……」
「農業にしても工夫する必要があります。連作障害の予防や救荒作物の栽培など……」
自国のノウハウを全て教えるわけにはいかないが、各国間での情報交換にも繋がることなので、お互いを高め合うという意味においても有効であった。
「だがそれは、そう簡単にできることではない!」
「そうは言っても、この方法ですと期間が短縮できるのですよ?」
「いや、期間も大事だが、人手が問題だろう。今のこの国では……」
「それはそうですが、こう考えてみたらどうでしょう?」
セルロア王国の安定化を前提にしているので、議論することがあっても、比較的穏やかに進んでいる。
言い方は悪いが、『他人事』なのが、余計なヒートアップをしないで済み、感情的になることもなく議論できているからであろうか。
そうして午前中一杯、話し合いは続けられた。
「ご協力、感謝する」
他国の代表たちに礼を言うセザール。これから昼食会である。
大食堂に移動し、用意された昼食に舌鼓を……となるのだが、リシャールの時と異なり、献立はかなり質素なものに移行していた。
参加者たちもそのことに文句を言うことはない。なにしろ、質素倹約は彼等が言いだしたことなのであるから。
「高級な食材を使うだけが美味しい料理を作る秘訣ではありません」
とは、フィレンツィアーノ侯爵の言葉。彼女は『トポポ侯爵』の異名を持つほど、トポポの調理法に取り組んだのだから。
……ということで、昼の献立は、パン、フライドトポポ、野菜スープ、フルーツジュース、である。
リシャールが王だったときに比べ、かなり見劣りがするが、味は文句なしであった。
「味付けがいいですね」
「我が国は塩の味には拘っているので」
「このフライドトポポもうまくできていますね」
「本家本元にそう言ってもらえると料理長も喜ぶだろう」
などと、話も弾んだ。
そして、食後のテエエを飲みながら、日時計を確認したセザールは思い切ったような顔で口を開いた。
「ええとだ、諸君。特にジン殿。ちょっと聞いてもらいたいことがある」
そして、例の『地下室調査』のことを話す。既に8人が帰ってきていないことも。
仁も、セルロア王国で調べればすぐわかるだろうと、『 忍(しのび) 部隊』をこちら、つまり首都に移動させたため、そちらの情報には疎かったのである。
「で、本日1時に、特殊ゴーレムを投入することにした」
「特殊ゴーレム?」
「そうだ。見たものを『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』に映すことのできるゴーレムなのだ」
エゲレア王国ではそうした魔導具を開発していたが、こちらはゴーレムに仕込んだようだ。
確かに、人間が入れないような危険な場所の調査にはもってこいだろう。
「あと10分ほどで投入される。もしよかったら一緒に見ないか?」
否やを言う者は一人もいなかった。
そこでセザール王は、傍の者に命じ、モニタに相当する 魔導投影窓(マジックスクリーン) をこちらに運ばせたのである。
「あと1分くらいだな」
各国代表の他に、ラゲード第一軍事省長官や、ラタント第一技術省長官などもやって来て、 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめた。
魔導投影窓(マジックスクリーン) には、ダリにある、教会風建物が映し出されていた。
そして時間が来たようで、 魔導投影窓(マジックスクリーン) の画像が変わる。建物に近付いていくのだ。
「ううむ、素晴らしい」
誰かが感心したような声を発した。
そして画像は建物の中へ。
「ここまでは問題ないのですよね」
そして画像は地下室への階段を下っていくようになる。
「……見ていると酔いそうだ……」
仁が見当外れの感想を口にする。が、同じことを思った者も何人かいるようで、
「……少し同意します……」
との声が返ってきた。TVなどでも、カメラが揺れているような映像を見ていると酔う人がいるが、同じことだ。
「……『 癒し(フェルハイレ) 』」
見かねたエルザが仁他数名に治癒魔法を掛ける。
「エルザ媛、感謝する」
「ありがとう……」
それで気分は回復したようで、改めて全員が画面に注目。
今や、ゴーレムは最下層の部屋に辿り着いたところだった。
薄暗いが、魔導ランプを持って来ているので、物の形は判別できる。
(……あれは?)
仁の目に、気になるものが見えた、と思った途端に画像が一瞬で切り替わったのである。