軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-01 新たな情報

3458年3月、ローレン大陸の情勢は不安定であった。

同年2月24日に、セルロア王国の国王がリシャール・ヴァロア・ド・セルロア国王からその嫡男セザール・ヴァロア・ド・セルロアへと代替わりしたことがその主な原因である。

とはいえ、即位して10日が過ぎ、新王はじめ閣僚の努力により、ようやく世情は安定しつつあった。

「彼女がいなくなった?」

「はい、陛下」

「どうしてだ? 警備の者は何をしていた?」

「は、それが、誰も部屋から出た者はないはずです。なのに、朝になったら部屋はもぬけの殻だったということで……」

「うむう……。とにかく、秘密裏に捜索を続けろ」

「は、わかりました」

『彼女』とは魔族の『アルシェル』そっくりの容姿をした『ホムンクルス』のことである。

以前、セザール王が王太子だったときに、ヌバリ鉱山の近くで保護した経緯がある。

記憶がないようで、名前さえわからない。

誰にも心を開かず、そしてついに、いなくなってしまったというのだ。

「……」

セザール王は、『おせわになりました ごめいわくにならないよう すがたをけします りっぱなおうさまになってください』と、たどたどしい文字が書かれた皮紙の切れ端を見つめていた。

「出て行く姿を誰も見ていなかったというのに、いなくなってしまった、か……」

セザール王はそっと溜息を漏らした。

* * *

「ふむ、この子が『ルージュ』か」

仁は『700672号』を訪れていた。

「『ネージュ』と同じ『 設計基(テンプレート) 』だな」

700672号は目の前の、黒髪、赤い目の少女を見つめながら呟いた。

セザール新王の下から、『アルシェル』そっくりのホムンクルスを連れ出したのは仁であった。

老君直属の『 忍(しのび) 部隊』を使い、転送装置で連れ出したのである。

そもそも、『彼女』を連れ出した方がいい、と仁にアドバイスしたのは700672号であった。

『彼女』の存在をどう捉えればいいか悩んだ末に700672号の助言を求めたのが昨日。

「ふむ、ホムンクルスがそちらの世界に……」

700672号は少し考えたのちに、結論を告げた。

「その者を、できるだけ急いでこちらに連れてくるがいい」

仁が理由を尋ねると、700672号は順序立てて説明をした。

まず、『彼女』の身体の造りが人間と違うことに勘付かれたら非常にまずいだろうということ。

モデルが魔族であることを知られたら、更にまずいだろうということ。

今の人間世界情勢で魔族の存在を公にするのは時期尚早だろう、ということ。

等々、仁は一々納得させられた。が、最大の理由は、

『教育されていないホムンクルスは非常に不安定で、いつ暴走するかわからない』

と言われたことによる。

「で、だ。何としても彼女を彼等の目に触れないところに匿う必要があるだろう。誘拐になるとか心配する必要はない。 人造人間(ホムンクルス) は人間ではないのだから」

仁の気を楽にしてくれるつもりもあるのだろう。700672号は自分が責任を持つ、とも言った。

ということで、仁は『ルージュ』を連れ出したのである。

因みに、『ルージュ』という名前は、赤い目の色から付けた。黒い髪の色に因んだら『ノワール』になってしまうからでもある。

ルージュ(赤)という名前は、ネージュ(雪)=白、と良い対比でもあった。

* * *

ルージュは、不思議なことに、すぐに700672号に懐いた。元からいたネージュも、彼女を受け入れたようである。

「ルージュ、これからよろしくね」

「はい、ネージュおねえさま」

その仲睦まじい様は、元々姉妹だったかのようである。

「この子は作られてすぐに外に放り出されたようだな。基本的な情報しか与えられていない。ゆっくり育てていけば、いろいろ役だってくれるだろう」

700672号がルージュを検査しながら説明した。

そうした検査にも嫌がらず素直に従っているところを見ると、彼女を作ったのが700672号と同じような『従者』である可能性が浮上してきた。

「えーっと、『ヌバリ鉱山』の近くにも貴方のような存在がいるというんですか?」

「然り。吾の主人たちはあちらこちらに散らばった。その幾人かがそちらの大陸に移り住んだとしてもおかしくはない」

今よりも 自由魔力素(エーテル) 濃度が濃い時代であれば、何とか棲めたのかもしれない、と仁もその可能性に納得した。

「ですが、どうしてアルシェルをモデルにしたのでしょう? それに、だとしたら本物のアルシェルはどこに?」

この質問には、700672号も明確な答えがなかった。

「モデルがいた方が外見を作り易い、という程度しかわからぬ。モデルになった少女については更にわからぬ」

「そうですか……」

仁がマルシアをモデルにアローを、ビーナをモデルにロッテを作ったようなものらしい。

アルシェルの行方を知る重大な手がかりかと思っていたが、そうでもなかったようだ。

「ところで、貴殿は天文についてはどのくらいの知識がある?」

突然変わった話題に、仁は一瞬面食らったが、すぐに気持ちを切り替えて返答した。

「ええと、基本的には、恒星、惑星、衛星とか、自転・公転などですね。この世界の星についてはほとんど知りません」

「そうか。……最近、明るい星が夜空に見えていることは気が付いているかな?」

「あ、はい。何度か見ています」

「よろしい。あれは、『長周期惑星』だ」

「『長周期惑星』?」

聞き慣れない単語に、仁は尋ね返した。

「うむ。アルスを含む太陽系……太陽『セラン』の他の惑星と同じ黄道面に沿って公転している惑星だが、長楕円軌道を描いている」

仁は、ハレー彗星などの長周期彗星を思い描いた。こちらは惑星だという。

「公転周期はおよそ1204年だ」

途轍もなく長い周期である。

「吾が知っている限り、過去に4回、接近した。4回ともこの星、アルスからかなり距離があり、何ごとも起きなかったが、今回はかなり近くを通ると思われる」

「そうなんですか?」

「うむ、アルスと太陽セラン間はおよそ1億5000万キロメートルだが、これを1天文単位とするなら、0.4天文単位くらいの距離を通過しそうだ」

宇宙的に見たらゼロに等しい距離である。

「何が起きるかわからん。また、何を準備しておけばいいかもわからん。ただそうした可能性がある事を貴殿に知らせることしかできぬのが歯がゆいが、な」

「いえ、それでも助かります。ありがとうございます」

天文学に関して仁は素人だ。天体の軌道計算などできそうもない。700672号からの情報は正直有り難かった。

「今、軌道上に監視衛星を打ち上げてあります。地上の監視が主ですが、宇宙空間も見ることができますから、観察を始めましょう」

700672号は微笑んだ。

「ほう、そのような技術を既に開発していたか、さすがだな」

「それで、接近するのは何月頃になるでしょう? それから、その天体の大きさと質量はわかりますか?」

仁は更に詳しい情報がないか尋ねてみた。

「うむ。おおよそ9月から10月頃になると思われる。大きさと推定質量はほぼこのアルスと同等だ」

あと半年ちょっと、ということになる。それまで何ができるのか。仁はじっくり考えて見ようと思った。

「いろいろありがとうございました。今日の所は帰ります」

「うむ、また来るがいい。いつでも歓迎する。そして、『ルージュ』のことは任せておくがいい。ネージュも妹ができて喜んでいるしな」

「はい、よろしくお願いします」

そして仁は 転移門(ワープゲート) を使い、『しんかい』へ。蓬莱島へは戻らず、『コンロン2』の 転移門(ワープゲート) へと移動し、そっと首都エサイアの王城内にある客室へと戻ったのである。