軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-06 贈り物製作

「これと、これを使わせてもらえるかな」

仁が指差したインゴットを見たヤルマーは感心したように唸った。

「うーん、さすがジン殿ですね。どちらも純度の高い良質の鉄です。片方は鋼、もう片方が軟鉄なのは……複合材ですね?」

ラインハルトの『 黒騎士(シュバルツリッター) 』が持っている剣を見ていたヤルマーは、すぐにその結論に至ったようだ。

「そうです。ではこれをいただきますよ」

「ええ、どうぞ」

そして仁は早速、それらを使って剣、いや刀を作り始めた。

「ほほう、面白い形ですね。突くよりも斬ることに特化した形のようだ」

なかなか剣に関する造詣も深い。仁は微笑みながらも無言で仕上げていった。

「お見事です」

出来上がったのは、日本刀よりは幅広の曲刀に分類される刀身。

ただし、シミターやシャムシールと呼ばれる曲刀のほとんどが、刀身の半ばから曲がっているのに比べ、こちらは手元から少しずつ曲がって、いや反っていた。

きれいな円弧よりも、やや手元の方が曲率が大きめで、先端ほど曲率は小さい。

『蘭の葉が枝垂れたよう』と形容されることもある日本刀の美しさを継承しつつ、洋風に仕上げた刀身である。 鎬(しのぎ) (刃と 鎬地(しのぎぢ) を区切る線)は無い。

幅は本来の日本刀の倍近くあるので、その分厚みを減らしたことにより、使い方が悪いとすぐ折れるか曲がるかするだろう。が、半ばコレクション用であり、使うとすれば達人級のグロリアが、であるから、その点はあまり心配していない仁である。

「切れ味も良さそうですね」

傍で見学しているヤルマーが褒めた。

鞘と鍔、柄も西洋風の軍刀に仕上げて完成だ。

仁がお礼として金貨5枚を差し出すと、その4枚を返しながらヤルマーが言った。

「いいものを見せていただきましたから」

「……エルザはどうしたかな?」

曲刀を簡単に梱包した仁が工房の奥を眺めると、ちょうどエルザが歩いてくるところだった。

「私も、できた」

箱に収めたペンダントトップを仁に見せるエルザ。

中央にはまっている石は、青紫色に輝き、シンシアの目の色によく似ていた。

「『ゾイサイト』という石だそう。シンシアさんの目の色とよく似ているのでこれにした」

全体を銀で作り、金を要所要所にアクセントとして使ったペンダントトップ。

「ふうん、いい色だな」

ゾイサイトは、地球ではアフリカのタンザニアで多く採掘されるので別名をタンザナイトともいい、ティファニーが売りだして人気になった石であった。

仁はそんな事までは知らないが、サファイアとはまた違う、紫がかった青がきれいだな、と素直に思ったのである。

「エルザ様の手際が素晴らしかったです!」

メイベルもまた、エルザのファンになったようである。

「……少し疲れた」

部屋に戻ったあと、エルザはぐったりしていた。

聞くところによると、エルザがペンダントトップを作っている間中、メイベルが傍で褒めちぎっていたそうだ。

「ま、まあ、とにかく、頼まれた物も完成したし、まずは良かったじゃないか」

「……うん」

時刻は午後10時になった頃。仁とエルザは休むことにした。

* * *

3月5日。

真冬に比べ、幾分夜明けが早くなってきたことを感じる頃。

早朝の王宮内、客室棟に足音が響いた。

「ジン殿! エルザ!」

ノックしながら名前を呼んでいるのはフリッツである。待ちきれなくてやって来たらしい。

「フリッツ様、もう少しお静かに」

フリッツを招き入れた礼子が窘めるように言った。フリッツは頭を掻きながら詫びる。

「す、すまない。それで、できたのだろうか?」

謝罪の言葉もそこそこに、用件を切り出すフリッツである。

「ええ、昨夜のうちに完成しておりますよ」

そのとき、寝室に通じるドアが開いて、基本的に早起きな仁が顔を見せた。

「フリッツさん、おはようございます」

「おお、ジン殿、おはよう! で、依頼した物は……」

「できています」

仁はそう告げた後、寝室へ戻り、細長い包みを持って出てきた。

「簡単に梱包してあります。一度見てもらってからちゃんと包もうと思って」

と言いながら包みをフリッツに手渡した。その包みを大急ぎで開いたフリッツは、曲刀を手に取ってみる。

「ふうむ、変わった形だな」

「剣でなく、刀と言います。反っているので曲刀、ですね」

「抜いてみても?」

一言仁に断り、承諾を得てから、フリッツは『曲刀』を抜いてみた。

「おお……!」

銀灰色に光る鋼の地肌に刃紋が浮かび上がっていた。

「これは切れそうだな! グロリア殿も喜ばれるだろう」

曲刀を鞘に戻したフリッツは、

「シンシア殿向けの贈り物はできたのだろうか?」

と、間髪入れずに尋ねてきた。

「ええ、エルザが作り上げましたが……」

「そうか! エルザ!」

仁が言い終わらないうちに、フリッツは仁が出てきた寝室に駆け込んだ。

と思ったらすぐに出てくる。

「ジン殿! エルザがいないぞ!」

仁は溜め息をついた。

「エルザは隣の寝室ですよ……って、フリッツ殿!?」

今度は隣の寝室へと駆け込むフリッツ。

「きゃあ」

エルザの悲鳴が上がり、フリッツが飛び出してきた。その後ろから枕が飛んでくる。

「フリッツ殿……」

もう一度溜め息をつく仁であった。

「……まったくもう、兄様は」

寝ていたところへフリッツに乱入されたエルザは膨れっ面をしている。

「悪かったよ。だけど昔は一緒に寝てやったこともあったじゃないか」

「む、昔は昔。今は今」

「大体だな、ジン殿と一緒のベッドだと思うじゃないか。それが違う部屋にいると聞けば、もう起きていると思うのが当然だろう?」

だがエルザは頬を染めて兄フリッツを睨み付けた。

「それは兄様の理屈。まだ式を挙げていないのだから、私たちは寝室は別々」

「何!? 子供か、お前ら」

言ってから、しまったと口を噤むフリッツ。

「……兄様には絶対に、言われたくない」

エルザはそう言いながら兄を睨み、箱を差し出した。フリッツはそれを受け取り、蓋を開けて微笑みを浮かべる。

「いい出来だ! さすがだな、エルザ。さすが我が妹!」

「……もう、調子いいんだから」

そして最後にもう一言。

「兄様の本命は、どっち? グロリアさん、それともシンシアさん?」

だが、妹のそんな言葉にもフリッツは動じない。

「ん? 本命って何だ?」

と言い、曲刀を持ち、ペンダントを大事そうに懐に入れると、

「では、ジン殿、エルザ。朝からお騒がせした!」

と言って頭を下げると、慌ただしく部屋を出て行ったのであった。

「……あれでよく中佐にまでなれたな……」

礼儀作法に頓着せず、人のいい仁と、幼い頃から彼の 為人(ひととなり) を知っているエルザ。

加えて、身内(と、近いうちに身内になる)である2人であるから笑って済んでいるが、これが他の国の 魔法工作士(マギクラフトマン) や使節だったら、国際問題になってもおかしくないくらいに礼儀を失している。

「ん、兄様は、時々周りが見えなくなるけれど、基本的に冷静。特に、重要な場面では」

「とてもそうは見えない……」

仁の正直な人物評であった。